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スイスの水力発電 ドイツエネルギー転換の支えに

スイスには水力発電所が多い。そのうちの一つはミューレベルク原発からそれほど遠くない場所にある Keystone

スイスの電力産業がドイツの市場開拓を積極的に進めている。スイスと欧州連合(EU)の間でエネルギー問題をめぐる交渉が難航する現在、スイスのエネルギー業界はドイツ政府に、電力安定供給の備えとしての水力発電の存在をアピールしている。

 「エネルギーシフト」をキーワードに、ドイツでは政府によるエネルギー転換が急ピッチで推し進められている。脱原発の道を進み、同時に再生可能エネルギーの拡充を行う上で必要とされるのは、電力供給の安定に向けた新たな骨子案だ。そのため現在、ドイツ政府は将来の構想を進めており、提案を「Grünbuch(緑の本)」にまとめている。まだ正式な決定事項はないため、外部からの提案も受け付けている。

 これを、水力発電の存在をアピールするチャンスとして利用したのが、スイス電力市場の関係当局、企業、団体関係者だ。代表団はドイツ連邦経済・エネルギー省を訪問し、「エネルギー供給案に、スイスの水力発電も盛り込むべきだ」と伝えた。

スイスとヨーロッパの電力市場

7月1日から欧州連合(EU)のエネルギー同盟がスタートする。これにより、電力と供給網を含む域内エネルギー市場が統合される。スイスがこの同盟に参加するには、EUと協定を結ぶ必要があるが、スイスでの移民規制案可決をうけ、EU側から交渉拒否されていた。

欧州委員会気候・エネルギー総局のミゲル・アリアス・カニェーテ氏は今年1月、EUとスイスが今年半ばまでに暫定的な電力協定について協議できるのであれば、スイスはエネルギー同盟に参加できる可能性があると、スイスのドリス・ロイトハルト環境・交通・エネルギー・通信相に伝えた。

交渉の前提条件として、スイスはEUとの間で問題が起こった際、欧州司法裁判所もしくは欧州自由貿易連合(EFTA)の裁判所のどちらかが仲裁に入ることを認めなければならないとしている。

ロイトハルト氏は交渉の用意があるとし、6月に提出されるスイス側からの提案が受け入れられれば、ヨーロッパのエネルギー市場にスイスが参入することになる。

スイスの電力は高すぎる?

 ドイツのエネルギー転換は非常に難しい課題だ。国が推進してきた再生可能エネルギーは、日射量が多い日や風の強い日は発電量に余剰が生じ、それが取引価格を押し下げる。ドイツから電力を輸入するスイスの電力会社はその恩恵を受けられるものの、スイスで水力発電を行い電力を輸出する事業者には全く勝ち目がない。

 「現在のヨーロッパ市場において、スイスの水力発電で作られた電力は、価格面において競争力がない」と、スイス電力会社連盟(VSE)外部リンクのクート・ロールバッハ会長は話す。現在のスイスフラン高も要因の一つだという。

 しかし水力発電には、他の再生可能エネルギーにはない大きな強みがある。大容量の「蓄電」機能だ。揚水式水力発電では、余剰電力で下池から上池ダムへ水を、電力需要が高まれば上池から水を流して発電をする。このような蓄電機能は柔軟性に優れ、電力の安定供給に重要な役割を果たすことができる。

水力発電の高い柔軟性

 「スイスの水力発電はドイツのエネルギーシフトにぴったりだ。柔軟性があり、環境にもやさしい」とロールバッハ氏は高く評価する。2017年には水力発電で4ギガワットを輸出できる準備があり、これは大型火力発電所2基分の発電量に相当する。「必要となれば、瞬時に送電できる」とロールバッハ氏はアピールする。

 エネルギーの安定供給において、柔軟性はとても重要な要素だ。例えば大型発電所では発電開始までの立ち上げ時間が長い。太陽光や風による発電は自然に左右されるため計画的にできず、また、供給量を需要に併せて変えることは難しい。

 その柔軟性こそが、スイスがドイツのエネルギーシフトに対して提供できるものだ。スイスの送電会社スイスグリッド外部リンクは「電力が足りない時には、直ちに対応できる」と話す。だた、ドイツの電力市場がスイスの電力業者にも公平に開かれること、またドイツで支援対象となっている発電施設に優先権を与えないことが望まれると、連邦エネルギー省エネルギー局外部リンク長のワルター・シュタインマン氏は言う。これらのことが、前提として政治的に求められている。

 既に技術面では、国境を越えた電力供給は可能となっている。スイスには現在、国外へとつながる30の送電網があり、ヨーロッパ内で取引されている電力の10%以上が流れている。「我々はヨーロッパの送電網の回転盤なのだ」とシュタインマン氏。今後、スイスは自国の送電網を利用した電力の国際取引を増やしていく方針だと話す。

スイスの水力発電を利用する利点

  スイスの水力発電がドイツから利用される可能性は高まってきている。ドイツでは稼働停止した原子力発電の代わりとして、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭火力発電が再び利用されることに対し批判的な見方がされている。一方、スイスの水力発電であれば環境にやさしく、加えて電力をそのまま輸入できる。また、ドイツは自国の電力生産量に占める再生可能エネルギーの割合を、50年までに80%に引き上げることを目標としており、ドイツ政府は柔軟性の高い予備の電力をますます必要としている。こうした予備があれば、たとえ日射量が少ない日や風がない日でも電力供給の安定を保てる。

  また送電という観点においても、スイスには利点がある。例えばスイスとの国境に位置するドイツ南部のコンスタンツに送電する際、わざわざ北海の風力発電からドイツ全土を経由させるより、スイスの水力発電から電力を輸入した方が断然早い。実際ドイツ南部では既に、雨の日や風のない日の電力需要が供給を上回るときは、スイスの揚水式水力発電から電力を輸入している。ただ、輸入に関してのドイツ側の判断基準は、今のところはっきりしていないと、前出のロールバッハ氏は不満を漏らす。

 ロールバッハ氏は、ドイツのエネルギーシフトで計画されている送電網を、北ドイツから南ドイツに限らずスイス国内までつなげ、ドイツの太陽光・風力発電と同じように、スイスの水力発電も最大限活用できるようにすることを望んでいる。

(独語からの翻訳 大野瑠衣子)

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