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ローザンヌ国際バレエコンクール、バレエ界で躍進するスイス

第43回ローザンヌ国際バレエコンクールに参加するルー・シュピヒティクさん Pat Bromilow-Downing

若いダンサーの登竜門、ローザンヌ国際バレエコンクール。しかし、その舞台となるスイスでは、バレエの伝統があまり育っていなかった。その状況を変えようとしている国立のダンス学校が2校ある。チューリヒ・ダンス・アカデミーがその一つだ。

 ルー・シュピヒティクさんとラウラ・フェルナンデス・グロモヴァさんは今、ダンス人生で大きく飛躍しようとしている。この2人のスイス人は、2月1日から始まるローザンヌ国際バレエコンクール2015外部リンクで、300人の応募者から選出された70人の中に残り、出場の栄冠を勝ち取ったからだ。

 このコンクールの入賞者にはトップクラスのバレエ学校やカンパニーへの奨学金が与えられる。若いダンサーにとってはまさに登竜門だ。

 ここはチューリヒ・ダンス・アカデミー(taZ)外部リンクの広いスタジオ。ラウラさんはクラシックバリエーションの衣装を初めて試着している。美しい刺繍(ししゅう)が施された黒と金色のチュチュだが、胴部分のフィットがまだ完璧ではない。教師のティナ・ゴールディンさんは、調整が必要だと言う。「衣装に気を取られて集中できないのでは困る。きちんと体にフィットすることが大切だ」

 ゴールディンさんはコンクール前には特別レッスンを行う。「クラシックには八つのバリエーションから一つ選ぶ。もちろん、その子の個性に合ったものを選ぶようにする」。また、コンテンポラリーのバリエーションも一つ選び、準備を進めなければならない。

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若い才能

 同アカデミーのダンス・ディレクター、オリヴァー・マッツさんは、生徒をコンクールに出す一番の目的は、若いダンサーを励まし、その才能を伸ばすことだと話す。また教師たちは、コンクールでのプレッシャーに耐えられるよう生徒たちを支える。

 「舞台で若いダンサーたちが持つ力を最大限に発揮できるようにすることが重要だ」とマッツさんは説明する。

 ルーさんもラウラさんもすでにコンクール参加の経験がある。ルーさんはニューヨークで行われた2013年のユース・アメリカ・グランプリで優勝し、ラウラさんは2014年に同コンクールで決勝に残っている。

 ルーさんは幼い頃にローザンヌ国際バレエコンクールを見た。「今回参加できて、子どもの頃の夢がついにかなった」と話す。2人とも、クラシックやコンテンポラリーのバリエーションで踊りへの情熱を伝えたいと思っている。「バレエが本当に好きだということを表したい。それに、ダンスは一生続けたい」とラウラさんは話す。

評判を確立する

 チューリヒ・ダンス・アカデミーが現在の形になったのは、ここ10年あまりのことだ。マッツさんとパートナーのステフィ・シェルツァーさんは、ドイツ国立オペラ座バレエ団でプリンシパルとして活躍していた。その後2人は2005年にスイス・バレエ専門学校を引き継ぎ、それを自分たちの受けてきたトレーニングを生かせる学校にと仕上げていった。

 このアカデミーは現在、チューリヒ芸術大学の舞台芸術・映画学部の一部となっている。昨年から、チューリヒ芸術大学の新しいトニ・アレアル・キャンパスに移り、これまでより広いスタジオを使えるようになった。スイスにはもう一つ、バーゼルにクラシックバレエ専門の学校がある。

 「比較的短期間のうちに、国際的に影響力を持つ学校にした。クラシックバレエの伝統がないスイスではあるが、スイスや外国からの若者がプロを目指してトレーニングを受けられる学校がここスイスにもあるということを示せたと思う」とマッツさんは言う。

プロダンサーの育成

 生徒の約6割がスイス人ということからも、スイスにダンスへの関心はあるとマッツさんは考える。「しかし、プロになるためのトレーニングとなると、スイスはまだ、やや初期の段階にある。しかし、それが必要だという点については、関係者の意見が一致している」

 チューリヒとバーゼルではクラシック、そして新しくジュネーブではコンテンポラリーのプロダンサーのためのトレーニングも受けられるようになった。「この体制によって新しい世代が育ち、必ず世界の市場にインパクトを与えられるようになるはずだ」とマッツさん。

 最終学年のルーさんとラウラさんには、卒業時に連邦技能証明書(Federal Certificate of Proficiency)が授与される。また、ここの卒業生の約9割が世界のカンパニーに入団し、その入団率は、例えばイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールのような有名なバレエスクールと変わりがない。

