トランプ新政権や金正恩政権の動きが、27日からスイスのジュネーブで開催されている国連の人権理事会で注目を浴びている。国際的な人権問題に対する取り組みが後退するとの懸念があるからだ。それと同時に、改めて人権理事会の仕組みの弱点が浮き彫りとなっている。
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横浜市出身。1999年からスイス在住。ジュネーブの大学院で国際関係論の修士号を取得。2001年から2016年まで、国連欧州本部にある朝日新聞ジュネーブ支局で、国際機関やスイスのニュースを担当。2016年からswissinfo.chの日本語編集部編集長。
米国、 人権理事会を離脱か?
27日から始まった人権理事会に出席する米国。即時に同理事会から脱退する様子はないものの、米国の政治報道機関ポリティコ(Politico)は25日、「トランプ政権は国連人権理事会からの離脱を検討している」と伝えていた。人権理事会の存在に対し「懐疑的」だからだ。中国やサウジアラビアといった人権を侵害する国が人権理事国となっていることや、理事会での議論がイスラエル非難に偏向したりしていることをその理由として挙げている。
このことに関して 、ジュネーブの国際機関スイス代表部で人権担当のヴァレンティン・ツェルヴェガー大使は、「結論を出すには時期尚早だが、この政権は今のところ予測不可能。しかし、注意すべきだ。移行の一環初期には、まず不確定があるものだ」とスイスインフォに語る。
そうした背景の下、ゼイド・ラアド・アル・フセイン人権高等弁務官は27日、人権理事会初日の冒頭演説で、「国際連盟の時代のように、多国間システムを脅かすか、あるいはそこから脱退しようとする政治指導者には、歴史が警鐘を鳴らすはずだ」「私たちの権利、他の人の権利、地球の未来は、これらの無謀な政治家の脇に投げ捨てられてはならない」と主張した。
法的拘束力のない勧告
一方、今会期の人権理事会で他にも注目されているのが、北朝鮮の人権問題。韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が、ジュネーブの人権理事会に急きょ出席し、2週間前に起きたマレーシア空港での金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件も引き合いに出し、北朝鮮を非難した。演説で尹外相は、「これらすべての行為は、北朝鮮が当事者となっている様々な国際人権法規の重大な違反に当たる。これはルールに基づいた国際秩序への挑戦でもある」と発言した。同外相は、北朝鮮での人権侵害に対する責任訴追を国際社会に求め、「国際刑事裁判所(ICC)に持ち込むべきだ」とも理事会で訴えた。
日本や欧州連合が共同で、北朝鮮の人権侵害を厳しく非難する決議案を提出する予定だが、人権理事会の勧告や決議案は法的拘束力がないため、国際刑事裁判所で訴追する動きが見られる。
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金正男氏のスイス時代の友人、毒殺の理由を推測 ジュネーブ地元紙に語る
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金正男(キムジョンナム)氏とは80年代からジュネーブで学友だったというアントニー・サハキアンさんによると、正男氏は政権奪取の野心は持っていなかったが、身の危険を感じていたと話す。その人物像を語るスイス地元紙は、マレーシアでの殺害事件は、中国が支援する正男氏が北朝鮮の指導者となるのを恐れた何者かによって毒殺されたのではないかとの見解も示している。
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キムジョンナム)氏(46歳)がマレーシアの空港で毒殺されたとされる事件を受け、正男氏とはティーンエイジャーの頃から友人だったというアントニー・サハキアンさんが、ジュネーブにいた金正男という人物がどんな人だったのかを複数のメディアに語った。
