世界保健機関(WHO、本部ジュネーブ)が、ビデオゲームなどのやり過ぎで日常生活に支障をきたす「ゲーム障害(Gaming disorder)」を初めて疾病に認定した。スイスではインターネットの利用方法に「問題がある」人が約7万人いるとされるが、数値は過去5年で横ばい状態だ。
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ゲーム障害は、WHOが18日公表した国際疾病分類(ICD)第11版に盛り込まれた。ICDは、世界中の医師らが患者の病気を診断する指針として使用している。
WHOは、ゲーム障害の症状を「ゲームに没頭しすぎて他の日常的な活動などがないがしろにされてしまう状態」だとしている。
スマートフォンやパソコン、ゲーム機を使ったオンライン・オフラインのビデオゲームの愛好者で、ゲーム障害を抱えているのは全体の2~3%に過ぎないとするものの、「ゲームに何時間を費やしているか注視する必要がある。特に日常の活動がゲームによって制限され、身体的、精神的、また社会活動の面で何らかの変化が起きている場合は注意しなければならない」と警告する。
チューリヒ応用科学大学(ZHAW)のメディア心理学者で心理療法士のイザベル・ヴィレムゼ氏外部リンクは、ゲーム障害がICDに含まれたことを歓迎し「全ての専門家が同じ出発点と定義、基準を共有できるようになる」と評価した。
スイスの10代の若者とビデオゲーム
スイスの12〜19歳の99%がスマートフォンを所有し、76%がパソコンを持っている。ニンテンドースイッチなどのポータブルゲーム機を持つ若者は45%、プレイステーション4などの据え置き型ゲーム機を所有するのは41%に上る。
12~19歳の3分の2はビデオゲームを時々やっていると答えた(このうち女子は42%)。平日は平均1時間21分、週末は平均2時間38分だった。およそ半数が毎日、または週に複数回ゲームで遊ぶと答えた。ネットの利用法に「問題がある」とされる人たちの原因の13%はビデオゲームだった。
出典:Jamesレポート(2016年)外部リンク/中毒に関するスイスのモニタリング調査(2015年)外部リンク
大きな健康問題
韓国など一部の国では、ゲーム障害が大きな健康問題になっている。
スイスでは、人口の約1%、つまり15歳以上の7万人が「問題のある」ネットユーザーだとされる。「問題のある」ネットユーザーとは、ネットの利用時間などを自分でコントロールできなくなり、オンラインとオフラインの活動のバランスが崩れてしまっている状態を指す。昨年、通信大手スイスコムが支援し、ZHAWが実施した別の調査外部リンクでは、12〜19歳の8.5%がこの「問題のある」ネットユーザーで、原因の13%はビデオゲームだった。
スイスのネット利用とスマートフォンの驚異的な普及にもかかわらず、連邦内務省保健局の委託で行われた調査外部リンク(今年4月発表)によれば、インターネット中毒者の数は20~24歳を除き、13年以降横ばい状態だ。
ヴィレムゼ氏は、それでもインターネットへのアクセスが整備された裕福なスイスでは、ゲーム中毒が深刻な問題だと強調した。
>>スマホ漬けのスイス人、いったいどれくらいいるの?
依存症の調査研究を行う非政府組織「アディクション・スイス外部リンク」の広報担当コリン・キボラ氏は、WHOの決定については専門家の間で意見が分かれていたと明かした。キボラ氏は「ゲーム障害だからといって、ビデオゲーム自体が悪いわけではない。ただ度を過ぎれば障害を引き起こす」と説明する。
大麻と同じ
ネット中毒に苦しむ10代若者の治療を専門とするスイスの心理療法士、ニールス・ウェーバー氏外部リンクは、ゲーム障害がICDに含まれたことによって、この障害に対する国民の認識が広まると喜ぶ。一方で、病気と認定し、タブー化することで、当事者たちが口をつぐんでしまうリスクも潜むという。
ウェーバー氏は「子供との間で大麻の話題を避ける親は多い。それは大麻がタブーであり、子供たちがいつか大麻に手を出すのではと恐れるからだ。ビデオゲームも同じ状況に陥る可能性がある」と説明する。
ICDではビデオゲームだけが取り上げられたが、ソーシャルメディアやネットが抱える問題はそれ以上だ。ウェーバー氏は「ネット中毒」という言葉はあえて使わないと言い「それは病理学というよりむしろ、他の問題に起因する症状だと思うからだ」と話した。
ICD
今回、第11版が公表された国際疾病分類(ICD)外部リンクは病気の世界的な統一基準で、43カ国語に翻訳され、120カ国以上で使われている。第10版は92年に発表された。
分類はアルファベットと記号を用いたコードで表される。医師や研究者が病気を調べる指針となるほか、人口動態統計や健康情報の管理に使われる。第11版は1万カ所を見直す大幅改訂となった。
WHOは、何時間ゲームをすれば「問題がある」と判断されるのかについて、明確な基準を示していない。ただ、その行動パターンが個人、家族、社会、教育、仕事、あるいは他の領域に重大な支障をきたし、その症状が12カ月以上続いた場合、ゲーム障害と診断されるとした。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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ツイッターを理解するスイスの政治家は誰か?