クラシックとコンテンポラリー

 チューリヒ・ダンス・アカデミーでは、卒業まで1日最高6時間の練習がある。シェルツァーさんのクラスでは、15歳の少女たちがバーレッスンを行っている。優雅ではあるが、ルーさんやラウラさんのような洗練さがない。2年の差は明らかだ。

 生徒たちは11歳から基礎練習を初め、15歳で上級の勉強に進む。マッツさんのクラスでは、少年たち(全生徒の44%を占める)が集中してジャンプの練習をしている。「左足」とマッツさんの声が飛ぶ。「そう、それでいい」

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 同校で学べるのはクラシックだけではない。高水準のコンテンポラリーのトレーニングも大切にしているとマッツさんは言う。

 「今時、『白鳥の湖』や『ジゼル』や『くるみ割り人形』だけ上演しているカンパニーはどこにもない。クラシックを基にコンテンポラリー作品を創作する、国際的な振付師とのコラボレーションも行うのが普通だ。当校の生徒は、両方の『ダンス言語』ができるよう、コンテンポラリーのトレーニングも受けている」 

サクセス・ストーリー

 2012年のローザンヌ国際バレエコンクール入賞者で、このアカデミーの元生徒のニコラウス・トゥドリンさんは、同校のサクセス・ストーリーの一つだ。オーストラリア出身のトゥドリンさんは、現在ドイツのライプチヒ・バレエ団で踊っている。ここで学ぶことに決めた当時を振り返り、「人生で最大の決断の一つだった」と言う。

 「若いダンサーにとって、成長でき目標や夢も達成できる学校を選ぶのは、とても大切なことだ。同時に、とても難しい決断だ。特に、行くつもりの学校についてよく分かっていない場合は。私が16歳でオーストラリアからスイスへやってきたときがそうだった」

 ところで、スイスのプロダンサー協会「ダンス・スイス」のリリアナ・ヘルドナーさんは、卒業後すぐに就職できる同校の生徒の数が高いのには「目を見張るものがある」と話す。

 2009年に連邦技能証明書が授与されるようになったことで、ダンスが公式に職業として認識されるようになった(これは他国と比べてずっと遅いが)。そしてチューリヒ・ダンス・アカデミーは、クラシックバレエのプロ資格を導入した初の学校だった。それが同校の成功の鍵の一つであり、ダンサーになりたい子どもをサポートするスイス人の親たちを育てることにもつながったとヘルドナーさんは言う。

そして、この資格についてこう話す。「舞台でのキャリアを終えた後にも、資格があると役に立つ。教師、マネージメント、ダンスを専門にしたセラピスト、あるいは全く違う道に進みたいと思うかもしれない。引退してもまだ25年ある。資格は別の職業への道を開いてくれる」

ローザンヌ国際バレエコンクール

ローザンヌ国際バレエコンクールは、国籍を問わず、15〜18歳のダンサーのための国際コンクール。候補者はビデオ審査と予選を勝ち抜かなければならない。決勝に進出できるのは20人のみ。入賞者は奨学金を得て、バレエスクールやカンパニーで研修を行う。コンテンポラリー賞や、スイス人とスイスのバレエスクールの生徒を対象としたベストスイス賞もある。これまでの著名な入賞者としては、英国ロイヤル・バレエ団の元プリンシパルのダーシー・バッセル、ロイヤル・バレエ団のプリンシパル・ゲスト・アーティストのカルロス・アコスタなどがいる。チューリヒ・ダンス・アカデミーは、ローザンヌ国際バレエコンクールのパートナー校。スイスのパートナーバレエ団は、ローザンヌのベジャール・バレエ団、チューリヒ・バレエ団、ジュネーブのグラン・テアトル・バレエ団だ。

チューリヒ・ダンス・アカデミーでの教育

基礎コースは11〜12歳で始まる。スイス国内でも家が遠い生徒や外国からの留学生には寮がある。栄養のアドバイス、専門的な医療ケアも受けられる。15〜16歳からは上級の勉強に進み、19歳で卒業。トレーニングはスイスの教育制度における「見習い(研修)」と同等と見なされ、最終的に連邦技能証明書を取得できる。チューリヒ芸術大学ではコンテンポラリーダンスの学士コースも提供されており、西スイス応用科学大学でも同様のコースが受けられる。

(英語からの翻訳・西田英恵 編集・スイスインフォ)

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