複数の国と国境を接する小国で暮らすスイス人にとって、国境は馴染みのある存在だ。新型コロナウイルスの感染拡大で閉鎖された間は、一層注目を集めた。スイス人写真家のロジャー・エーベルハルトさんは、さまざまな国境の風景を写真に収めるプロジェクトを3年以上に渡って行った。その結果、特に今の世の中を反映した写真集が出来上がった。
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チューリヒ出身のアーティストで出版社を経営するロジャー・エーベルハルトさんは、「私たちの世界は、目に見える、常に変化を続けるパズルであること」を表現するために、国境をテーマにした本を作りたいと思ったという。エーベルハルトさんは、1960年代以降に世界の国の数がいかに変化してきたかを挙げながら、国境は「流動的で」政治に結びついたものだと話す。
入国禁止や国境の壁、大量移民といった話題が国際ニュースに頻繁に登場する中、エーベルハルトさんは写真を使い、「人間が決めた区分の一時性」に光を当てたいと考えた。
エーベルハルトさんは国から国へと旅しながら、2020年3月に出版された「Human Territoriality(人間の領土意識)」のための写真を撮った。狙いは、地図上の線が現実世界において時に消えたり、移動したり、雑草が生い茂ったりする様子をフレームに収めて見せることだ。そのため、国境が変わったり消滅した場所、あるいは国境の両側にあった2つの国がもはや存在しなくなってしまったような場所のみを写真のモチーフに選んだ。
このプロジェクトの写真一枚一枚には物語がある。時代と歴史に占める位置を詩的に表現し、政治や気候変動によって私たちの世界の見方が変わる時に何が起こるかを見せてくれる。
スイス国内でエーベルハルトさんの撮影目的に合った場所は2カ所あった。1つはスイス南西部のヴァレー(ヴァリス)州にあるフルックザッテル峠だ。もう1つはスイス東部のエルホーン。第一次世界大戦中にスイスにとって焦点となった場所だった。
スイスは、スイス国境を攻撃するのに理想的な位置にあった隣国のリヒテンシュタインを自国の国家防衛計画に組み込みたいと望んでいた。リヒテンシュタインは当時のドイツとの関係から、自国の領土をスイスに譲渡することを渋った。交渉の末、経済的、領土的な補償と引き換えに、リヒテンシュタインは戦略的・軍事的に重要なさまざまな地点をスイスに譲渡した。その中には印象的なエルホーン(1枚目の写真)があった。標高758メートルのこの山は、1949年よりスイスのフレーシュ村に属している。
ロジャー・エーベルハルト:1984年生まれ。米カリフォルニア・サンタバーバラのブルックス写真大学とチューリヒ芸術大学で写真を学んだ。
(英語からの翻訳・西田英恵)
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