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隈研吾の「ArtLab」のカフェで、モントルー・ジャズ・フェスティバルを再体験

モントルー・ジャズ・カフェ内の「Heritage Lab II」で、モントルー・ジャズ・フェスティバルを再体験 Keystone

「ダー、ダー、ダーーー、ダー、ダー、ダ、ダーーー…」。ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の有名なリフレインが、スイスの大学のキャンパスで「ライブ」体験できるようになった。この曲だけではない。ジャズ、ブルース、ロックを含むモントルー・ジャズ・フェスティバルの歴史的アーカイブの大部分も楽しめる。

 暗い部屋の中で、記者の一団がハイテク・スクリーンに映し出された伝説的ヴォーカリスト、イアン・ギランを見ている。

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隈研吾のスイス初の建築、オープン 木と石の屋根でヒューマンなものを創出

このコンテンツが公開されたのは、 世界のスター建築家、隈研吾のスイス初の建築「ArtLab」が11月4日、連邦工科大学ローザンヌ校のキャンパスにオープンした。250メートルの長い屋根の下に三つの異なる機能の「箱」が配置されたこの建物は、日本の木造平屋のような控えめなやわらかさと同時にシャープなデザイン性を持ち、どっしりとした屋根と長いひさしで人を温かく迎え入れてくれる。世界一流の建築家の作品が立ち並ぶスイスで「ここ20年の一つの最高作」と建築ジャーナリストたちが高く評価した。

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 ロック歌手フランク・ザッパのコンサートの際、「信号けん銃を持ったどこかの馬鹿」がかつてのモントルー・カジノに放火し、モントルー・ジャズ・フェスティバルの創始者である故「ファンキー・クロード」(クロード・ノブス氏のこと)が聴衆の救助に駆けつけたという有名なエピソードを、ギランは大声で語る。

 記者たちの右側であの有名なリフレインが再び流れ、背後で聴衆が金切り声をあげる。

 記者たちがいるのは「Heritage Lab II」だ。この最先端の視聴サウンド・ラボは、連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のキャンパスに日本の建築家・隈研吾が建てた長さ250メートルの建物「ArtLab」内のモントルー・ジャズ・カフェにある。

 フェスティバルの創始者クロード・ノブスは、モントルー・ジャズコンサートの記録を始め、エラ・フィッツジェラルド、アレサ・フランクリン、プリンスなど唯一無二の演奏のコレクションを作り上げたのだ。2013年に、このアーカイブはユネスコ(国連教育科学文化機関)の記憶遺産として認定され、その重要性が強調されている。

 ある日、このアーカイブをノブス氏に見せてもらったEPFLのエビシェール学長は、その場で全てをデジタル化する約束をしたという。こうして作り上げられた1967年までさかのぼる膨大なデジタルアーカイブのコンサートに、一般の人が11月5日より無料でアクセスできるようになった。

 視聴サウンド・ラボはEPFLとローザンヌ美術大学(ECAL)の研究者15人のチームによって、2年をかけて特別に設計、建設された。サウンド・ラボには、ダイアモンド型のパネルでできた湾曲した詰め物入りのスクリーンが備えられている。奥行きの感覚を出すためだ。両側に取り付けられた鏡が、没入型の視覚体験を強化している

 ここに32台のスピーカーによる3Dサウンドが加わる。サウンドはコンピューター機器によって調節可能で、4千人を収容する巨大なオーディトリアム・ストラヴィンスキーやかつてのカジノなど、モントルーにあるさまざまなコンサートホールの音響特性を再現できる。

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 「このカフェは私たちにとって、ハイテクを駆使した主幹事業だ」と、モントルー・ジャズ・フェスティバルのディレクター、マシュー・ジャトン氏は話す。「EPFLのおかげで、初めてこれらのアーカイブにアクセスできるようになった。過去は守られる。未来は築いていかなければならない。そして今、すべての要素が揃った」

 Heritage Lab IIは、モントルー・ジャズ・デジタル・プロジェクトの中でひときわ目立つ。これはフェスティバルとEPFLと民間スポンサーによる長期的な協力プロジェクトで、フェスティバルの音楽アーカイブの保存、強化、活用を目指して2007年に開始した。

EPFLで製作された「音の傘」スピーカーシステムは「SoundD Dots」技術を用いて音声を下に向ける。2〜3メートル離れると音楽は聴こえない swissinfo.ch

 EPFLでは合計100人以上の学生、35人の研究者、8つの研究室が、デジタル化した映像を利用して、オーディオ制作、制作後の編集技術、データ保存、Heritage Lab IIのような新しいユーザー体験など、さまざまなプロジェクトを行っている。

 モントルー・ジャズ・カフェの奥には低いテーブルがいくつか置かれ、iPadを使ってアーカイブを検索できる個人視聴エリアとなっている。

 研究者たちは他にもアーカイブ資料をさまざまな方法で使っている。聴く人の気分に合わせてスマート・プレイリストを作るソフトウェアから、フェスティバルのオリジナル録音から楽器をリミックスできるものまでいろいろだ。

 またあるチームは、曲の中の拍手やソロ部分を自動的にスキャンし、分離して抽出できる音声アルゴリズムを、別のチームは、古い記録の映像や音声のプチプチという音や途切れなどの不具合を修正できるアルゴリズムを開発した。

 さらに、「サウンドリリーフ」という名の薄く軽量で移動可能な防音壁を設計したチームもある。小型スピーカーを装備したこの仕切り壁は、能動的に騒音を測定し、音を吸収または拡散し、複数の空間の間の音声バリアとして機能する。この壁は今後、バーやナイトクラブに限らず、自動車、飛行機、船にも応用が見込まれている。

 さらに、EPFLがデジタル人文学にも進出していることを背景に、神経科学、音楽学、社会科学の分野でもプロジェクトが行われていて、アーカイブを利用しようと列をなしている。そう説明するのは、デジタル・プロジェクトを監督するEPFLメタ・メディア・センターの運用・開発部長、アラン・デュフォー氏だ。

 EPFLは2011年より記録のデジタル化を監督してきた。合計で5千のコンサートを記録した1万1千時間以上の映像と6千時間以上の音声が、18のフォーマットによる1万4千本のテープから集められ、デジタル化された。作業は今も継続中だ。2014年より、すべてのコンサートはライブでアーカイブに収められるようになった。今年の夏は、360度のビデオと3Dオーディオを用いて28のコンサートが撮影された。

フレディ・ハバードの演奏。1983年のモントルー・ジャズ・フェスティバルで Jean-Guy Python/Keystone

 今のところ、モントルーでコンサートを観たければ高いチケットを購入するか、「ライブ・アット・モントルー」のDVDかCDを購入する、または世界に7カ所あるモントルー・ジャズ・カフェに行くしかない。しかし著作権の問題で、今あるカフェで見られるコンサート映像はアーカイブ全体の14%と限られている。

 1995年にコレクション管理のためにノブス氏が立ち上げたモントルー・サウンズ社は、テープは所有しているが、権利の大半はミュージシャンにある。モントルー・ジャズの契約では、アーカイブはモントルー・ジャズ・カフェで視聴可能だが、教育や研究の目的で利用することもできるとされている。

 そしてこの条項のおかげで、EPFLのキャンパスにある実験的なモントルー・ジャズ・カフェのオープンに伴い、アーカイブはようやく開かれ、ローザンヌの人々が音楽の大半にアクセスできるようになるだろう。

(英語からの翻訳・西田英恵)

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