正男と正恩の兄弟は、2人ともスイスで教育を受けたとされる。異母弟の正恩氏はスイスの独語圏ベルンにある公立学校に通っていたのに対し、正男氏はスイス西部仏語圏ジュネーブの私立学校「インターナショナルスクール」へ長年通っていた。ジュネーブの地元紙などによると、正男氏は生前ジュネーブを度々訪問。ここ2年間もジュネーブを頻繁に訪れ中心街で目撃されたことがあるという。
金正男は政権奪取の野心はないが身の危険を感じていた
ジュネーブの学校で正男氏とクラスメートだったというアントニー・サハキアンさんは、「金正男は権力に興味はなかったが、政治上の立場により、身の安全が脅かされているのは知っていた」と話し、今回の事件を「平壌に蔓延っている偏執病的な雰囲気の中で、王様 を喜ばせようとした誰かがやり過ぎてしまったのではないか。死者という贈り物を指導者に捧げたのかもしれない」との見解を24日付けのフランス語圏の日刊紙ルタンで述べている。
英紙ガーディアンの21日付けの記事によると、サハキアンさん44歳 は、正男氏とは12、13歳頃からの友人で、つい数カ月前にも 会ったばかりだという。サハキアンさんは、金正男氏が「国を支配する野心は持っていなかった。そこで起こっていることを嬉しく思ったり認めたりはしていなかった。政治体制とは一定の距離を保っていた」と説明し、同氏の性格については、「非常に寛大で、素晴らしく、とても親切で、フレンドリーで、陽気な子でした。私たちはやや甘やかされて育ったのだけれど、ごく普通の人だった」と振り返っている。
中国が支援する正男氏が北朝鮮の指導者となるのを恐れて毒殺されたか
スイスのルタン紙では、正男氏を「野心の無い男」と紹介した上で、「金正男とは、北朝鮮の指導者がその座を降りた日のために、中国が確保していたかった人物とみるのが正しいのではないか?」とし、「金正男は、国内であまり知られていなかったものの、彼に忠実な特に軍隊の仲間からは尊敬されていた。北朝鮮政権の創始者である祖父の金日成(キムイルソン)の息子の長男である正男が、神聖な相続人として、平壌で権力争いが再び起きる可能性はあった。しかし、金正恩は権力の座に着くや数年のうちに、叔父の張成沢を裁判で処刑したような壮大な粛清を実行しながら、確実に権力を行使する方法を身につけていった」と解説した。
北朝鮮の現在の支配体制にとってもはや脅威とはなっていなかった正男氏の謎の死は、正男氏が中国政府の保護下にあったことで、地政学的な利害関係と相まって様々な憶測を呼んでいる。
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国民の9%の反対で否決?スイスの一票の格差、連邦主義の代償
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米国のドナルド・トランプ新政権が始動した。大統領選では対抗馬のヒラリー・クリントン氏が得票数を上回ったにも関わらず、当選したのはトランプ氏という逆転現象が起きた。背景には、連邦主義に基づく選挙制度により、国民一人当たりの票の重みが州ごとに異なる「一票の格差」が深く関係している。一票の格差は日本でも根深い問題だが、実はスイスも似たような状況にある。
昨年11月の米大統領選では、クリントン氏が得票数でトランプ氏を約290万票上回ったが、獲得選挙人はトランプ氏が30州で計306人、クリントン氏が20州と首都ワシントンで計232人とトランプ氏が逆転。米大統領選は州ごとに選挙人が割り当てられ、州ごとの一般投票で1位になった候補がその州の選挙人を総取りする。結果、選挙人を多く獲得した方が当選する仕組みだ。
選挙人の数はカリフォルニア州で最多の55人、最も少ないのはアラスカ州などの3人だが、住民一人当たりの選挙人の数を比べると農村部の州の方が都市部の州より多い。つまり農村部の一票の価値は、都市部より重いということになる。
スイスにも、連邦主義に基づいた人口の少ない州への優遇措置が2つある。
全州議会(上院に相当): 議員は各州から2人(準州は各1人)。人口は考慮されない。
州の過半数: 憲法改正には有権者の過半数のほかに、26の州・準州による過半数の賛成が必要(州は1票、準州は0.5票とカウント)。州の賛否は、州内の有権者の過半数を賛成すれば賛成、逆なら反対となる。このため全有権者の過半数が賛成しても、州の過半数の賛成が得られず提案が通らない「州の過半数の原則による否決」と呼ばれる現象が起きる。この原則により理論上は、スイスの全有権者のわずか9%(人口の少ない11.5州の全有権者の半数にあたる)の反対で、憲法改正の提案を拒否できることになる。さらに、スイスで最も小さいアッペンツェル・インナーローデン準州の有権者が投じる一票の価値はチューリヒ州の39倍重い。