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世界中でツイッターが話題になっている。ドナルド・トランプ新米大統領が頻繁にツイートし、そのツイートが時に物議を醸していることがその背景にある。ツイッターはスイスの下院議員からも人気があるが、彼らの使い方は一方通行のコミュニケーションで留まっている。国民の声に真剣に耳を傾けている政治家は誰だろうか?その答えは、スイス初の「会話ツイート率ランキング」に隠されている。
トランプ米大統領のツイートは彼の政治姿勢をよく表しているが、下のツイートでは司法を嘲笑している。
2017年現在、スイスの政治家でツイッターアカウントを持つ人は少なくない。下院議員の多くは重要な知らせをツイッターで告知したり、選挙活動を写真つきで紹介したりしている。
また、怒りのはけ口として使っている政治家もいる。下のツイート(ドイツ語)はエリック・ヌスバウマー下院議員(社会民主党)の投稿文だ。
連邦議会の会期は年4回あるが、会期中はツイッターの利用が特に盛んだ。スイスのツイッター利用者の間で定評のあるハッシュタグ「#parlCH」では、下院議員たちが今の政治課題について常時コメントしている。連邦議会での採決結果が気に入らなければ、その不満をツイッターでぶちまける議員や、ライバルの政治家が意外な行動に出た時にスマートフォンで写真撮影する議員もいる。
下のジャクリン・バドラン下院議員(社民党)によるツイート(ドイツ語)は、連邦議会の中で国民党会派がプラカートを用いてデモをした時の様子を述べたものだ。
ツイッターが政治家たちの間で人気なのは明らかだが、その主な理由は、ツイッターを介せばメディアに簡単に接近できるためだ。「ツイッターは情報を拡散するネットワークとして力があり、多くの記者が利用している」と、インターネット上のコミュニケーションに詳しいマリー・クリスティーヌ・シンドラー氏は話す。
このミニブログ(マイクロブログ)が議員にとって中毒性があることは知られている。右派・国民党のナタリー・リックリ下院議員は12年にバーンアウトになった。「仕事、政治、フェイスブック、ツイッター…。私はいつも必死だった。画面を消してリラックスすることはほとんどなかった」。同氏はフェイスブックにそう書いた後、しばらくソーシャルメディアから姿を消した。現在は活動を再開しており、「影響力の強い下院議員ランキング」では第3位につけている。
ここで言う「影響力」は権力や政治的議論の中で意見を押し通す力のことを指しているわけではない。「影響力の強い下院議員ランキング」は、近頃定評を得ているが異論もあるランキングで、ソーシャルメディアに特化した代理店「Kuble」の専門家がいわゆるクラウトスコアを用いて政治的影響力を測定したものだ(下のインフォボックス参照)。だがクラウトスコアや、例えばフォロワー数などの指標が、政治家たちのソーシャルメディアへの理解度を表しているとは言えない。
なぜならツイッターやフェイスブックは特に会話形式のツールであって、モノローグのツールではないからだ。「私が見たところ、政治家の多くがソーシャルメディアを誤解している。ソーシャルメディアは従来のマスメディアのように、まず何かを告知するための道具として使われている」と、ジャーナリズム専門学校MAZオンラインコミュニケーション科のクリスティアン・シェンケル学科長は話す。
ツイッターが誕生して10年以上たった今でも、政治家たちはソーシャルメディアを通してのコミュニケーションが発信者と他のユーザーとのやり取りから成り立つということをあまり理解していない。公の場に立つときと同様にインターネット上でもメッセージをただ送るだけという人は多いのだ。政治家たちのソーシャルメディアへの理解度を知るには、彼らがインターネット上でどれだけ他のユーザーと「会話」をしているのかを調べるのが適している。そこで、スイスインフォはクラウトスコアの数値が最も高かった下院議員50人のツイッタープロフィールを評価し、「会話ツイート率ランキング」を作成した(評価方法については下のインフォボックス参照)。
ツイッターをよく活用する政治家たちは、フォロワーとのやりとりに快く応じているのだろうか?ランキング第1位の政治家を見ると、どうやらその通りのようだ。
最も影響力の強い下院議員のフィリップ・ナンテルモ氏(急進民主党)は同時に最も議論好きな政治家だ。ヴァレー州出身で32歳の同氏の「会話ツイート率」は59%で、ユーザーの質問や意見に最も多く反応していた。「会話ツイート率ランキング」で第1位に選ばれたことは嬉しいという。
ソーシャルメディアで発信するからには、読者からの反応に対応していかなければならないと、ナンテルモ氏は強調する。他のユーザーとの会話は同氏にとって欠かせないものであり、そうした会話こそが「政治の基本」だという。「街で人から挨拶されたり、質問されたりしたとき、普通は素通りしないものだ。インターネット上だからといって、いつもと違う振る舞いをする必要があるのだろうか?」(同氏)
