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高齢化がのしかかるスイスの年金制度

のどかな田園風景を眺めるカップル
スイスの年金制度は日本と同じく、高齢化の波に直面している Keystone

スイスでは24日、女性の定年年齢を64歳から65歳に引き上げることなどを盛り込んだ抜本的な年金制度改革案「老齢年金2020」が、国民投票にかけられる。スイスは日本と同じく社会の高齢化が進み、このままでは年金財源が破綻するおそれがあるため、政府は改革案を実現したい考えだ。ただ世論調査では賛否が拮抗している。スイスの年金制度はどのようなものなのか、日本と比較した。

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あなただったらどう投票しますか?

このコンテンツが公開されたのは、 24日は、女性の定年年齢の引き上げや食料安全保障の是非を問う国民投票がスイスで行われます。年金や食の安全について国民が判断する重要な節目になります。もしあなたが投票権を持っていたとしたら、どう投票しますか?

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 日本の年金制度は、全員が加入する国民年金(基礎年金)、会社員らが入る厚生年金に加え、任意の個人年金保険の3種類がある。

日本の年金制度は3種類

 国民年金(基礎年金)は国内に住む20歳以上60歳未満の全員に加入が義務付けられている。職業によって3つの種別があり、厚生年金に加入しない学生や自営業者の保険料は一律で月額16490円(2017年度)だ。学生や低所得者には支払いの猶予・免除制度がある。

 65歳になると加入期間や払った保険料の金額に応じた年金が支給される。日本年金機構によれば、保険料を上限の40年納めると、満額で年間77万9300円になる。60~70歳の間で受給開始時期を繰り上げ・繰り下げることもできるが、その場合は減額・増額される。

 厚生年金に加入している人の配偶者(被扶養家族)で、年収130万円未満の場合は国民年金の保険料を納める必要がない。

 70歳未満の会社員や公務員が加入する厚生年金は、毎月の給与と賞与に共通の保険料率をかけて保険料が計算され、加入者と事業主がそれぞれ半分ずつ(9.15%)負担する仕組みだ。国民年金の保険料はこの中に含まれる。

 保険料率は2004年から段階的に引き上げられ、2017年9月を最後に18.3%で固定された。退職後、国民年金に「老齢厚生年金」を上乗せした金額を受け取る。

任意の個人年金保険は、公的年金を補てんする目的で加入する積み立て式の私的年金のこと。民間の生命保険会社などがさまざまなプランを提供している。契約時に定めた年齢(60、65歳など)から一定期間、もしくは生涯にわたって一定金額が受け取れる。

スイスと日本の年金制度
swissinfo.ch

スイスも3本の柱

 スイスの年金制度は3本の柱からなる。1本目の柱は、日本の国民年金にあたる老齢・遺族年金と障害者年金だ。18歳で成人となるスイスでは、働いていて収入がある人は、満17歳を迎えた翌年1月1日から定年まで加入の義務が生じる(働いていない人は満20歳を迎えた翌年1月1日から)。スイスに住む外国人も対象だ。

 保険料は収入に応じて決まる。例えば会社員なら給与の10.25%で、本人と雇用者が5.125%ずつ支払う。

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 女性は64歳、男性は65歳になると年金が受け取れる。支給額は加入期間とそれまでに支払われた保険料の額によって決まり、一般的には月額1175フラン~最大2350フラン(約13万5千円~約27万円)。夫婦またはパートナー関係にある二人が受け取れる額は合計最高3525フランになる。

 2本目の柱は、日本の厚生年金にあたる企業年金だ。物価の高いスイスでは、老齢・遺族年金だけでは定年後、それまでの生活を維持することは厳しい。このために会社で積み立てる年金があり、一定額を超える年収がある人は加入の義務が生じる。保険料は収入に応じて異なる。

