森の空気を浴びてリフレッシュする森林浴が、欧州で注目を浴びている。スイス南部ヴァレー州にある世界遺産アレッチ氷河地域ではこの夏、森林浴とヨガを楽しむイベントが開かれた。チューリヒ在住のヨガ講師で森林セラピーガイドの長津メラー明子さん外部リンク(43歳)が案内し、参加者らは1千年の歴史を誇るアレッチ森林を散策した後、壮大なアルプスの中でヨガを楽しんだ。
このコンテンツが公開されたのは、
マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
アレッチ森林は氷河のそばに広がる古いマツなどの森林で、国の保護指定林。地元の観光振興会社アレッチ・アリーナ外部リンクが、この森と氷河の美しい景観を生かして観光客を呼び込もうと今夏初めて森林浴イベントを企画。その一環で森林浴ヨガの教室を開いた。7月20日と8月25日の2回行われ、地元のスイス人ら男女計約20人が参加した。
参加者らは朝9時ごろ、アレッチ氷河観光の起点となるロープウェーのリーダーアルプ・ミッテ駅(標高1905メートル)を出発。そこからリーダーフルカと呼ばれる地点を通ってアレッチ森林に入った。歩く道すがら、立ち止まってゆっくりヨガの呼吸をしたり、長津さんから森林浴の歴史や体への効果についてドイツ語で説明を受けたりしながら、1時間ほどかけてヨガの開催場所に向かった。
森を抜け、アレッチ氷河を一望できる場所に着くと、待ちに待ったヨガの時間。ゆったりした呼吸で新鮮な空気を目いっぱい体の中に取り込み、リラックス効果の高いポーズを一つ一つゆっくりと行った。森林にちなみ、片足立ちで両腕を空に向かって伸ばす「木のポーズ」なども取り入れた。
参加者はスイス人のほか、スイス在住40年の日本人夫婦、広告を見てオランダから休暇を利用して来た男性もいた。「とても気持ちが良かった」と好評だったという。
森林浴の素晴らしさを伝えたい
長津さんは静岡県浜松市出身。地元のメーカー勤務などを経て、留学先のマルタで知り合ったスイス人男性と2006年に結婚。同年、チューリヒに移住し、2年後に長男の幸一郎くんを出産した。以前から続けていたヨガの経験を生かし、16年にヨガ講師の資格を取得。普段はチューリヒのフィットネスジムなどでヨガを教えている。
森林浴に目覚めたのは、幸一郎くんが3歳半から4歳半までの1年間、チューリヒの「森の幼稚園」に通ったことがきっかけ。森の幼稚園は、子どもたちが丸一日、森の中で遊んだり、ご飯を食べたりして過ごす。毎日泥んこになって嬉しそうに帰ってくる幸一郎くんの送り迎えで森に通ううち、心身ともにとても癒されたという。
「田舎育ちだったこともあって、もっと多くの人に自然の素晴らしさや森林浴の効果を伝えたいと思った」という長津さん。今年7月、通信教育で日本のNPO法人「森林セラピーソサエティ外部リンク」が発行している森林セラピーガイドの資格を取得した。
「Shinrin-yoku」
森林浴は、森の中に入って新鮮な空気を浴びる健康法で、樹木が出すフィトンチッドという物質が疲労回復に効果があるとされる。日本の森林浴の歴史は古く、1982年に当時の林野庁長官の秋山智英氏が提唱したのを機に広まった。代表的なのが「森林浴発祥の地」として知られる長野県の赤沢自然休養林だ。
その森林浴が欧州でも最近注目されるようになった。スイス国内では新聞や雑誌が森林浴を特集し、日本の「Shinrin-yoku」を先駆け的な事例として紹介している。
長津さんは「自然の中に身をおくことでありのままの自分を見つめ、受け入れることができる。リラックス効果は抜群で、森林浴とヨガでさらにプラスの相乗効果が生まれる」とメリットを語る。
来年もアレッチ氷河での森林浴ヨガ教室が開かれる予定。長津さんは「アレッチ氷河はもちろん、チューリヒでも森林浴ヨガの教室を開きたい。機会があれば、ほかの土地でも森林浴の良さを伝えていきたい」と話している。
続きを読む
おすすめの記事
スイス在住日本人が教える とっておきのスイスの夏休み20選
このコンテンツが公開されたのは、
いよいよ夏休み。山や川、湖といったスイスの自然も輝きを増し、世界中から夏を過ごしに観光客がやってくる。スイスに住む日本人はどのような夏休みを過ごすのか?お勧めの旅行先は?
