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スイス関与のスパイ疑惑、どう解明していく?

多くの国が使っていたスイスのクリプト社製の暗号機は、解読可能な細工が仕込まれていた Keystone / Rama/lizenz Cc-by-sa-2.0-fr

ルビコン作戦」がスイス中を揺るがしている。スイスの暗号機メーカー、株式会社クリプトをめぐるスパイ疑惑の真相を解き明かすため、スイス史上5番目の議会調査委員会(PUK)が立ち上がる可能性がある。危機的な事件が発生した時のみ設立される機関だ。

クリプト社のスパイ関与報道はスイスに衝撃を与えた。米中央情報局(CIA)と独連邦情報局(BND)が、クリプト社製の不正暗号機を使って100カ国以上の機密通信を傍受していたのだ。米ワシントンポストと独ZDF、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)が11日、共同で報じた。

同じ日にスイス政府は真相追究に着手すると発表。13日には議会の連邦行政監視委員会が、歴代政府がどこまで実態を把握していたのか、独自に調査をすると発表した。左派政党はさらにPUKの立ち上げを求めている。非常事態にしか設置されない組織だ。

連邦議会法外部リンクによると、「広範に事実解明が必要な場合」に、上下両院はPUKの設置を決定できる。PUKは事実関係の確定に責任を負う。国民議会(下院)と全州議会(上院)から選出された同数の議員で構成する。

メンバーは議会事務局が政党勢力を考慮して指名する。PUKには専属の事務局がつき、必要な職員が充てられる。

連邦閣僚からも1人、PUKに参画する。証人として招致された人の聴聞会に参加し、質問する権利がある。

PUKは公的行為の手続きが適切かどうかをチェックする監査委員会と同じ情報を入手する権限がある。証人を呼んだり議事録を閲覧したり、必要に応じて捜査官に証拠を提出するよう求めることができる。

PUKの報告書が公開されるまで、会議または聴聞会に出席した全ての人には守秘義務が課せられる。連邦・州当局は、PUKに必要な法的・行政上の支援を提供する義務がある。

スイス史上、PUKが設置されたのはこれまでたった4回だ。

ミラージュ・スキャンダル

初のPUKが設置されたのは1964年、ミラージュ事件の真相を突き止める使命だった。フランス製戦闘機100機の購入で5億7600万フランの予算超過が発生した事件だ。報告書は国防省が連邦政府・議会と世論を誤解させたことに責任があると結論付けた。購入した戦闘機は57機に減った。

フィシュ・スキャンダル

1989年には連邦司法・警察相だったエリザベス・コップ氏の辞任を調査するためPUKが設置された。調査の過程で、スイス人や外国人の素行を違法に調査・記録した90万点の文書の存在が明らかになった。内偵は主に左翼活動家らを対象に、冷戦中に国を危機に陥れかねない共産主義活動からスイスを守るための活動だった。フィシュ・スキャンダルの暴露もまた国内に波乱を広げた。

秘密軍

フィッシュ・スキャンダルはさらなるPUK設置にもつながった。諜報機関を指揮する軍部の調査を委任された。このPUKは1990年、コードネーム「P27」と呼ばれた情報機関と、同「P26」と称する秘密軍があったことを暴露した。秘密軍隊は法的根拠も政治的正当性もなく、行政から独立して海外で諜報活動を行うという任務を負っていた。

国家公務員年金基金の不当な扱い

第4のPUKは、連邦職員の年金基金が苦境に陥ったのを受けて1995年に設置された。オットー・シュティッヒャー元連邦閣僚に主な責任があるとの結論に達した。

他にもPUKの立ち上げが提案されたが、連邦議会はこれを否決した。たとえばスイス航空(現スイスインターナショナル・エアラインズ)の破綻に関しても設置要求が出ていた。

連邦議会は早ければ3月の春期国会でPUK設置を決める可能性がある。シモネッタ・ソマルーガ連邦大統領はフランス語圏のスイス公共放送テレビ(RTS)の番組で、議会がPUK設置を決定すれば、連邦内閣はこれまでの事例と同様、議会の決定を「当然支持する」と述べた。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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