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総選挙大勝のスイス国民党に人種差別批判 刑事告訴も

国民党(SVP/UDC)は10月22日の連邦総選挙にあたり、移民との闘いに焦点を当てた選挙運動を展開した © Keystone / Laurent Gillieron

10月のスイス総選挙で大勝した右派の国民党(SVP/UDC)が刑事告発されている。選挙用ポスターやチラシが人種差別と移民への憎悪を煽る内容だったとされるが、同党は言論の自由を盾に反論する。

連邦人種差別対策委員会(EKR/CFR)は国民党(SVP/UDC)に対しヒアリングを実施。先月26日には「人種差別と反ユダヤ主義に反対する国際連盟(LICRA)」スイス支部や、アフリカ系子孫の団体「ハダル協会」も加わり、訴追を求める。

国民党のチラシ「人口1000万人のスイスにノー!」 RTS-SWI

問題になっているのは、国民党が展開する「人口1000万人のスイスにノー」運動の一環で国内全世帯に配布されたチラシだ。9月中旬に撮影された伊ランペドゥーザ島で待機するアフリカ系移民の写真に赤いバツ印をつけ、スイスの田舎に暮らす家族の姿と対比させたものだった。

この広告は「外国人犯罪」や「外国人グループによる暴力」だけでなく、「住宅の密集」や「交通渋滞」への危機感を煽っている。

「人種差別的なイデオロギーを広める」選挙活動

LICRAやハダル協会はこうした家族像に激怒する。国内の全世帯の郵便受けに「憎悪のメッセージ」が配布されたことは、スイスに住むアフリカ系移民に対する差別だと非難している。両団体は10月26日、国民党を刑事告発したと発表した。

LICRAスイスのフィリップ・ケネル代表は同日、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)の討論番組で「国民党は明らかに人種差別的なイデオロギーを広め、人種差別的な選挙運動を行った」と憤った。党員や同党支持者が本質的に差別主義者かどうかの問題ではなく、こうした選挙運動のせいで「尊厳と道徳的資質を踏まえると、国民党はもはや傾聴に値しない」と主張した。

国民党ヴォー州支部のケヴィン・グランジェ支部長はこの番組で、ランペドゥーサ島からの移民とチラシに列挙された問題点と具体的にどう関係があるのか問われると、同党が提起した「大量移民反対イニシアチブ(国民発議)」が2014年2月の国民投票で可決されたことを引き合いに「現在起こっていることはすべて、すでに非難されている」と反論した。「当時と同じ問題なのに、今の国民は解決したがらない」のが「現実」だとしたうえで、「人々はそれを見ている」と主張した。

表現の自由?

その他の選挙広報物も物議を醸している。難民政策と治安悪化の因果を想起させる「ニューノーマル(新常態)?」と題したポスターもその1つだ。「難民による混乱」への嫌悪感を煽るスローガンとともに、外国人による暴行事件を思わせるような武器を振り回す男性の写真を使ったものだ。

国民党の広告「ニューノーマル?」 SRF-SWI

連邦人種差別対策委員会は先月、この選挙活動が人種差別的で外国人排斥的であるとみなし、国民党に放送を中止するよう要請した。だが国民党はそれが検閲に当たり、表現の自由に対する攻撃であると反論した。

グランジェ氏はRTSで「私たちは選挙活動で単に事実確認をしただけだ。過去3カ月間に起こったこと、スイスに『輸入』された犯罪の現実を反映するあらゆるニュースを参考にした」と主張した。さらにこれは「氷山の一角」にすぎないと強調した。

2つの反人種差別団体も先月22日の選挙前に、社会民主党(SP/PS)ローザンヌ市議会のサムソン・イエマネ氏を通じて国民党を刑事告発した。

衝撃的な車内広告

ジュネーブの国民党が使った警察の安全に関する広告物 RTS-SWI

4月に行われたジュネーブの州選挙や警察の安全啓発キャンペーンで、国民党が使った広報物に対しても地元の弁護士が刑事告発しており、審理が始まった。これは覆面のアフリカ系男性が警察官に手錠をかけている様子を描いたものだった。

ジュネーブ公共交通(TPG)によると、この画像はジュネーブの公共交通機関で宣伝されたが、利用者から多数の苦情が寄せられたため中止されたという。

仏語からの翻訳:ムートゥ朋子

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