厚切りジェイソン、パックン、チャド・マレーン。今も昔も茶の間で愛される日本の文化「お笑い」に挑戦する外国人は少なくない。夫婦漫才コンビ「フランポネ」のシラちゃんもその一人。お笑い厳禁とされるスイス・ジュネーブ出身の彼女の目に、日本のお笑い界はどう映るのか。スイスなら闇営業にどう対応するのか。
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2016年からスイス在住。17年にswissinfo.ch入社。日本経済新聞社で8年間記者を務めた。関心テーマは経済、財政、金融政策、金融市場。
フランポネのシラちゃん
1980年生まれ、スイス・ジュネーブ出身。イタリア人の父とフランス人の母を持つ。母語はフランス語。ジャン・ビアジェ総合文化学校外部リンクを卒業後、庭師や警備員、税理士事務所の事務員などの仕事に就く。ジュネーブ州オネ(Onex)の市会議員を兼業で務めたこともある。
2009年に商社マンでベルギーで勤務していたマヌーさんに出会い、12年の帰任に合わせて日本に移住、結婚した。マヌーさんが18年3月に勤務していた会社を退職して、吉本興業の芸人養成所、吉本総合芸能学院(NSC)に夫婦で入学。19年4月に吉本興業から国際夫婦漫才コンビ「フランポネ」としてデビューした。
現在は日本で唯一フランス語で漫才ができる芸人として、ヨシモトホール(渋谷)での出演や民間の日本語教室などで「漫才で覚える日本語」の講師など日本を拠点に活動している。来年2月にはスイス・ローザンヌで開かれるジャパン・インパクトに出演し国際デビューする予定。
スイスインフォ:日本のお笑いに出会ったのはいつですか?
シラちゃん:子供のころから日本の文化が好きでした。小さいときは芸者になりたかったけれど、そのころスイスでは売春婦のイメージがあったので、父親に反対されました。当時は欧州で日本のお笑い番組はあまり見られませんでしたが、「風雲!たけし城」は有名で、私も姉とよく見ていました。
マヌーと結婚して2012年に日本に移住して、ユーチューブやテレビでお笑い番組、コマーシャルをたくさん観るようになりました。初めて見た時は、言葉は分かっても、何が面白いのか全然分かりませんでした。今も時々あります。
例えば「飴はあめぇ(甘い)」「カレーはかれぇ(辛い)」といったおやじギャグ。なぜ日本人が笑うのか分かりません。フランス語にも同音異義語はたくさんあり、それを並べる言葉遊びはありますが、フランス語圏ではそれほど面白がらないです。個人的にはブラックジョークが大好きですが、日本では厳禁です。
スイスインフォ:スイスと日本のお笑い形式はどのように違うんですか?
シラちゃん:そんなに違いませんが、欧米ではピン芸人が舞台に立って社会的な風刺やブラックジョークを並べるスタンドアップ形式が一般的です。でもそれは日本ではツッコミがなく悪口を垂れ流しているだけのように見えてしまい、受け入れられないと思います。
反対に、日本のようにボケとツッコミがやり取りする形式は、スイスではあまりウケないと思います。なぜそんな対話形式を取るのか、分からないでしょう。
スイスインフォ:言葉の壁は感じますか?
シラちゃん:日本語は12年に移住してから3年間語学学校に通い、今も勉強していますが、難しいです。しゃべるのがとても速いし、学校で習う日本語と全然違います。
また、私はスイス出身なので日本でスイス関連のイベントでネタを披露したいのですが、スイス大使館が主催するイベントは(スイスで主要な公用語の)ドイツ語で出ることを求められます。だから出るのはベルギーやフランスに関連するフランス語のイベントになってしまいます。ドイツ語を求められるのは、スイス国内でも同じですが。
スイスインフォ:スイスのユーモアは地域色が強いと言われますが、出身地のジュネーブにはどんなジョークがありますか?
