スイスの駐イラン大使、イスラム教ベール着用で炎上
スイスの駐イラン大使ナディーン・オリヴィエリ・ロザーノ氏が、全身を覆うイスラム教の衣服「チャドル」を着てイランの聖地にある宗教施設を訪れた。これがイスラム政権支持と受け止められ、批判を呼んでいる。
スイスの駐イラン大使、ナディーン・オリヴィエリ・ロザーノ氏が集中砲火を浴びている。22日にイスラム教の聖地であるイラン北部のゴムを訪れた際、全身を覆うベール「チャドル」を着ていた写真がツイッターで拡散され炎上した。
批判の急先鋒にいるのがイランの活動家だ。イギリス系イラン人女優のナサニン・ボニアディ氏はツイッターに、勇気あるイランの女性が自由のために全てを懸けて危険に立ち向かっているなか、ベールを被るという保守的行為は断じて許されることではないと投稿した。
チャドルを着たロザーノ氏が宗教指導者と共に写真に写っていることが不名誉だとするツイートも多い。ベルギーのダリア・サファイ国会議員は、「何百万人ものイラン人女性が女性の権利のために戦っている時に(中略)、彼女はヒジャブを着用し、抑圧者の広告塔になっている」と書いた。
スイス大使がイラン政府を支持したとの批判もある。スイス中央党のマリアンヌ・ビンダー・ケラー連邦議員にとって、ロザーノ氏の姿はイランで抗議運動を続けている人々に平手打ちを食らわせる行為だと憤った。
「こんな写真を撮られるのは非常にまずい。画像が悪用されかねず、それは現実になっている」
政権への抗議
イランでは2022年9月中旬以降、宗教・政治的指導者に対する抗議が頻発している。引き金となったのは、警察による拘留中に死亡したクルド人、マフサ・アミニ氏だ。
アミニ氏はイランに敷かれているイスラム服装規定に違反したとして、いわゆる風紀警察に逮捕され、勾留中の数日後に死亡した。家族によると、アミニ氏は死亡前に虐待を受けていた。
人権活動家によると、昨秋に抗議行動が始まって以来500人以上が殺害された。デモ参加者も何人か処刑された。
スイスでもイランでの抗議運動に合わせてデモが行われた。その中で、スイス連邦内閣の対イラン政策に対しても批判の声が上がった。
進歩的イスラム教フォーラムのサイダ・ケラー・メッサーリ会長も、ロザーノ氏のチャドル着用を理解できないと話す。「それは勇気のない行動だ」
ケラー・メッサーリ氏は、スイスは米国の利益代表を務めるなど、対イラン関係で特別な立場にある点に注目する。このためロザーノ氏はチャドル着用を拒むこともできたはずだという。「イラン政権が強要すること全てに従う必要はない」
外務省は自己弁護
スイス外務省は写真に対する批判に抗弁している。学生のスイスでの宗教間セミナー参加を促す学術機関を訪問したに過ぎないという。寺院訪問にあたり、そこでの女性の服装規定を順守したとする。
外務省は、スイスがイランでの人権侵害について繰り返し非難してきたと強調した。デモ参加者に対する暴力も再三非難した。
一方、現在の状況においては宗教間の対話が非常に重要であるとも主張した。仲介外交の一環として、スイスはあらゆるチャネルを利用して交流を促進しているという。
「政権の承認」
だがベルン大学のイスラム学者、ラインハルト・シュルツェ教授は、ロザーノ氏の姿には問題があると指摘する。「主な問題は、イランで反乱が起きるなかでこうした姿が撮影されたことだ。これは政権を承認したことになる」
同氏は、国民からの承認を失ったイラン政府にとって外国からの承認は非常に重要だと話す。このため、イランは意図的に写真を拡散しようとしたとみる。
マスコミも批判
ロザーノ氏のチャドル着用はスイスメディアからも批判を受けている。大手メディアグループのタメディアは、「これは軽はずみな失態や中立政策の問題ではない。スイスは明らかにイスラム政権の味方をしている」と書いた。
ドイツ語圏の日刊紙NZZは、チューリヒ大学で講師を務める歴史家キジャン・エスパハンギジ氏の言葉を借り、ゴムで撮られた写真はスイスのイメージにとって、アラン・ベルセ大統領がイスラム革命44周年を記念してイラン政府に祝辞を送ったことよりも「もっとひどい災難」だと指摘した。
CHメディアは写真がスイスの反体制派を触発したと分析。大衆紙ブリックは、ロザーノ氏の行為を理解できないとする政治家たちの声を取り上げた。
独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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