「総選挙は無効!」 在外スイス人の叫び
20日行われたスイス連邦総選挙で、多くの在外スイス人が投票の機会を逃した。投票用紙が期日に間に合わなかったのだ。
選挙権という本来全てのスイス人が持つ権利を行使できなかったことに対する憤りは激しい。珍しいことではないが、今年は全ての州が電子投票を取りやめたため、状況は悪化した。取りやめた背景には選挙・投票の安全性が危険にさらされていると、公に批判されたことがある。ただ、スイス民主主義に対する信頼は結局地に落ちる羽目になった。
スイスインフォ編集部はフェイスブック公式アカウントで、スイス人フォロワーにどこに住んでいるか、投票用紙が届いたかどうかを尋ねた。
怒りに満ちた回答を寄せたのは、コロンビア在住のニコラウス・ヴィスさん。20日にフェイスブックで「今日になって投票用紙が届いた。即刻ゴミ箱行きだね」とつづった。
ブラジルやタイ、マレーシアなどからも同じような声が寄せられた。
「投票用紙は余裕をもって発送されたのか?これを理由に投票に異議を唱えることはできないものか?」
「選挙は無効だったと主張できるのでは?」
「有権者が権利の行使を阻害されたのであれば、選挙は無効だ。そう訴えれば、スイスの役立たずな役人も慌てるだろう」
前出のニコラウス・ヴィスさんはこう結ぶ。「スイスの役人が国外での選挙・投票を可能にすることを軽視していることは、スキャンダルだと思う。国外で郵便物が数週間も遅れて届くことは分かり切ったこと。選挙・投票権を別の方法で確実にしなければならないのは当然の帰結だ。在外スイス人の代表者は本当に必要なのだから」
スイスインフォの在外スイス人向けアプリにもたくさんの怒りの声が届いた。
タイ在住のロバート・フィスターさんは「スイス政府が電子投票の導入を先送りにしているのは、スイスの国民の権利を軽視していることに他ならない。国民議会議員の選挙が電子投票なしで実施されたのは、選挙は無効だと言わざるを得ない」と考える。
投票権は放棄すべき?
一方、アプリユーザーの1人であるマルコ・Aさんの弁は「どうしてこれが問題になるなのか分からない。スイスに住まないなら、そもそも投票してはいけないのではないかと思う。正直言って、在外スイス人はスイスで生じている今の問題をちゃんとわかっているのだろうか?それにそれは私たちに直接影響するのだろうかか?」
別のユーザー、モニカ・Fさんも「私は在外選挙登録したことはない。毎年実施される全ての国民投票を追ってもいない。短期間しか国外に住まない人なら分かるが、もうスイスに戻る予定もない人は、選挙も投票もするべきではない」との意見だ。
英国から国民議会(下院)に立候補したフランツ・ムハイムさん(自由緑の党)は、スイスインフォ編集部に直接メールを寄せた。ムハイムさんは在外スイス人協会(ASO)の役員で、電子投票が再び議題になることを期待する。物理学者でもあるムハイムさんは「スイスが毎年1000万フラン(約10億円)投じれば、10年後にはちゃんとした仕組みが出来上がるだろう」とみる。
電子投票見送りの余波
在外スイス人協会が総選挙の翌日に発表した分析は注目に値する。
協会は在外スイス人の投票率を、前回の2015年総選挙で電子投票が可能だった州で比べた。その結果、電子投票の打ち切りにより明らかに投票率が下がったことが分かった。
- ジュネーブ州:投票率32%→21%
- ルツェルン州:32.1%→23.4%
- バーゼル・シュタット準州:26%→19.2%
2019年5月19日の国民投票での投票率とも比べたが、当時まで電子投票が可能だったアーラウ、ルツェルン、ヴォー各州でも、それぞれ10ポイント前後投票率が下がった。
投票の傾向
在外スイス人が有効に選挙権を行使できていれば、確かに選挙結果は異なったかもしれない。データが入手可能な10州で住民と在外スイス人の投票先を比べたところ、在外スイス人の方が緑の党を選好する傾向が強く、国民党の支持層が少ないことが分かった。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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