シラちゃん:ジュネーブをネタにした話はあるけどあまり面白くないです。ジュネーブは昔からユーモアに厳しく、お笑いは絶対ダメでした。それには歴史的な理由があります。16世紀の宗教改革で、ジュネーブはカルヴァン派の拠点になりました。カルヴァン派はジュネーブで演劇を上演することを禁止しました。服も暗い色のものしか着てはだめで、寂しい街でした。フランス人哲学者ヴォルテールは、スイスとの国境の街フェルネにジュネーブ人向けの劇場を造り、喜劇を書きました。
ジュネーブで人気があるのはアム・ロマノフ、フローレンス・フォレスティ、レザンコニュなどフランスのコメディアンばかり。スイス人で有名な人はいません。
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スイスインフォ:そんなジュネーブ出身のシラちゃんがなぜ日本でお笑い芸人になろうと思ったのですか?
シラちゃん:2009年にベルギー駐在中だったマヌーとオンライン語学学習パートナーとして出会い、11年7月にパリで開かれていたジャパン・エキスポを2人で見に行ったんです。その時、日本のお笑いがまだ欧州では知られていなかったことに気づいたマヌーが「これは市場が伸びる余地がある」と言い出して、私もいいなと思いました。
スイスインフォ:スイスでも芸人になる道は厳しいのですか?
シラちゃん:とても難しいです。ジュネーブにはお笑い専門の学校はないので、フランス語圏スイス人が学校に行きたかったらカナダのケベックにある「ナショナル・ユーモア学校外部リンク」を目指します。厳しいオーディションなど入学審査をパスするのはとても難しいです。ただ無事に卒業すれば一定の仕事がもらえます。
吉本総合芸能学院(NSC)の入学審査でもオーディションはありますが、才能よりは芸人になりたいという本気度が問われる。やる気があれば入れるので、簡単で驚きました。でも卒業しても仕事がない。今は2人の貯金を切り崩したり、新宿にあるルミネTHEよしもとや渋谷にあるヨシモト∞ホールで呼び込みのアルバイトをしたりして生活しています。薄給ですけど。
スイスインフォ:日本ではお笑い芸人が事務所を通さない「闇営業」をしたことが話題になっていますが、スイスではそうした問題は起こりにくいのでしょうか。
シラちゃん:ありえます。老後までにお金が底を尽きてしまうことへの心配は誰でも抱えています。でもヤクザに関わることはないです。日本では新宿のゴールデン街や浅草の三社祭に行ったら誰でもヤクザと知り合いになれると思いますが、スイスでマフィアと知り合いになることはまずありません。
今回の問題は個人の問題で、個人と会社は違うと思います。欧米でも芸人は事務所に所属しますが、立場は個人事業主のようなものです。だから事務所に対する帰属意識は薄く、何か問題があっても事務所ではなく個人で責任を負います。欧米でも俳優などのスキャンダルは報じられますが、事務所が記者会見を開くことはないでしょう。
スイスインフォ:岡本昭彦社長のパワハラ発言も問題視されていますが、スイスではこうしたパワハラがありますか?スイスでも徒弟制度がありますが、「家族のような関係」とは違うのでしょうか?
シラちゃん:スイスではパワハラや上下関係という概念はないですね。今回の件ですが、日本独特の家族主義だと思います。
吉本は政府のクールジャパン事業や国連の持続的な開発目標(SDGs)プロジェクトにかかわってきました。でも今回反社会的勢力とかかわりを持ったことが問題視され、そうした公的プロジェクトへの関与が打ち切りになるかもしれません。フランポネはフランス語でも漫才ができるので、欧州・アフリカのフランス語圏に日本のお笑いを輸出するという目標を掲げているのですが、プロジェクトが凍結になってしまうかもしれず心配しています。
スイスインフォ:それでも日本のお笑い芸人になってよかったと思いますか?
