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ファッション界から環境保護へ 逆境乗り越えたスイス人アーティスト、ミシェル・コント

ミシェル・コント
Claudio Moschin

かつてファッション写真界のスターとして名を馳せたミシェル・コント。事故で視力にダメージを受けてからは、映画制作への情熱に目覚めた。アートを通じた気候変動危機への意識向上にも取り組む。仕事場に訪ね、話を聞いた。

「楽な生き方は好きではない」と語るミシェル・コントは、過去の栄光に甘んじようとしないアーティストだ。

1954年にチューリヒで生まれ、過去半世紀で最も有名なファッション写真家の1人となった。コントが撮るポートレートは、単なる写真というより被写体の精神的本質を捉えている。彼の作品は雑誌の表紙やジャンフランコ・フェレ、ドルチェ&ガッバーナ、アルマーニ、ヴェルサーチといった有名ブランドの広告キャンペーンを飾り、世界中のモデルや女優たちが彼を愛した。

一方でコントは、こうした成功にも浮わつくことなく社会問題に目を向け続けた。ジュネーブの赤十字国際委員会の依頼で12年にわたり、イラクやアフガニスタン、ボスニア、スーダン、カンボジアなど紛争地を訪れ写真を撮り続けたのも、その1例だ。

2010年、コントの人生は一変した。当時住んでいた米ロサンゼルスで起こった重い事故で視力の大半を失い、写真家という職業を続けられなくなったのだ。やがて映画界に転身したコントは、自身の情熱であった気候危機や氷河融解など社会問題への意識向上に本格的に取り組み始めた。

環境問題への情熱は先祖譲りだ。コントの祖父は、氷河の状態を記録するためにスイスアルプスの氷河上空を初めて飛行したパイロットだった。

コントの映画監督デビュー作「The Girl from Nagasaki(仮訳:長崎から来た少女)」はオペラ「蝶々夫人」をリメークしたもので、2014年の米サンダンス映画祭で上映された。コントは、さらに現代美術や絵画、彫刻、インスタレーションといった方面にものめり込んだ。

現在スイスに住むコントは、6年以上前から、シリアとの国境にあるトルコの砂漠で、地形を利用するランド・アートと呼ばれる大規模なインスタレーション「The Centre of the World(仮訳:世界の中心)」の制作に取り組んでいた。新石器時代初期の遺跡、ギョベクリ・テペで知られるこの地域では、1万1600年以上前に建てられた最古の石造神殿が考古学者らにより発見されている。

ところが、今年2月に発生した大地震で、震源地に接していたこのインスタレーションは全壊してしまう。本人が明かすように、これは大きな打撃だった。それでも不屈の意志を示すコントは、新しい作品やインスタレーションに取り組み続けるという。

英語からの翻訳:フュレマン直美

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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