FIFA会長選 インファンティーノ氏、サッカー界の頂点を狙う
スイス・チューリヒで26日に行われる、国際サッカー連盟(FIFA)の会長選には、5人が立候補している。その中の1人が欧州連盟(UEFA)のジャンニ・インファンティーノ事務局長(45)だ。インファンティーノ氏と、FIFAの汚職事件で辞任したゼップ・ブラッター前会長には共通点がある。スイス南部ヴァリス(ヴァレー)州出身で、サッカー界での実務経験が豊富だ。インファンティーノ氏は、「私はブラッター氏ではない」とクリーンさを訴える。だが、同氏も他の候補者と同様、「不正に揺れたサッカー界の人間だ」と冷ややかに見る批評家もいる。
サッカーの豊富な実務知識は、頂点を狙うのにふさわしい経歴といえる。だが、FIFAはいまや単なる組織ではない。ワールドカップ誘致をめぐる汚職事件で、米国及びスイス司法当局による捜査の真っただ中にある。
インファンティーノ氏はFIFAの人間ではないが、UEFAに15年(うち7年が事務局長職)在籍し、サッカー界の政治力学に精通している。FIFAの今後について、同氏はスイスインフォの取材に「信頼を取り戻すことが鍵だ。FIFAと、FIFAに関わるすべての人間が一丸となって、現代的で、信頼される、透明性の高い組織に改革する。改革の旗振り役は、私が適任だと思っている」と電子メールで回答を寄せた。
ブラッター氏の後継を決める会長選で、ブックメーカー(公認賭け屋)は、インファンティーノ氏と、アジア連盟(AFC)のサルマン・ビン・イブラヒム・アル・カリファ会長(バーレーン)の2人が有力とみる。
インファンティーノ氏は、管理者としての評価が高い。人をまとめるのが上手な一方、方針に従わない人間には厳しい一面を見せる。弱点はカリスマ性のなさだ。それを補うためか、1日にロンドンで開かれた公約発表の記者会見には、元チェルシー監督のジョゼ・モウリーニョ氏、元ポルトガル代表MFのルイス・フィーゴ氏、元ブラジル代表DFのロベルト・カルロス氏と、サッカー界の著名人が支持者として勢ぞろいした。
同氏は会見で、サッカーのオールスター戦をFIFA本部(チューリヒ)で開催すると公約もした。
「ブラティニ」コネクション
インファンティーノ氏は、同郷のブラッター氏よりはミシェル・プラティニUEFA会長とのつながりの方が深い。だがプラティニ氏もまた、副会長を務めるFIFAの汚職事件で、200万フラン(約2億3千万円)を不正に受領したとして、ブラッター氏と同様、8年間の資格停止処分を受けている。
インファンティーノ氏がFIFA会長選に名乗りを上げたのは、昨年10月の立候補締め切り間際。立候補していたプラティニ氏が、資格停止処分によって撤退する可能性が出てきた時期と重なる(プラティニ氏はのちに立候補を取りやめた)。
インファンティーノ氏が汚職事件に関わったと示唆するようなことは何もない。だが同氏は繰り返し、「上司であるプラティニ氏の操り人形ではない」と主張してきた。同氏は、連盟でのキャリアが逆に、サッカーの運営が何たるかを知っている証しになると強調する。
「(FIFAが汚職事件に揺れた)この間、サッカーを何よりも優先してきた。自分たちのゲームのために、全力を注いできた。いかに大会の質を向上させ、歳入を増やし、差別を根絶し、UEFAがすべての加盟協会に公平なガバナンスを行っていくかに努力してきた」
インファンティーノ氏が作成したFIFAの改革案のリストは、FIFA再建委員会がすでに提示したものとよく似ている。同氏は同委員会のメンバーでもあり、似ていて不思議はない。
改革案は、役員の業務をチェックする監督機関の設置、役員報酬や販売権の決定に至る経緯を公開し、財政を透明化、コンプライアンスの強化や役員の任期を制限することなどだ。
選挙戦への批判
インファンティーノ氏はまた、FIFAの運営について、209ある加盟協会の発言権を拡大し、組織内の調和を図ると約束した。さらに、選挙で幹部へ投票する見返りに、加盟協会へ資金が流れる悪習を断ち切りたいという。
「資金がどこから来て、どのように分配され、使われたか。肝要なのは、FIFAに関するあらゆる金銭の流れを厳しくコントロールする枠組みをつくることだ。監督機関は独立性が確保されなければならない。FIFAの信頼性を取り戻すために、何よりも必要なことだ」とインファンティーノ氏は言う。
一方、過熱する選挙戦では、FIFAの内部から本当に改革を断行できるのか、と疑う声が上がる。舞台裏の取引が横行した秘密の世界こそがFIFAであり、FIFAを破滅に追いやった元凶だからだ。
会長選に立候補しているヨルダン協会長のアリ・ビン・フセイン王子は、他の候補者が、票欲しさにサッカー協会の秘密協定に加担していると批判した。協会は会長選の投票権を持つ。
アリ王子は11日、ジュネーブで記者会見し「私は、票集めのために執行委員会や連盟を利用するような候補者ではない」と苦言を呈した。有力候補のインファンティーノ氏がUEFA、サルマン氏がAFCとアフリカ・サッカー連盟(CAF)の支持を取り付けたことへの皮肉だ。連盟が支持を決めれば、傘下の協会の投票行動に影響を与える。アリ王子は「他の立候補者が地域で票固めをし、世界を分断しようとするのなら、それは間違っていると思う」と訴えた。
インファンティーノ氏に対する評価
FIFAの汚職事件への批判を展開してきた右派・国民党のローランド・ビュヒェル連邦議会議員は、5人の立候補者の中で、インファンティーノ氏が改革のリーダーに最もふさわしいと評価する。また、ブラッター氏と出身地が同じだということから判断されるべきではないとも訴えた。両者の出身地ヴァリス州は、身内を優先させるという評判がスイス国内であるためだ。
「同郷なのはただの偶然。ブラッター氏とそれ以外のつながりはない」とビュヒェル氏も断言する。
FIFAの広報局長を務めたスイス人法律家のギド・トニョーニ氏は、スイスインフォに寄稿したコラムで、インファンティーノ氏とサルマン氏との間に、会長選でどちらかが過半数を取れなかった際の合意事項があっても驚かない、と述べた。「新指導陣として例えば、サルマン氏が会長、インファンティーノ氏がCEOに収まる。これは合理的な解決策だ」
FIFAの旧来のメンバーを完全に追放して新しいメンバーと入れ替えない限り、組織の体質は変わらないという意見もある。「会長選は、自分で自分をだましているだけの茶番劇だ」。FIFAの汚職事件を暴いた英国人ジャーナリストのアンドリュー・ジェニング氏はスイスインフォの取材にこう言い切る。
ジェニング氏は「スイスと米国の司法当局の捜査で、これまでに多くのサッカー関係者が逮捕された。今後も逮捕者は増えるだろう。FIFA幹部のうち誰が次の委員会メンバーに残るのか、などと気をもんでいるとしたら滑稽だ。現幹部は誰一人として、FIFAに残ることはないからだ」と断言した。
(英語からの翻訳・宇田薫 編集・スイスインフォ)
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