スイスの首都ベルンに60年近く暮らした日本人画家、横井照子。先月28日、96歳で死去した。生涯に制作した作品は1千点を超える。ベルン美術館で8月まで開催された展覧会が生前最後となった。
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2004年から日本およびスイスの映像・メディア業界で様々な職務に従事。
今年1月~8月にスイス最古のベルン美術館外部リンクで開かれた「横井照子展TERUKO YOKOI TOKYO–NEW YORK–PARIS–BERN外部リンク」の担当キュレーター、マルタ・ジヴァンスカさんは、芸術家としての横井さんは「とてもエネルギッシュで矛盾に満ちていた」と、敬慕の念を寄せる。「初期の作品もそうだが、壊れやすさを持ちながらも自信に溢れ、夢想的でありながらも非常に正確で、瞑想的なのに頑固。そうした様々なものが作品に表れていた」
作品は油彩・テンペラ・リトグラフによる季節の情景や草花など、自然をモチーフにしたものが多い。日本を感じさせる豊かで深みのある色彩が、四季の表情を抽象的に表現する。「彼女の作品の一つひとつが、現代の抽象と日本の伝統の間を行き来していることに驚かされた」。ジヴァンスカさんは、横井さんの作品を見たときの印象をこう振り返る。
生前の横井さんと開催した最初で最後の展覧会
横井さんはスイス国内でも名の知れた画家だった。ベルン美術館のディレクター、ニナ・ツィマーさんは就任後、横井さんの展覧会開催を即決したという。「横井さんがベルン美術館で個展を開いたことがないという話を聞いて驚いた。一刻も早くうちでやる必要があると思った」。ツィマーさんは今年2月に放送されたドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)のインタビューにそう語った。
芸術家・横井照子の名が国内で広く知られるようになったきっかけは、1964年にバーゼル美術館外部リンクで開催された画家ヴァルター・ボドマー、オットー・チュミとの3人展が、大きな成功を収めたことだった。「横井さんは少数の人間と深く付き合うタイプだが、ボドマーやチュミとは展覧会を機に親しくなり、作品を交換するなど、その後も良き友人として何年にもわたり連絡を取り合っていた」(ジヴァンスカさん)
その後、横井さんは地道な制作活動によって地元ベルンでも根強いファンを得た。今年開催されたベルン美術館の展覧会で、横井さんはSRFの取材に応じ、こう語った。「昔は週に5.5日制作活動を行っていたが、今はもうリタイア生活を送っているので筆は持たない。今は頭の中で描いている」
▼横井照子さんの展覧会についてSRFが報じたニュース映像、日本語字幕付き(2020年2月4日放送)
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