スイス中銀総裁、インサイダー取引疑惑で公式釈明
スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)のフィリップ・ヒルデブラント総裁は1月6日午後チューリヒで記者会見を開き、本人と夫人をめぐるインサイダー取引疑惑について釈明した。
調査を行った第3者機関およびスイス中銀監査役会は、カシュア夫人が独自に行った為替取引を合法と判断。しかし、ヒルデブラント総裁は釈明と同時に過ちを犯したことを認めた。
問題となったのは、スイスとアメリカの二重国籍を持つカシュア夫人が2011年8月に行った為替取引だ。スイス中銀はこの頃、対ユーロ相場に上限を設けると発表したが、その数日前に夫人が50万ドル(約3847万円)分のドル買いを行っていたことがわかり、インサイダー取引の疑いが指摘された。
国民党の手
記者会見にはスイス中銀監査役会のハンスウエリ・ラッゲンバス会長も同席し、インサイダー取引疑惑のいきさつを説明した。
それによると、まずサラシン銀行(Bank Sarasin)のIT行員が社外秘の書類を右派国民党(SVP/UDC)党員の弁護士に渡した。その弁護士は元連邦大臣で現在国民党副党首を務めるクリストフ・ブロッハー氏に情報を譲渡。ブロッハー氏は以前からヒルデブラント氏に批判の矢を向けていた。
ブロッハー氏はこのインサイダー取引疑惑を昨年12月、当時のミシュリン・カルミ・レ大統領に報告。その後15日に、カルミ・レ大統領とエヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ財務相がヒルデブラント氏に事実関係を確かめた。
規定には触れないが、道徳的な過ち
ヒルデブラント氏は6日の記者会見で「規定に反しないだけではなく、公正といえる行動を常に行ってきた。また、どんな取引行為も管轄の委員会にすべて報告してきた」と身の潔白を強調した。
夫人が行った為替取引については「短期で資産を増やすための投機ではなく、家族の資産を長期的に異なる通貨に分散するのが目的だった」と説明。しかし同時に、「このような取引はもう行わない。これは過ちだった。後悔している」と非を認めた。
スイス中銀はこれまで、役員が個人的に行う金融取引に関する規定を公開していなかったが、今回の疑惑事件を機にそれが公開された。現行の規定によると、役員は公開されていない情報、特にスイス中銀の金融・通貨政策に関する情報を利用した取引を禁じられている。また、スイス中銀が予定している、あるいはすでに決定した取引情報を踏まえて、それ以前もしくは同時期に個人的な取引を行うことも禁止されている。つまり、昨年夏にスイス中銀が通貨対策を決定した際には、役員は為替取引を行うことはできなかった。しかし、今回取引を行ったのはヒルデブラント氏本人ではなく夫人だったため、この規定には触れなかったことになる。
各方面の反応
公式釈明後の各政党の反応はポジティブだった。ヒルデブラント氏が道徳的な過ちを犯したことを認めたことが好印象を与えたようだ。唯一批判的だったのは、この疑惑の渦中にいるブロッハー氏が属する国民党のみ。「スイス中銀の役員は為替取引を行うべきではない」と主張し、ヒルデブラント氏の退陣を要求している。
翌朝のスイス各紙も全般的に、「2万フラン(約162万円)を超える取引を役員が行う場合は、行内外の監査で適性を確認する」という改善案を公表したヒルデブラント氏に好意的だった。
しかし、役員の個人的な取引に関する規定に対する批判は大きい。ラッゲンバス氏は記者会見の席で「現行の規定は欧州中央銀行(ECB)の指針に基づくもので、今日の水準に相当する」と前置きした上で、この規定の見直しを約束した。
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