シラちゃん:よかったです。言葉の壁は高くても、舞台に立つのが大好きです。
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お手本とうたわれるスイスの直接民主制。しかし時に、ミナレット(イスラム教の尖塔)の新規建設禁止案が可決されてしまうような「事故」も起こる。それを回避できるような制度を整える必要性があると話すのは、ヴィンセント・クショールさんだ。スイス人漫画家でベストセラー作家の彼は、社会を風刺するお笑いコンビとしても活躍中だ。
ベストセラーとなった「Institutions Politiques Suisses(スイスの政治システム)」は、クショールさんがコミック作家のミックス&リミックス(Mix & Remix)とタッグを組み、制作した本だ。今回その英訳版である「Swiss Democracy in a Nutshell(早わかりスイスの民主主義)」が出版された。
クショールさんは、社会を風刺するラジオ番組「120秒(120 Secondes)」でお笑いコンビとしても活躍している。1年半前には相方のヴィンセント・フェイヨンさんとともに同番組のライブツアーをスタート。これまでにスイスやパリの舞台に立ち、チケットは完売の状態が続いている。2015年1月からはスイス国営放送(SRF)でもコメディーニュース番組を担当する人気者だ。
swissinfo.ch: クショールさんが執筆したスイスの直接民主制についての著書は、売り上げ25万部を突破しベストセラーになりました。学校関係者やスイスに帰化しようと考える人たちが購入者の中心だそうです。また今回、英語版も新たに出版されました。スイスの直接民主制は人々の関心を引くテーマなのでしょうか。
クショール: 一見するとあまり面白そうなテーマには見えないが、実際のところ、(統計でも結果が出ているように)皆が興味を抱くテーマだということがわかった。物事の本質を簡潔に伝えるように努めれば、人は関心を持つようになり同時に多くの疑問を持つようになる。
swissinfo.ch: 前連邦大統領のディディエ・ブルカルテール氏いわく、スイス人には直接民主制の血が脈々と流れているそうですが、クショールさんにもその血は流れていると思われますか。
クショール: いいえ(笑)。スイスの政治システムはさまざまな要素が組み合わさって成り立っている。直接民主制はその構成要素の一つに過ぎない。
直接民主制は合意形成を促す。レファレンダムによって決議が覆されるのを避けるよう、連邦議会は妥協案を見つけようと努力する。ただしそれが足かせとなり物事の進度が遅れることもあるが。またスイスでは、連邦主義も多文化の共存もとても重要だ。このようにさまざまな要素が集まっていても、安定しているのがスイスの政治システムだ。
スイスの政治システムは他国のお手本になれるものだ。だからこのシステムがもっと世界に知られるようになって、他の国にインスピレーションを与えることができればよいのではと思う。私が自らその良さを広めていく気はないが。
swissinfo.ch: つまり、スイスの直接民主制は他国でも導入可能であると?
クショール: それは、わからない。ここには本当に独特の政治文化があるからだ。
スイスの政治文化には、その成熟ぶりがうかがえる。スイスではこれまでに多くのイニシアチブ(国民発議)が国民投票に掛けられたが、否決されたものの中には、他の国では可決されていたに違いないものもある。法定最低賃金の導入案や有給休暇を増やす提案などが良い例だ。たとえ個人的には支持したくとも、有権者は投票で「ノー」をつきつけるという独特の政治文化がスイスにはある。これは国外からは独特の現象として見られている。
直接民主制がポピュリストにいいように利用されてしまうのではと危惧する人々はいるが、そのようなことが起こったのは過去数回で、非常にまれなことだ。
swissinfo.ch: イニシアチブを提起し、国民投票にこぎ着けるまでの費用に50万フラン(約5790万円)かかることもあるといいますが、それでもなお、スイスの直接民主制はお手本だといえるのでしょうか。
クショール: もちろんだ。スイスでも公的健康保険制度導入の反対キャンペーンに多くの資金が投入されるというような、びっくりするような例はいくつかある。そのようなキャンペーンには立役者がいることは明らかだ。(提案が可決されると)失うものが大きいため、彼らは大金を投じて現状を維持しようとしていたのだ。
この観点からいくと、この政治システムは少しゆがんでいる。だからこそキャンペーンに費やすことのできる資金の上限額を設置し、その透明性を確保する対策をとるべきだ。そうすれば、例えば経済連合エコノミースイスが各々の国民投票にいくら費やしているかを知ることも可能だ。
