連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のフィリップ・ウアシュプルング教授は、チッパーフィールドの新館を「隔絶的なモニュメント」と表現した。しかし、建築家自身の意図は異なり、広くて明るい新たな空間の存在によって、チューリヒ美術館は公衆がより入りやすい場所――すなわち「a place to go(人々の行き場)」になると、新館の開館に合わせて発行された小冊子外部リンクで述べている。
セントルイス美術館東館、2013年、アメリカ・ミズーリ州:
1904年のセントルイス万国博覧会のためにキャス・ギルバートが設計した、オリジナルの美術館の建物が手前に建つ。チッパーフィールドはその後方に、木立の中に控えめに建つ増築部を作った。暗色のコンクリートのファサードには地元の素材が用いられ、建物の繊細な雰囲気を更に強めている
Simon Menges
バレンシアの新設の工業港に建つ「ベレス・エ・ベンツ」は、150年超の歴史の中で初めてヨーロッパで開催されたアメリカスカップのため、b720フェルミン・バスケス・アルキテクトスとの共同作業で、わずか11カ月で完成された。特徴は重なり合い、異なる大きさから成る4つのコンクリート材の水平層で、各層からが新しく掘削された運河を遮るものなく眺められる
Christian Richters
ジュメックス美術館、2013年、メキシコ・メキシコシティ:
ジュメックス美術館は、三角形の土地の中で建物の形態と機能を最大限に高め、パブリックとプライベートの用途を結び付けることで、活気ある新街区に公共の空間を創出した。14本の円柱と台座の上に建てられた建物は、1階から上階のバルコニーまでが通行可能で、コミュニティーにダイナミックな空間を提供している。地理的なコンテクストは素材選びにも反映され、自然災害に耐え得る鉄筋コンクリートや鋼、またメキシコ産のトラバーチン張りの壁といった地元産の手作業による素材が採用された
Moritz Bernoully
旧行政館、2022年、イタリア・ベネチア:
旧行政館は元々、16世紀にマウロ・コデュッシ、バルトロメオ・ボン、ヤコポ・サンソヴィーノによって設計された。ベネチアの中心にあり市民に益する能力がある同館は、修復と再考案によって新たに定義され、初めて一般に公開された
Alberto Parise
旧行政館、2022年、イタリア・ベネチア:
伝統的技術を学んだ職人が、オリジナルのフレスコ画、テラッツォやパステッローネの床、スタッコ細工を蘇らせ、歴史的な層が再び表に現れた。地元の職人と建築技師によって、新たな垂直循環といった、現代的かつ対話を持ちかけるような介入が実現された
Alberto Parise
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツのマスタープラン、2018年、イギリス・ロンドン:
1768年設立と由緒正しいロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ。その増築・改修のマスタープランは、ピカデリーに1868年から建つバーリントンハウスと、元はロンドン大学のセナートハウスで1998年に同アカデミーが取得した6バーリントンガーデンズの2棟を一体化した。ジュリアン・ハラップ・アーキテクツと共同で行った修復作業によって建物の歴史的なオリジナル性は保たれたが、チッパーフィールドは更に、比喩的にも文字通りの意味でも2棟をつなげるために、現代的介入を行った。コンクリートの橋は同プランに新たに都会的な独自性を加え、新しい彫刻庭園を見渡し、以前は分かれていた建物の向かい合っている入口をつなぎ、ピカデリーとバーリントンガーデンズ間に新たな公共の通路を作り出した。
Simon Menges
優美な角材
天然石のファサードはとてもエレガントな印象を与えるかもしれないが、建物全体の大きさを相殺するものではない。同新館は優雅な角材のようで、多くのチューリヒ市民はまだ確かな親しみを感じてはいない。それでもあえて行ってみようという人には、巨大なホールへの(無料での)入場後、同じくデイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツ設計のクンストハウス・バーの訪問をおすすめする。同バーには、元々はチューリヒのベルビュー地区のコルソ・バーに1934年に設置された、マックス・エルンストの大壁画「Pétales et jardin de la nymphe Ancolie(仮訳:花びらとニンフ『オダマキ』の庭)」が飾られている。
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