スイスの大銀行、犯罪対策が不十分?
スイスの銀行大手クレディ・スイス(CS)が、国際的な不正取引に関わったとして金融当局の勧告処分を受けた。ただ営業停止や罰金などの処分がなかったことに首をかしげる専門家もいる。
スイスの金融機関を監督する連邦金融市場監査局(FINMA)外部リンクは先月17日、CSに2件の資金洗浄(マネーロンダリング)法違反があり、勧告処分を下したと発表外部リンクした。
二つの不正はいずれも2006~16年に起こった。1件目は「マネーロンダリングを防ぐために注意を払う義務を怠った」。国際サッカー連盟(FIFA)やブラジル国営石油会社ペトロブラスとベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の汚職事件にCSが関わったという。2件目はある政治的な影響力を持つ匿名人物(PEP)外部リンクとの取引だ。
FINMAは、CSが15年以降マネーロンダリングを防止するためにいくつもの措置を講じ、「実質的に改善した部分もあった」ことは認める。だが法的に全く問題がない状態ではなく、さらなる対策が必要だと指摘した。
加えて、審査機関に委託し、15年以降に講じられた措置やさらなる対策の実施を検証し、それらの妥当性や効果を調べる方針だ。
CSも報道発表外部リンクでFINMAが公表した内容を認めた。一方、今回の勧告で「罰金や利益の返納、営業活動の制限などは命じられなかった」ことを強調した。
厳しくなるFINMAの目
FINMAが処罰するほどでもないことを取り立てて発表したのはなぜか?「『大きすぎて潰せない』と位置づけられる大銀行ですら、法律が求める注意義務や報告義務を満たしていないのは驚きであり、不安を禁じえない」。国際NGO「トランスペアランシー・インターナショナル」スイス支部外部リンクのマルティン・ヒルティ代表はこう語る。
ヒルティ氏は「ただFINMAがティチーノ州立銀行(BSI)のような小さい銀行だけでなく、大銀行についても同じようにしっかり検査しているのは良いことだ」とも述べた。
スイスのNGO「パブリック・アイ外部リンク」のマルク・グエニアット氏も、FINMAが大銀行にも厳しく目を光らせていることを好感する。今回のように調査内容を公表することもこれまでは稀だった。
一方で今回発表された違反は「簡単な事案ではない。(FIFA、ペトロブラス、PDVSAの汚職事件は)3つの大きな不正事件で、CS側にも深刻な問題がある」とも強調した。
厳しい検査、甘い処罰
スイスは顧客の口座情報を国家権力にも明かさないという秘密主義を返上し、17年に先進国間で住民の口座情報を交換し脱税を防ぐ自動的情報交換制度(AIE)が始まった。このため先進国ではお金の流れの透明化が図られているが、AIEに加わっていない途上国では、富裕層資産を管理するウェルスマネジメントを手がける銀行が犯罪資金に関与するリスクが依然として高い。
グエニアット氏は「この4~5年でスイス金融市場に起きた大きな不正事件は、起きるべくして途上国で起きた」と指摘する。「マレーシアの政府系ファンド1MDBやペトロブラスの不正には40行以上のスイスの銀行が関与した。PDVSAやベネズエラなど資源関係の不正も多い」
その背景には「業務上あるいは金銭的な処罰がとにかく緩い」(グエニアット氏)ことがある。例えばスイスのプライベートバンク、ヘリテージの幹部は、ペトロブラスの事件に関して罰金を科されたが、一月分の給料で十分支払える額だったという。
法の抜け穴
トランスペアランシー・インターナショナルのヒルティ氏は、処罰が緩いことだけでなく、法律の抜け穴の存在も指摘する。
ヒルティ氏は「顧客の要請が経済的な正当性に適合しているかの検証をスイスの金融仲介機関に義務付けるべきだ。また過去の情報にまどわされないよう、顧客データを常に更新する義務も必要だ」と話す。
テロ資金の根絶を目指す国際組織「金融活動作業部会(FATF)外部リンク」が16年にまとめたスイスに関する報告書は、他にも改善点があると指摘する。「資金洗浄防止法の適用範囲は、金融仲介やリスクのある活動以外にも広げる必要がある。特に弁護士事務所や公証人、信託会社や美術品・高級品販売業者は適用対象とするべきだ」という。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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