アート・オン・アイス、最高を追い続け今年20周年 高橋大輔も出場
世界屈指のアイスショー「アート・オン・アイス」。20周年を迎える今年は、昨年プロに転向した高橋大輔やカナダの大物歌手ネリー・ファータドなど豪華キャストが勢ぞろいする。最高を求め続ける出演者とスタッフが作り出すこのショーは、音、光、スケートが一体となる「アイスショーを超えたショー」だ。
「アート・オン・アイス外部リンク」の原型ができたのは、1995年。80年代のスイス・フィギュアスケート界をけん引してきたオリヴァー・ヘーナーが、メディア関係のレト・カヴィーツェルとともに、チューリヒ近郊の町キュスナハトで小さなアイスショーを開催した。
その翌年から、ショーの名前を「Eiskunstlauf der Weltklasse Show(世界レベルのフィギュアスケート・ショー)」から「アート・オン・アイス」へと変更。世界的に有名な大物歌手の生の歌声とともに、世界トップクラスのスケーターたちが氷上を優雅に舞うという独自のコンセプトを打ち出した。今では世界各地で公演を行うほどに成長。これまで日本からも佐藤有香、荒川静香、安藤美姫などが出演し、2013年には日本公演外部リンクも行われている。
アイスショーは世界中に数多くあるが、20年間ものあいだ観客を魅了し続け、世界に名をはせるアイスショーは「アート・オン・アイス」以外にあまり例がない。スイス人プロ・フィギュアスケーターのステファン・ランビエール外部リンクとサラ・マイヤー外部リンクのマネージャーを務める、「アート・オン・アイス」広報担当のマルク・リンデッガーさん(60)に、その成功の裏側について聞いた。
swissinfo.ch: 今年の「アート・オン・アイス」が間もなく開幕します。今どのような気持ちですか。
リンデッガー: 緊張している。その年のショーが終わるや否や、我々はいつもゼロに戻り、次のショーを考える。これまで行ってきたことをそのまま続けるのではなく、何が良くて、何が失敗だったかを振り返り、白紙の状態から新しいショーを作る。これが「アート・オン・アイス」の成功の秘訣だろう。我々が1年間やってきたことが良かったのかどうか、もうじき結果が出るため、開催直前は皆、緊張している。
ただし、マーケティング面では先行発売したチケット計8万枚がほぼ完売しており、とても満足のいく結果になっている。観客が我々のプログラムに期待を抱いているあかしだ。
swissinfo.ch: 今年は日本から高橋大輔が出演します。出演者はどのように決まるのですか。
リンデッガー: ダイスケにはいつも打診していたが、これまで競技に出場していたため、なかなか承諾を得られなかった。だが、彼は昨年引退し、ようやく出演のチャンスが訪れた。そのせいもあってか、日本から「アート・オン・アイス」を見に来る人の数が今年は過去最高を記録している。我々はとても驚いている。ダイスケには熱心なファンが大勢いるようだ。
ダイスケのように我々が直接打診したり、ステファン・ランビエールのように契約を結んでいたりするスケーターがいる一方で、「アート・オン・アイス」は評判が高いため、自ら出演したいと申し込んでくる世界的なトップスケーターも多い。だが全員を出演させるわけにはいかないので、聞こえは悪いが、出演希望者を「選別」させてもらっている。
出演するスケーターは夏には決まる。だが一番の問題は、誰をメイン歌手に迎えるかだ。
swissinfo.ch: 今年はネリー・ファータドが出演します。歌とスケーターのリズムはどのように合わせるのですか。
リンデッガー: 今年の場合だと、スター歌手にファータド、若手歌手にトム・オデール、スイス人歌手にマーク・スウェイの出演が決まった時点で、誰がどの曲を歌うのかを歌手たちと話し合った。
曲が決まると、「アート・オン・アイス」CEOのヘーナーと、(マイケル・ジャクソンのダンサーを務めたことがある)振付師のショーン・チーズマン外部リンクが「この曲はランビエールに、この曲はダンスペアに合う」という風に、曲をスケーターに振り分ける。その後、各スケーターと話し合う。例えば「ステファン、この曲はどうかな」「いや、僕はあまり好きではない」という風になれば、別の曲を探す。
そしてお互いに納得がいったら、曲をアレンジしてスケーターに渡す。それが10月頃。スケーターたちはトレーナーと各自練習し、その間に衣装などが作られていく。
振付師のチーズマンがじかにスケーターたちの元に飛び、1、2日振り付けの練習をすることもある。スケーターの中には、欧州選手権から直接スイスに来る人もいる。
swissinfo.ch: 高橋の場合も、チーズマンが日本に来て指導したのですか。