民主主義をお金で操作することは称賛されるべきではない。個人的には政党はお金の流れを明らかにすべきだ思う。民主主義がお金で買われてしまっては全く無意味だ。
swissinfo.ch: 若い世代の投票率が低下しています。若い有権者たちはその投票案件の多さと複雑さに不満を感じています。この状況はどうすれば改善されると思われますか。
クショール: 確かに案件の中にはときどき専門的なものもあるが、投票案件が多すぎるということはない。民主的でありすぎるために民主制が壊れてしまうということはない。
まずは公民教育が根底としてある。学校は政治や文化について議論する場であるべきだし、人々はもっと公共問題に関心を持たなければならない。社会の細かな仕組みを理解する前に、我々は皆、社会で役割を持って生活し、それは価値があることなのだと理解する必要がある。そうして初めて政治参加への意識が芽生える。
swissinfo.ch: 2014年2月の国民投票で移民規制案が可決されました。その後、ガウク独大統領はスイスの国民投票結果は尊重すると前置きした上で、「複雑な案件の場合、有権者がそこに含まれる意味合いを十分に理解できないまま投票してしまうという危険性が、直接民主制にはあるのだと感じた」とのコメントを残しました。スイスはヨーロッパ各国との関係や、移民、銃の規制や有給休暇の増減など、全ての問題において国民投票を実施する必要があるのでしょうか。
クショール: 移民規制案をめぐる国民投票では、有権者への情報が不足していた。また、全ての問題において国民投票は実施できない。だからこそ特定の対策をとる必要性がある。
移民の流入を規制するか否かはそれほど複雑ではない。「イエス」か「ノー」で答えられる。しかしその結果、複雑な影響が出てくる。そして、その影響の中のいくつかは法に関するものもある。今回はそのようなことが有権者にきちんと説明されていなかった。確信を持って言えるのは、もしこの国民投票が今行われるとしたら、恐らく前回とは違う結果になっていただろうということだ。国民投票が実施される前に十分な情報が有権者の手元まで届かず、欧州連合(EU)との関係にどのような副次的影響をもたらすかということについて、きちんとコミュニケーションが行われていなかったのだ。
swissinfo.ch: スイスにイニシアチブの憲法適合性を判断する憲法裁判所は必要でしょうか。
クショール: 必要だ。我々はイニシアチブの内容をもっと適切に考査する必要がある。その点で体制がまだきちんとされていないのが現状だ。2月9日の国民投票結果はかなり深刻だった。可決されてしまったのはまさに事故で、スイス国内でのモスクの尖塔建設禁止が可決された時と同様、他国との関係に(悪)影響をもたらした。
どの問題にも直接民主制を適応して良いというわけではない。個人的にはスイス憲法を国際法よりも優先すべきだという国民党の意見にも賛成しない。常に有権者が正しいとは限らないし、有権者がミスを犯すことだってある。2月の移民規制案の可決はまさにそれだ。
驚くべきことは、スイスの政治家のほぼ全員が「スイス国民の意見は正しい」と言っていることだ。これには同意できない。直接民主制は宗教ではないし、有権者は神ではないのだから。
swissinfo.ch: アンネマリー・フーバー・ホッツ前連邦事務総長は、大きな政党がイニシアチブを提案することを禁止し、イニシアチブが乱用されないようにすべきだとしています。それについてどうお考えですか。
クショール: 考えとしては非常に興味深い。今世紀始めに国民発議権が導入された当初の目的は、政治家と国民との力のバランスをとるためだった。今日、提案されるイニシアチブの多くはスイスで最も大きな政党(国民党)によるものだ。国民発議権が導入された当初は、このように使われることを目指していたわけではないだろう。どちらにしろ、フーバー・ホッツ氏によるこのような挑発的な提案が取り入れられることはないと思う。
swissinfo.ch: スイスの直接民主制の改善点は他に何かありますか。
クショール: 平均40%というスイスの投票率は悪い数字ではない。しかしこの数字はスイス国籍保持者の40%であって、スイスの人口の40%ではない。
たとえスイスで生まれそこに暮らしていても、参政権がない人が多くいるということを我々は忘れてはならない。これは改善できる点だ。そうすればスイスで生活し、今日のスイスを作っている人々が、その暮らしと発展に参加できる。現在スイスに住む外国人の数は200万人に上るが、その多くが政治システムから除外されているのが現状だ。
もちろん時間は掛かると思うが是非実現させてほしい。スイス国籍を持っているのは、スイス人だけではないのだから。
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