保守派のナンテルモ氏は例えば下のようにフォロワーとメッセージ(フランス語)のやり取りをしている。
だが、スイスインフォのランキングで2位以降についた政治家たちのほとんどが、「影響力の強い下院議員ランキング」での順位と対応していない。つまり、クラウトスコアの数値的にはユーザーへの影響力が高い政治家であっても、その人がほかの人の意見に耳を傾けているわけではないのだ。ナンテルモ氏と同じ姿勢の政治家には、例えばチューリヒ出身のミン・リ・マルティ下院議員(社民党)がいる。「影響力の強い下院議員ランキング」で7位につけた同氏は、全ツイートのうち会話ツイートが54%を占めており、他のユーザーとの会話率が平均を上回っていた。「意識してそうしている。会話のないソーシャルメディアは意味がないように思える。私が無視するのは、誹謗中傷や荒らしだ」(マルティ氏)
一方、ツイッターでフォロワーと会話をする意志のない下院議員はマティアス・エビッシャー氏(社民党)と、マルティン・カンディナス氏(キリスト教民主党)だ。スイスインフォの評価で最下位だった両氏は、ツイッター上ではフォロワーから高い反響を得ているが、こうした反応には興味がないようにみえる。
これについてエビッシャー氏は、時間の都合や戦略的な考えをその理由に挙げる。「特に意識的にそうしており、初めからこうした態度を取ってきた。私が返事をする際はEメールを使う。ツイッターやフェイスブックに虚偽のコメントがあった場合は別だが。例えば、私が欧州連合(EU)支持派だと誰かが主張したときなどだ。しかし、たいていの場合は私の代わりに他のユーザーがそうした発言に対応している」
カンディナス氏もあえてソーシャルメディア上での会話を避けている。「それを始めてしまうと、皆がそれを期待するし、議論を始める人が増えてしまう。こうしたことに対応する時間が私にはないのだ」
だが、ソーシャルメディアで他の人からの意見に応じないままでいると、長期的にはその人の評判に傷がつくかもしれないと、MAZでジャーナリストの養成に携わるクリスティアン・シェンケル氏は話す。ただ、ソーシャルメディアで他のユーザーとやりとりを続けていくには多大な時間を費やす必要があると、同氏は認めている。
オンラインコミュニケーションに詳しいシンドラー氏も、政治家がコミュニケーション戦略としてあえてソーシャルメディアで発言を控えることは一理あると考える。例えば、ツイッターでは投稿文の文字数が140文字に制限されているが、その枠内では政治問題について適切な発言ができない場合があるからだ。「ツイッターと政治をいつもうまく組み合わせられるとは限らない。テーマの多くは複雑で、少しの文字では扱えない。また、荒らしがあると政治家の負担がさらに増えてしまう」(シンドラー氏)
スイスの政治家たちにとって、ネット上でのコミュニケーションの中心がEメールであることは、この記事を執筆するに当たってのリサーチの過程でも明らかになった。こちら側の問い合わせに対し、全ての下院議員は15分以内に返事をくれたのだ。筆者について
アドリエンヌ・フィヒター氏はスイス主要紙NZZのソーシャルメディア編集部編集長を務めた後、現在はインターネットを専門分野としたフリージャーナリストとして活動している。
スイスインフォの特設ページ「直接民主制へ向かう」では、デジタル技術が直接民主制の制度や手続きに与える影響についての記事を担当。
特に重視するテーマとしては、ソーシャルメディアが選挙や投票に与える影響、インターネット上での市民運動、電子政府、シビック・テクノロジー、オープンデータがある。
悪質なフェイクニュースやボットが登場し、ドナルド・トランプ氏がツイッターを過度に政治利用している今の時代、デジタル化を巡る政治的議論の意義はますます重要になっている。
スイスインフォは「直接民主制へ向かう」で、デジタル時代の直接民主制にまつわるトレンド、チャンス、危険性、政治的反応に焦点を当てていく。
評価方法
スイスインフォはスイスの下院議員50人が2016年6月1日から17年1月17日の間に行ったツイッター上での会話(ユーザーとのやりとり)を評価。調査対象者は、クラウトスコアで最も高い数値だった下院議員。クラウトスコアとは、ツイッター上の影響力を数値化した指標だ。
会話力の比較では、分析ツール「FanpageKarma.net」が定義する「会話」を評価基準とし、全ツイートのうち@で始まるリプライの占める割合、つまり他のユーザーとのやりとりを目的にしたツイートの割合を評価した。
会話率が高いほど、その議員は他のユーザーと直接やり取りをする頻度が高いことになる。
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