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ミニ氷河期 早期到来の見込み無し

アルプスの氷河の前進を阻止しようと行進する人々
アルプスの氷河の前進を阻止しようと行進する人々 wikicommons

ベルンを拠点に活動する気候学者と気候史家が、過去1千年の気候を振り返る本を執筆した。著者らはその中で、現在の気候を巡る状況は過去と比較できないと説く。

ベルナーアルプスのブリュームリスアルプには、花が咲かない。氷に覆われたこの山塊には岩と寒さがあるのみだ。しかし、伝説によると、かつてブリュームリスアルプは、放牧されていた牛を1日に3度も搾乳しなければならないほど青々としていた。裕福な牧人は恋人に牛乳風呂を使わせ、道の舗装にはチーズの塊を使った。やがて当然の天罰が下った。氷と岩が激しく降り注ぎ、辺りは氷河で閉ざされた。

ブリュームリスアルプ伝説は、思い上がった人間が楽園から追放される寓話であると同時に、中世末期の気候変動に関する証言でもある。欧州では中世、繁栄の温暖期に続き小氷期が訪れ、氷河が再び成長を始めた。人々は祈りや行進で氷河をしずめたり十字架を掲げて押し返そうとしたりした。一方、現代人が祈るのは、氷河が完全に消えてしまわないことだ。

「懐疑的」な自称気候学者たちはこのような古い言い伝えを非常に好む。彼らは中世初期の温暖期を賛美し、中世末期には小氷期が来たと議論する。その結論は、気候の歴史もファッションのように周期がある、というものだ。彼らによれば全ては繰り返される。寒くなれば、また暖かくなる。心配することは何もない。それが歴史の流れなのに研究者らは気候史を道具にパニックをあおる、と非難する。

「エッツィ」からの警告

歴史学者クリスティアン・プフィスター氏と気候学者ハインツ・ヴァンナー氏は、このようにいい加減な話をまき散らす人々をはっきり否定する。両氏が共同執筆した気候史に関する本「Klima und Gesellschaft in Europa(仮訳:ヨーロッパの気候と社会)」は、「歴史的状況を比較することはできない」という文章で始まる。たとえ14世紀のイギリスで(一応)飲めるワインが作られていたり、ケルンにオリーブの木が生えていたりしたとしても、20世紀半ば以降の世界が経験している気候変動は歴史上、前例が無いからだ。

その数多い証人の1つが1991年、氷が溶けたために突如発見され、アルプスで最も有名な遺体となったミイラ「エッツィ」だ。エッツィが発見されたことで「アルプスの氷河の規模が過去5千年間の最小値を下回った」ことがはっきりした。ミイラが苦手ならば、その1年前、ほとんど雪が降らなかったスイスアルプスで、スキー場の営業を続けるために人工雪を降らせ始めたという事実もある。

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気候の証人としての海泥

歴史を扱う気候学者や気候史家にとっては、木の皮、海底堆積物、氷山のコア、石筍(せきじゅん)といった自然界のアーカイブに加え、何百年も前のライ麦の価格表なども情報源となる。

気候変動の歴史を語る方法はいくつかあるが、その1つが変化要因(ドライバー)の歴史だ。19世紀半ばまでは人間による気候への影響はほぼ無かった。気候変化は火山の噴火、特に太陽活動の変動などで生じるものだった。その後、工業化が進んで人為的な気候変動が起こるようになった。気候変動が本格的に加速したのは消費文化とモビリティー文化の発達が原因だ。それを可能にしたのが1950年代の安価な石油の大量供給だった。

両氏の著書は、慎重を期して欧州の気候史だけを取り上げている。20世紀になるまで地球規模の気候史が存在しないからだ。世界中で同じような変化が見られるようになったのはここ数十年の話であり、世界気候史は人間の影響があって初めて同期化された。

脆弱(ぜいじゃく)な時代

著者らはまた、歴史においては、気候条件によって一揆や戦争、反乱など社会変動が起こりやすくなっていた点も明らかにする。

絵
1570年にチューリヒで配られたこのビラには、悪魔を崇拝する魔女たちの姿が描かれている。後列左の魔女は、魔法の薬を使って嵐を起こしている wikicommons

両氏は、執筆の過程でそれぞれ歴史家と気候学者としての専門知識を持ち寄った。もちろん、魔女の迫害には天候以外の原因があった可能性も考慮した。それでもなお、気候の影響は決定的だった。15世紀半ばに太陽活動の低下で気温が低くなると、今年のように多雨で不作の夏が続いた。その説明としてポピュラーだったのが「魔女の仕業」だ。魔女狩りのピークは気候が急速に悪化した時期と重なっている。

両氏の著作は、新たな温暖化とそれに伴う極端な変動が起こっている今、脆弱(ぜいじゃく)な時代が再び幕を開けようとしていると論じる。同書は未来を考えるための歴史書であり、過去の気候変動が社会にどのような影響を与えたのか、そして現代の私たちは同様の事態にどう備えるべきかを示そうとしている。

(独語からの翻訳・フュレマン直美)

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