スイスの小さな州はほとんどが農村地域だが、連邦主義が農村地域を優遇している。
都市部と農村部の違い
とりわけ問題なのは、都市部と農村部の支持政党が異なる点だ。スイスでは、都市部は左派、農村部は右派政党を支持する傾向にある。
政治学者でブロガーのサンドロ・リュッシャー氏は、2007年から16年末までに国内で行われた投票結果について、チューリヒ市と全スイスで比較。それによると賛成票を投じた割合は両者の間で平均9.2ポイントの開きがあった。また、チューリヒ市の有権者の投票結果が反映されなかったケースは82件のうち16件(約19.5%)に上った。
都心部と農村部では投票傾向が異なるため、チューリヒ、ルツェルン、ベルン州では都市部だけを切り離して独立した準州にする案が持ち上がっている。
フランス語圏は手厚い保護
国民の一票の重みが不均衡なシステムを、スイスはなぜ導入したのか。それは1847年に起こった分離同盟戦争までさかのぼる。同戦争は、カトリック系保守派の7州が自由主義者に対抗し、同盟を結んだことが発端。内戦は死者150人を出し、保守系が敗北した。だがその後の連邦国家樹立にあたり、保守系の離脱を恐れた主流派が、少数派への優遇措置として「州の過半数の原則」を与えた。そのシステムが現在も残っているというわけだ。
公民権に詳しいザンクトガレン大のライナー・J・シュヴァイツァー名誉教授は、フランス語圏の州の存在が大きく関与していると指摘する。同氏によれば、「1872、74年の連邦憲法改正の際、州の過半数の原則と全州議会の議席数を見直し、人口比にするべきかという議論がなされた」が、人口的に少数派のフランス語圏の州を考慮し、実現しなかったという。さらに「バーゼル・シュタット準州とバーゼル・ラント準州について、全州議会の定数を現行の1から2にし、州の過半数も2票にしようという試みはあったが、フランス語圏の州の一票の価値が軽くなるという理由で実現しなかった」(シュヴァイツァー氏)。
ただ、複数の州では人口が急増し「一票の格差是正を難しくしている」のが現状だと同氏は話す。格差の是正は国全体を巻き込む議論になる。だが、たとえ州の過半数の原則を廃止しようとしても、小さな州が反発し、憲法改正手続きで否決される可能性が大きい。
少数派を保護するべきか
小さな州やフランス語圏の州が人口比に基づく州の格付けに反対するのは、あながち間違ってはいない。これらの州が政治に求めるものが、都市部やドイツ語圏の州と異なっているからだ。
極端に言えば、多数派による独裁か、少数派による独裁のどちらを選ぶかだ。「一人一票」の下ではチューリヒ、ベルン、ヴォー、アールガウなどの人口の多い州の票が、グラールス、ジュラ、シャフハウゼン、ウーリのような小さな州を常に上回る。そうすれば案件の賛否は全人口の7割以上を占めるドイツ語圏の思い通りになる。
しかし、小さな州を優遇すれば逆のことが起こる。出口のないジレンマだ。まさにスイスのような多様性に富む国家が抱える問題といえる。
「一人一票」を支持するか、それとも少数派を優遇するべきか、どちらだと考えますか。皆さんのご意見をお寄せください。
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ジュネーブで教育を受けた金正男氏 暗殺?
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スイスで教育を受けたことで知られる金正男(キムジョンナム)氏が13日、マレーシアの空港で急死した。韓国メディアは、北朝鮮の朝鮮労働党委員長・金正恩(キムジョンウン)氏の異母兄である金正男氏が、計画的に毒殺されたと報道している。マレーシアでは依然人物を特定できないとする中、捜査が進められている。そんな中、スイスのメディアはこの事件をどう報道しているのか?また、国際都市ジュネーブにある国連では北朝鮮の最近の動向をどうとらえているのだろうか?