もっと読む スイス在住日本人が教える とっておきのスイスの夏休み20選
おすすめの記事
トレイルランニング天国スイスの魅力を紹介します
このコンテンツが公開されたのは、
山岳を走るトレイルランニング(トレラン)の人気はうなぎ登りだ。スイスにある無数の山道や息を飲むような眺め、そして奥深い谷に至るまで行き渡る公共交通網は、山岳スポーツの新たな理想郷の開拓にぴったりだ。米国人のダグ・マイヤーさんは最近出版した著書で、その魅力をあまねく世に広めようとする。
もっと読む トレイルランニング天国スイスの魅力を紹介します
おすすめの記事
ヨーロッパ最高地点の鉄道駅でトイレを流すとどうなる?
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで最も標高の高い地点にある観光名所ユングフラウヨッホでは、100万人を超える観光客のための水・食べ物・酸素はどのように賄われているのか?舞台裏に迫った。
もっと読む ヨーロッパ最高地点の鉄道駅でトイレを流すとどうなる?
おすすめの記事
日本人ら研究チーム アレッチ氷河内部の初「透視」に成功
このコンテンツが公開されたのは、
日本人を含むベルン大学の研究チームが、宇宙線のミュー粒子を利用し巨大な物質の内部をレントゲン写真のように写す技術「ミュオグラフィ」で、ユングフラウのアレッチ氷河の透視に初めて成功した。これまで調査が困難とされてきた氷河内部の解明につながるほか、研究者らは「氷河の予報も夢ではない」と期待する。
もっと読む 日本人ら研究チーム アレッチ氷河内部の初「透視」に成功
おすすめの記事
写真で巡るスイスの世界遺産
このコンテンツが公開されたのは、
現在ポーランドで開かれているユネスコ世界遺産委員会は9日、福岡県の「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」を世界文化遺産に登録すると決定した。これまでに登録されたユネスコ世界遺産は1052件。そのうちスイスにある世界遺産は12件で、9件が文化遺産、3件が自然遺産として登録されている。
もっと読む 写真で巡るスイスの世界遺産
おすすめの記事
アレッチ氷河
このコンテンツが公開されたのは、
スイス南部ヴァリス(ヴァレー)州を拠点に活動する写真家マルコ・フォルケン氏の写真集「Aletsch – Der grösste Gletscher der Alpen(アルプス最大の氷河 アレッチ氷河)」より
もっと読む アレッチ氷河
おすすめの記事
アルプス最大のアレッチ氷河、今世紀末にほぼ消滅の危機
このコンテンツが公開されたのは、
アルプス最大を誇り、世界自然遺産にも登録されているスイス南部ヴァリス(ヴァレー)州のアレッチ氷河が危機に瀕している。地球温暖化により氷がかつてないスピードで解け続け、このままでは今世紀末までにほぼ消滅する可能性があるという。それだけでなく、周辺の景観や生態系にも大きな影響が及んでいる。
氷河の南端にあたる同州のリーダーアルプの村からゴンドラリフトで上がると、モースフルー展望台(2333メートル)に着く。展望台に立つと、アレッチ氷河の息をのむ美しさが眼前に広がる。グレーと白色が織り交ざった氷の河が、雄大なアルプスの山あいを縫うように流れる。
年配の日本人夫婦の観光客がベンチに座り、弁当を広げて景観を楽しんでいた。男性は「ここに来るのはこの17年間で3回目になるが、来るたびに氷河の様子が少しずつ変わっている。以前より河の幅が狭くなったし、氷の厚さもずいぶん減った。それでもやはり美しいけれど」と話す。
もっと読む アルプス最大のアレッチ氷河、今世紀末にほぼ消滅の危機
おすすめの記事
スイスのユネスコ世界遺産を写真で再発見
このコンテンツが公開されたのは、
首都ベルンの旧市街は、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。ここでは今週末に、世界遺産マーケットが開催される予定だ。また、アルプス最長のアレッチ氷河をたたえる世界自然遺産の「スイスアルプス ユングフラウ・アレッチ」を…
もっと読む スイスのユネスコ世界遺産を写真で再発見
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。