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現地生産を強化し「ワクチン・アパルトヘイト」に終止符を

Marcela Vieira & Adrián Alonso Ruiz

31日に閉会したスイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)年次総会で、ヘルステクノロジー(保健医療分野の科学技術)の現地生産の改善に関する決議案が議題に上った。ジュネーブ国際開発高等研究所(IHEID)の研究者たちは同案の重要性を主張している。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、公衆衛生を国や国際社会の最重要政治課題へと引き上げ、医薬品の研究開発(R&D)システムの欠陥に新たな光を投げ掛けた。新型コロナ関連のヘルステクノロジーへのアクセスを巡り、市民は厳しい目を向け、議論は高まりを見せた。これは、知識や生産能力の偏在といった、長年にわたるシステムの問題を解決へと導く絶好の機会になるかもしれない。

WHO年次総会(WHA)の議題に挙がった「医薬品およびその他のヘルステクノロジーへのアクセス改善に向けた現地生産の強化」は、発展途上国の輸入への依存度を減らし、イノベーションを促進し、知識集約型経済を活性化する行動を求める内容だ。このテーマはこれまでもグローバルヘルスに関するフォーラムで議論されてきたが、新型コロナは、ヘルステクノロジーの輸入やドナーの支援に頼るリスクを明らかにした。例えば、輸出禁止や輸出制限は、パンデミック初期に医療機器や保護具の不足を招いた。今ではワクチン生産国が自国民への接種を優先するため、ワクチンへの世界的なアクセスが制限されている。

医薬品の現地生産の強化は、発展途上国だけの問題ではない。例えば、欧州連合(EU)の「欧州医薬品戦略」と「公衆衛生緊急事態準備・対応局(HERA)」の設立案の目的は、「医薬品分野における戦略的自律性」の構築、生産チェーンとサプライチェーンの多様化、欧州での生産とイノベーションの促進だ。また、スイスも国内のワクチン・医薬品開発を強化する方法を模索している。しかし、スイスやほとんどのEU諸国は、現地生産と供給の安全保障の重要性を認識しながらも、WHA決議、WHOの新型コロナウイルス・テクノロジー・アクセス・プール(C-TAP)型コロナにかかわるヘルステクノロジーに対する「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)の一部条項の一時停止など、発展途上国の能力構築に向けた取り組みには協力的ではない。

C-TAPはコスタリカの提案を受けてWHOが設立した。コロナワクチンの生産拡大に関する障壁を取り除く方法として、オープンライセンス(使用許諾)契約による知識、知的財産(IP)、データの自発的な共有を奨励するものだ。現在のところ、このプラットフォームはまだ利用されていない。インドと南アフリカが提案したTRIPS協定に盛り込まれているIP保護義務の一時免除は、ワクチンメーカーに法的な確実性と生産能力に応じた生産開始の自由を与え、特許侵害訴訟のリスクを負うことなく新規設備への投資を促進するねらいを持つ。特許保護の一時免除は、C-TAPのように特許権者の自発的な共有に頼るのではなく、IPとして保護された知識をすぐに利用できるようにすることで、潜在的な生産能力を活用しながら生産設備にてこ入れするものだ。場合によっては追加的な技術移転が必要になるだろう。またTRIPS協定は、企業の後発開発途上国への技術移転を奨励する義務を先進国に課しているが、これは歴史的に見ても果たされてこなかった義務だということを思い起こす必要がある。特許保護の一時免除の提案は、一部の例外を除いて、産業界からもほとんどの先進国からも支持を得ていない。

本記事の著者の主張を裏付ける新型コロナワクチンにかかわる資金調達、生産、流通に関するデータは、ジュネーブ国際開発高等研究所(IHEID)グローバルヘルスセンターの「イノベーションと医薬品へのアクセスに関するナレッジポータル外部リンク」に集められている。このサイトでは、医薬品のイノベーションとアクセスをめぐる政策についての情報、研究、分析に自由にアクセスすることができる。

先進国や産業界はむしろ、二国間の製造協定や技術移転協定を促進する取り組みを支持してきた。オープンライセンス契約や特許保護の一時免除では、関心のある生産者なら誰でも知識を利用できるようになる。他方、二国間協定はより制限的で、誰がどのような条件で生産できるか、ライセンス製品をどこに流通させるかなどを企業は選ぶことができる。この戦略は、世界の生産能力を拡大できるが、少数の企業の手に決定権と知識の管理をとどめる。いくつものワクチンメーカーがこのような産業主導の契約に取り組もうとしたが、失敗に終わった。公開されているコロナワクチンの製造契約から集めたデータによると、高所得国に拠点を置くワクチン開発者は、主に高所得国に拠点を置くメーカーを生産パートナーとして選んでいる。対照的に、インド、中国、ロシアのワクチン開発者はほとんどの場合、中所得国を拠点とする生産パートナーを選んでいる。低所得国のメーカーに関するデータにこのような合意はない。