13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で、北朝鮮の金正恩氏の異母兄、金正男氏と見られる北朝鮮国籍の男性が急死したことを受け、韓国統一省は、殺害された人物が金正男氏だと判断して捜査している。韓国では、南北関係にも大きな影響を与える大統領選挙が近づき、政界では北朝鮮情勢への関心の高まりが強まる中で、金正恩政権の反人道的な事例として、この事件を大きく取り上げているようだ。また、米国政府は、金正男氏の詳しい死因を断定できていないものの、北朝鮮の工作員によって殺害されたとの見方を強めていると報じられている。
一方、北朝鮮は依然として事件について報じていない。また、北朝鮮と二国間関係を維持しているマレーシア政府は、現在捜査を進めているが、死亡したのが正男氏だとは特定していない。
スイス・メディアの報道
スイスのドイツ語圏の日刊紙NZZは14日、「金正恩の異母兄、マレーシアで毒殺」という見出しで、「かつては金正日(キムジョンイル)の後継者候補ともされていた金正男が、金正恩の怒りをかった。北朝鮮の独裁者の異母兄である金正男がマレーシアで毒殺された。かなり年齢の離れた異母兄は、金正恩に対して批判的な立場だった」と報じた。また、金正男は「金正恩について、国家元首としてはあまりにも経験が浅く、また、若いために長続きはしないと繰り返し過小評価しており、この批判が、金正男の命取りとなった可能性がある。2011年のインタビューで金正男は、マカオで暗殺されそうになったとして、自身の生命が危険にさらされているとほのめかしていた。13年には、北朝鮮のかつてナンバー2であった彼の叔父、張成沢が処刑された」とも報道した。
フランス語圏の日刊紙ルタンは、「金正恩の兄の奇妙な死」と題して、「10年以上にわたり亡命中であった金正男は、クアラルンプールで月曜日に急死した。韓国は暗殺だとしている」と伝えた上で、スイスでの教育に触れた。「金正男は、北朝鮮の元指導者・金正日の長男だった。異母弟の金正恩のように、一時はスイスで教育を受け、ジュネーブのインターナショナル・スクールに通った。一方で弟はベルン州で教育を受けた。北朝鮮へ帰国してからの数年間は、金正日の後継者と考えられていた」と解説する。続いて、偽造パスポートで日本への入国を試みたことに触れ、「2001年5月に成田空港で、同伴した女性2人と子供と共に逮捕されたことで運命が変わった」「このような事件の後、金正日は、長男を後継から外した」と述べている。
ジュネーブの国連欧州本部における北朝鮮
国連欧州本部で14日朝に行われた軍縮会議では、北朝鮮が12日に新型弾道ミサイルを試射したことを受け、「国際平和と安全への脅威であり、安全保障理事会の決議に反する」として金正恩政権に対する制裁を呼びかける発言が複数の加盟国からあった。
北朝鮮は、ミサイルの発射を「国家主権と人民の安全を守るための自己防衛策」とするのに対し、韓国は「このような挑発は、北朝鮮の不合理な性格とミサイルや核兵器に対する熱狂的な執着を実証しており、北朝鮮の非核化を望む国際社会の決意をさらに強くするものだ」と発言。また、米国は、新型ミサイル発射を「核の脅威」として北朝鮮を非難し、日本の高見澤大使は「挑発的な行動だ」として「強く非難」した。
ジュネーブの外交筋などによると、北朝鮮の最近の動向により、北朝鮮の国際戦略がますます不透明になっているという。
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金正恩氏のスイス留学時の住宅、発見
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北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長がスイスに留学していた当時に暮らしていた住宅が先日、発見された。住宅は首都ベルンにあり、北朝鮮の外交団が使用していた。近隣住民によれば、4人の少年が「いつもバスケットボールをしていた」という。
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