スイスの視点を10言語で

スイス下院、CS買収への政府保証に「不信任」

アラン・ベルセ大統領
政府が推し進めた買収契約の擁護者として特別審議に出席したアラン・ベルセ大統領 © Keystone / Alessandro Della Valle

スイス国民議会(下院)は11日深夜、クレディ・スイス(CS)を買収したUBSに対する1090億フランの政府・中銀による保証枠を反対102票、賛成71票で否決した。

同日始まったCSに関する臨時議会で、全州議会(上院)は賛成29票、反対6票、棄権7票で同案を可決した。ただ議会の財務代表団外部リンクが有事法制に基づく保証枠を既に承認しているため、上下院本会議での投票は象徴的なものにすぎない。

下院は、CSを破滅から救うためライバル行UBSへの売却を強制した政府に、事実上の不信任を突きつけた。両院は13日までの臨時議会中に賛否のねじれを解消し、妥協点を見出すよう努力する。

下院で反対票を投じたのは右派・国民党(SVP/UDC)と、左派の社会民主党(SP/PS)、緑の党(GPS/Les Verts)だ。

社会民主党のロベルト・ザネッティ氏は、「賛成票がカミカゼ銀行員を落ち着かせ次回は家父長的な国家が責任をかぶることを意味するなら、私は反対票を投じる」と演説した。

国民党のトーマス・マッター氏は「落胆と恐怖、衝撃、困惑、驚愕」を受けたと述べ、「CS崩壊よりもさらに悪いのは、世界中でスイスに対する信頼が失われていることだ」と強調した。

議会の怒り

議員らは連邦内閣に対し、買収交渉やその結果に関する数多くの質問に答えるよう求めている。

政府は12カ月以内に完全な報告書を提出すると約束した。

社会民主党のセドリック・ヴェルムートゥ党首は「(UBS・CSの買収で誕生する)怪物に鎖をつけて、二度と民主主義をだますことができないようにするのが私たちの仕事だ」と述べた。

臨時議会が開かれるのはスイス航空の破綻、新型コロナウイルスのパンデミックに続き3回目。議員の多くは、政府が主導したCS買収交渉で連邦議会が蚊帳の外に置かれたことに腹を立てている。

議会は買収契約を阻止することはできないが、1090億フランの使いみちに条件を課せる。たとえば緑の党は、銀行経営陣の給与・ボーナスを制限し、気候変動対策に使うよう求めている。

2023年の輪番制大統領を務めるアラン・ベルセ内相は、審議の冒頭演説で緊急買収契約を擁護し、刻々と時が過ぎるなか「政府は国益と制度、国民経済のために行動せざるを得なかった」と訴えた。CSに対する信頼は一夜にして消えたわけではなく、前回の金融危機の教訓を学ばなかった経営陣によって何年にもわたって崩れていったと説明した。

CS経営陣に対する批判も噴出した。中央党(Die Mitte/Le Centre)のペーター・ヘグリン氏は、利益を追求しすぎるあまり、リスクが無視されたと指摘した。社会民主党のエバ・ヘルツォーク氏は、2008年の金融危機でも映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」に登場したようなタイプの銀行員は消滅しなかったと述べた。同氏や一部の議員は、裁判による責任の追及と損害賠償請求を求めた。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

鏡を見るバレエダンサー

おすすめの記事

ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場

このコンテンツが公開されたのは、 スイス西部ローザンヌで2日、第53回ローザンヌ国際バレエコンクールが始まった。23カ国から集まった85人の若手ダンサーが8日の最終選考進出を目指し、さまざまな課題曲に挑戦する。

もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
自転車で遊ぶ子ども

おすすめの記事

スイス政府、国際養子縁組を禁止へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。

もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
生殖治療の画像

おすすめの記事

スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針

このコンテンツが公開されたのは、 スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。

もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
研究施設で働くマスク姿の人

おすすめの記事

スイスに感染症情報解析センター発足

このコンテンツが公開されたのは、 感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。

もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
茶色い除湿器

おすすめの記事

ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。

もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
Xマークの画面

おすすめの記事

スイスでX離れ進む

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。

もっと読む スイスでX離れ進む
ベルジエ報告

おすすめの記事

「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

このコンテンツが公開されたのは、 スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。

もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
整備中の飛行機

おすすめの記事

スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠

このコンテンツが公開されたのは、 スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)のブカレスト発チューリヒ便が先月オーストリアのグラーツで緊急着陸した後、客室乗務員(23)が死亡した事件で、死因は酸欠だったことが分かった。複数のスイスメディアが報じた。

もっと読む スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部