リンデッガー: いや、ダイスケの場合は少し違う。彼のプログラムの一つは、彼オリジナルのもので、我々のプログラムではない。彼ほど優秀なスケーターは自分で良いものを表現できる。ランビエールもそうだ。もちろん、衣装や細かいことについてはスカイプや電話などで話し合ったりするが。
swissinfo.ch: フィギュアスケートと生演奏というスタイルは、どうやって生まれたのですか。
リンデッガー: CDの音楽が流れるアイスショーはたくさんあるが、CEOのヘーナーとカヴィーツェルは、生演奏にこだわった。そこでバンドを導入した。
「アート・オン・アイス」が作られた当初は、バンドもスケートも何となく合ってはいたが、一方は自分のスケートをし、一方は自分の音楽を演奏するというバラバラな感じがあり、統一感のあるショーとは言えなかった。スケーターも、ミュージシャンも、ともに成長していく必要があった。
それから20年経ち、「アート・オン・アイス」は単なるアイスショーでも、コンサートでもない、両方が混ざり合った独自のショーへと発展した。そのため、このショーをアイスショーと呼ぶのはふさわしくない。「アート・オン・アイス」はそれ以上のものだからだ。
観客の多くはフィギュアスケートを見るためではなく、「アート・オン・アイス」が見たくて来る。音楽、光、アクロバット、スケート…。そのすべてが一体となり、一つのコンセプトとして成功している。どのスケーターが出演するのか知らなくても、そこに行けば素敵なショーが見られると信じて、チケットを即座に買う人は多い。
swissinfo.ch: これまで日本人スケーターが度々出演していますが、その理由は。
リンデッガー: 有能な人が多いからだ。ランビエールは日本とのつながりが深く、良い日本人スケーターを何人も知っている。彼は私にこう言ったことがある。「日本では大勢の子供たちがスケートを練習している。あれほど熱心に、規律正しく練習に取り組んでいる子供たちの多さにはびっくりした」
シズカ(荒川静香)はこれまで「アート・オン・アイス」に何度も出演してくれて、特に印象深い。いつも完璧で、冷静。転ぶところを一度も見たことがない。彼女の滑りを見ると、スケートがとても簡単なものに見えたものだ。
swissinfo.ch: 五輪や世界大会などでライバル同士だった出演者たちも共演します。ショーではどのような雰囲気ですか。
リンデッガー: 皆とても仲の良い友達だ。まるで家族のようだ。ヨーロッパ人、米国人、日本人など国籍は関係ない。衣装部屋は男女に分かれているが、大部屋になっており、そこで互いに親睦を深めたりもしている。
swissinfo.ch: 今後、「アート・オン・アイス」はどのように展開されていくのでしょうか。
リンデッガー: これまで通り、常にクリエイティブに新しいことに挑戦していく。国外公演も行っていく予定だ。いままでドイツ、英国、中国、ハンガリー、日本などで公演してきた。
国外でこのショーを開く際の問題点は、まず第一に、お金がかかるということ。最高のスケーターが出演し、世界的に有名な歌手が登場するとなると、どうしても費用が高くなる。1枚100フラン(約1万3千円)のチケットがスイスでは売れても、例えばドイツで売れるとは限らない。
もう一つの問題は、外国で提携先を見つけること。日本とはつながりが深いので、あまり問題にはならないが、シンガポールなどでは難しい。日本で2013年に行った公演は大成功だった。16年あたりに、また日本で公演を行う方向で調整を進めている。
これからも、慎重かつ着実に事業を展開しつつ、人々に感動を与えていきたいと、我々は考えている。
アート・オン・アイス2015
今年はメイン歌手にカナダ人シンガーソングライター、ネリー・ファータドを迎え、五輪、世界選手権、欧州選手権などで優勝したフィギュアスケーターたちが出演。2010年世界選手権を優勝した高橋大輔のほか、ステファン・ランビエール(05年・06年世界選手権優勝)、カロリーナ・コストナー(12年世界選手権優勝)、マキシム・トランコフ&タチアナ・ボロソジャル(14年ソチ五輪金メダリスト、13年世界選手権優勝)など、名高いトップフィギュアスケーターたちが生演奏に乗せて華麗に舞う。11年欧州選手権優勝のサラ・マイヤーは今回で「アート・オン・アイス」の出演が最後となる。今年はまた、スイスのフィギュアスケート界に歴史を残したデニス・ビールマンが5日の公演に登場し、その功績が称えられる。
公演日はチューリヒ(2月5~8日)、ローザンヌ(2月10、11日)、ダヴォス(2月13、14日)。
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