少なすぎたコロナ検査、スイスの第2波阻止できず
初春の新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の第1波は比較的無傷で乗り越えたスイスだが、今秋の第2波では大きな打撃を受けた。理由の1つに検査不足が挙げられるが、スイスでの検査数が隣国と比べ少なかったのは何故か。
スイス連邦政府は6月24日、全26州で新型コロナウイルス感染症の検査費用を全額負担すると発表した。政府は、システムを簡素化し、費用負担を恐れて検査を避ける人が出ないようにするのが狙いだと説明した。
こうして感染検査は、連邦議会によって可決されたコロナ封じ込め策「TRIQ戦略」(検査、接触者追跡、隔離)の中でも、とりわけ重要な意味を持つようになった。この戦略があれば、来たる感染の第2波は抑えられると期待されていた。
だが5カ月後、この戦略が失敗したのは明らかだった。実際は検査へのアクセスがあまり簡素化されず、全員が無料で検査を受けられるわけでもなかった。同時にスイスは(主にフランス語圏の州、特にジュネーブ)、欧州で最もパンデミック(世界的大流行)の被害を受けた地域の上位5位に繰り返し登場するようになった。
無料検査の条件が厳しすぎるスイス
連邦内務省保健局(BAG)は9月18日に公表したコロナ関連のファクトシート(概要説明書)の中で、国がPCR検査の費用を負担するための3条件を明らかにした。それによると①Covid-19の症状がある②スイスのコロナ接触追跡アプリ「SwissCovid」から通知を受けた③感染者と「濃厚接触」した後に州医から検査を受けるよう指示された、のいずれかに該当することが条件となる。
スイスはこれにより、少なくとも隣国ドイツ・フランスと比べ、はるかに厳しい基準を採用した。ドイツでは、たとえ無症状であっても陽性者と濃厚・遠距離で接触した人、感染の危険性が高い地域の住民、または危険地域から戻ってきた人も無料で検査を受けることができる。
フランスでは、健康保険制度に登録している人は誰でも無料で検査を受けられる。医師の処方箋も必要ない。症状の有無とは関係なく、海外渡航時にコロナ陰性証明書が必要な人も無料で検査を受けられる。
予約だけに最大2日の待ち時間
これに対し連邦内務省保健局は、TRIQ戦略は国の推奨に過ぎず、「どう実施するかは各州の責任」で、「これらの基準は州が独自に調整できる」と指摘する。例えばジュネーブでは無料で検査を受けたい場合、州当局が指定する6つのセンターのいずれかに行く必要がある。
ジュネーブ大学病院(HUG)では今秋、予約を入れるのに最大2日も待たされた患者もいた。同病院の成人向けCovid-19検査センターの責任者、フレデリック・ジャックリオ助医は「9月以降から11月中旬のピークに至るまで、患者数は右上がりで増加していた」と言う。
「患者に最善のサポートを提供できるよう、大学のホームページでは患者の重症度に応じ治療の優先度を決める選別手順を導入した。予約を入れる際、患者はまずオンラインの質問票に答え、病院側はそれを元に医学的な診断が必要かどうか、どの病院で検査を受けさせるべきかを判断する」
だが検査センターのキャパシティー不足から、検査を受けるために民間の研究所を利用したり、100フラン(約1万1500円)以上の自己負担が発生したりした患者も数多くいた。
遅すぎた対処
ジュネーブの例はともかく、スイスは総じて「今夏、国民に対し十分な検査を行わなかった」と、同大学病院で感染予防・管理部門の主任医師を務めるディディエ・ピテ教授は言う。そしてスイスは感染がここまで蔓延するとは想定していなかったと指摘する。
英オックスフォード大学のデータによると、スイスでは7月11日~8月29日の約1カ月半の間に検査を受けた人は週平均で1000人中5.3人だったのに対し、フランスやドイツでは8人、米国では何と17.6人だった。ピテ教授はまた、夏の間、スイス当局や国民の間にある種の「気の緩み」があったと言う。
オンラインで診察予約ができるスイス初のプラットホーム「ワンドック(Onedoc)」の共同創設者アルチュール・ゲルマン氏も、「第2波が広がる速さには、皆が驚いていた」という印象を持つ。「初夏には、新型コロナウイルスの流行がほぼ終息したものと思い込んでいた」。だが夏が終わる頃、PCR検査の予約に対処しきれなくなった大病院がワンドックに支援を求めてきたという。「その時点で初めて、自分たちの置かれた状況が明らかになった」
現在、ワンドックはスイス全体で50以上のPCR検査センターを仲介している。11月末までに10万5000件以上のオンライン予約が成立した。「前もって事態を想定しておくべきだったのは確かだが、それでもかなり迅速に対応できたと考えている」とゲルマン氏は言う。
抗原検査への問い合わせが殺到
では抗原検査はどうか?スイス連邦政府は10月28日、話題の「抗原簡易検査キット」が翌週にも薬局で購入できるようになると大々的に発表した。これを受け11月初旬、我々はジュネーブの薬局を数軒訪れたが、この需要に対応できていた薬局は一つもなかった。
「事前に何も聞かされておらず、政府記者会見の翌日は多数の問い合わせの対処に追われた」とジュネーブで薬剤師アシスタントとして働くジュリアさんは言う。「それから数日後にやっと、検査の実施に必要な器具や知識を得るために、受付リストに登録するよう州薬局の担当者から回覧状が送られてきた」
しかしジュリアさんの薬局には、未だにこの件に関するフィードバックがない。swissinfo.chの問い合わせに対し、州薬局の担当者は11月末から順次、域内薬局への検査キット配布が始まると回答した。
国レベルでも状況は似たり寄ったりだ。11月中旬に抗原検査キットを入手できた薬局はスイス全体で4軒だけだった。これは、保健行政を管轄するアラン・ベルセ内務相が掲げた「1日当たりの検査5万件」という目標からかけ離れている。この点でも、スイスは欧州の隣国に遅れをとっている。フランスでは、国内の5割以上の薬局で抗原検査キットが購入できるよう、薬剤師組合連合会が手配した。またドイツでは、9月末から薬局や研究所で抗原検査が受けられる。
精度は低いものの、抗原検査はCovid-19との戦いにおいてPCR検査を補う貴重な手段だ。検査件数を大幅に増やせるほか、感染の連鎖をいち早く断ち切ることができる。特にスロバキアが11月上旬に実施したような大規模なスクリーニング検査を行う場合に役立つ。「スイスの検査センターや薬局は、ようやくそれを理解した」とゲルマン氏は言う。「現在はこういった需要にも応えられるよう、万全の態勢を整えている」
(独語からの翻訳・シュミット一恵)
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