また、コロナワクチンへのアクセスをめぐる今の不平等格差は、寄付の限界やドナー国の政府開発援助(ODA)への過度の依存を浮き彫りにする。ODAは貧困国のアクセスを促進するグローバルヘルスの取り組みの財源となっている。「COVAX(コバックス)ファシリティー」は、コロナワクチンへの「公平かつ公正なアクセスを世界中の国々に保証する」ために設立された国際協力の枠組みだ。しかし、コバックスは2021年末までに低所得国の人口の2割をカバーするのに十分なワクチンを供給するという、それほど野心的ではない目標を達成するのにさえ苦労している。IP障壁や富裕国によるワクチンの買い占めによって世界の供給量が人為的に制限されている現状では、このメカニズムを通して分配されるワクチンはほとんど残っていない。二国間の寄付は、一部の国がワクチンを入手できた唯一の方法だ。しかし、これまでのところ、その数は非常に限られており、技術的に管理が複雑だ(有効期限の短さ、医療システムの準備、サプライチェーンの制約など)。さらに、ワクチンの寄付は疫学上や公衆衛生上のニーズよりも、外交的・地政学的な理由に基づいて行われてきたのかもしれない。公表されている製造契約の約4割は、各国の国内需要の一部または全部を満たすことを目的としているため、生産能力もまた、ワクチンを入手するための「てこ」として利用されている可能性がある。

ワクチンの世界的な生産量を増やすことは、生産国での入手可能性やアクセスを高めるだけではなく、分配可能なワクチンの増加にもつながる。しかしそのためには、既に能力のある生産者の生産を妨げる障壁(知的財産権による知識の私的管理や所有など)を取り除き、能力のない国での生産を強化するために技術やノウハウの移転を増やさなければならない。発展途上国での現地生産を強化すれば、寄付や輸入品への依存度が下がるだけではなく、ドナーや既存の生産国の政治・経済的な影響力を弱めることになるだろう。慈善ではなく公平を要求し、知識の集中を招き、発展途上国と先進国との技術格差を拡大させてきた医薬品のR&Dシステムの長年にわたる構造的な欠陥を改めるよう要求する国はますます増えている。

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富裕国やドナーもこの機会を利用して、公的な研究開発資金を「てこ」に、成果として得られたテクノロジーのデータや技術の共有を要求することができるかもしれない。コロナワクチンの開発だけではなく、その他多くのヘルステクノロジーの開発に関して、R&Dシステムのすべての段階に公的資金が流れ、投資リスクを軽減している。民間部門に技術やノウハウの移転を義務付ける、あるいは、世界の公共財として知識を公開し、利用できるよう義務付けるなど、今こそ市民ともっと利益を分かち合うべきだ。ヘルステクノロジーの「データ共有、研究、現地・地域・世界での生産と流通」を促進する新たな「パンデミック条約」が提案されている。これは、すべての国が将来のパンデミックに対してより良い準備ができるように現地生産を強化するなど、グローバルヘルスシステムの重大な格差に対処する機会になるかもしれない。

公衆衛生危機は、しばしばパニックと無視の悪循環を引き起こす。このような悪循環を断ち切り、長年の課題に向き合うことで、感染症の流行への対応を改善し、あらゆる場所でヘルステクノロジーへのより幅広いアクセスを向上させることができる。WHA決議で提案されたように、医薬品やその他のヘルステクノロジーの現地生産を強化することは、世界中のアクセスを改善し、より公平なものにする方策の1つだ。20年以上前、ほとんどの高所得国ではHIV/エイズの治療法が利用できた一方、発展途上国では同じ治療法へのアクセスが無かったために何百万もの人々が命を落とした。今日でも他の多くのヘルステクノロジーを巡り同じような状況が続いている。今の新型コロナの「ワクチン・アパルトヘイト(人種隔離)」にも見られるように、歴史は繰り返す。国際社会には今回、ついに医薬品のR&Dシステムの改革を採択し、現在と将来のヘルステクノロジーへの「アクセス・アパルトヘイト」に終止符を打ってもらいたい。

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(英語からの翻訳・江藤真理)

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