 3本目の柱は任意の個人年金だ。定年まで凍結された銀行口座への貯蓄や、民間の個人年金保険などがこれに当たる。

進む少子高齢化

  国内経済の停滞に加え、長引く低金利で年金機構の運用収益率が落ち込んでいることなど、スイスの年金制度を脅かす要因はいくつかある。だが、その中でも最大の難題は社会の少子高齢化だ。

 連邦統計局が昨年発表した国勢調査の結果によると、全人口における20歳以下の割合は1900年では40%だったが、今日では20%に減少。65歳以上は6%から18%へと3倍に増えた。高齢者の数は今後数十年でさらに増加し、2045年には約4人に1人が65歳以上になる見込みだ。

 スイスの平均寿命も伸び、50年前は男性68歳、女性74歳だったが、今日では80歳、84歳(日本は2015年時点で男性80.79歳、女性87.05歳)。一方で、出生率は減少の一途をたどり、現在は1.5(日本は2015年時点で1.45)と、人口を維持するのに必要な出生率2.1を下回る。

 年金受給者一人に対する就業者を見てもその傾向は顕著だ。1948年には1人を7人以上の就業者(20~64歳)が支えていた。しかし現在は3.4人、21世紀半ばにはさらに2人に減る。とりわけベビーブーム世代が定年を迎える2020~30年に、就業者の割合が激減するとみられる。

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スイスは移民の流入により人口の減少が食い止められているとはいえ、連邦統計局は2045年までに国内の年金生活者が50%増になると予測している。

「2030年に年金財源が枯渇」

  連邦政府は老齢・遺族年金について、「最も現実的なシナリオでは2020年以降に受給と負担の均衡が崩れ、毎年の不足額は30年までにおよそ83億フランに膨れ上がる。だが、この改革案があれば、その赤字を10億フラン強までに減らすことが可能だ」とする。

 財源が危ぶまれているとはいえ、国民の生活に直結する年金制度改革は非常にセンシティブな問題だ。国は過去20年の間に幾度も年金制度の改革を試みたが、すべて失敗に終わった。公的年金の財政基盤強化を目指す「老齢年金2020」は提案されてから約2年後の今年3月、全州議会(上院)と国民議会(下院)でようやく可決された。

 年金改革関連法案「老齢年金2020」の主な内容

・女性の老齢・遺族年金(第1の柱)と企業年金(第2の柱)の受給開始年齢を64歳から、2018年から段階的に男性と同じ65歳まで引き上げる。これにより老齢・遺族年金基金は年間約13億フランを追加確保できる。


・年金の被保険者は、62~70歳の間で自由に年金受給年齢を選択できるようにする(現在は63~70歳)。65歳前の退職者は減額、65歳以後の退職者は増額する。


・企業年金で積み立てた貯蓄額にかかる年金転換算定率を4年間で6.8%から6%に引き下げる。10万フラン積み立てた被保険者の年金受給額は年間6800フランから6千フランに減る。2019年1月1日の時点で45歳に達していない被保険者が対象。減額分を補う措置も検討。


・35~54歳の就労者の企業年金保険料率を1%引き上げ、老齢・遺族年金保険料率は雇用者、被雇用者ともに0.15%引き上げる。


・2019年から新たな受給者の年金を月70フラン増額。


・国からの老齢・遺族年金基金への拠出額を増やす。障害者年金基金に充てられている付加価値税の0.3%を2018年以降老齢・遺族年金基金に拠出。2021年には付加価値税率0.3%の引き上げが予定されている。

 アラン・ベルセ内相は8月、スイスインフォのインタビューで「(改革案が国民投票で否決されたら)ベビーブーム世代が退職し、第1の柱(遺族・老齢年金)の債務は拡大する。2030年には年金財源が枯渇する。企業年金についても若い世代にさらなる犠牲を強いることになってしまう」と改革の必要性を強調した。

 ただ、世論調査機関gfs.bernが今月発表した最新の世論調によると、改革案を支持する人は51%、反対が44%で、8月時点に比べ賛成が2ポイント減った。同機関は、この傾向が続けば「過半数が変わるかもしれない」とみており、24日の結果がどうなるかは未知数だ。

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