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スイス総選挙、開票結果にミス 第3、4党の結果が逆転

連邦議事堂
© Keystone / Peter Klaunzer

22日投開票のスイス連邦議会総選挙で、連邦政府は25日、国民議会(下院)選挙で政党の得票率に誤りがあったと発表した。各党の議席数に変更はないが、物議を醸している。 

22日時点の結果では、第1党はこれまでと同じく保守系右派・国民党(SVP/UDC、28.6%)、第2党は左派・社会民主党( SP/PS 、18.3%)。これまで第4党だった中道・中央党( Die Mitte/Le Centre 、14.6%)が僅差で第3党の中道右派・急進民主党( FDP/PLR 、14.6%)を初めて上回った。 

しかし訂正後の数値では、急進民主党は0.13ポイント下方修正され、14.3%。中央党は0.52ポイント減の14.1%となり、急進民主党がこれまで通り第3党の座を堅持する結果となった。 

7人で構成する内閣は、議会での獲得議席数に比例する割合で各党から閣僚を選出すべきだという不文律がある。現在の構成は国民党が2席、社会民主党が2席、急進民主党が2席、中央党が1席だが、第3党と第4党の得票率が逆転する結果が当初公表されたことで、議席分配を変える動きが起こるのではないかとメディアが憶測していた。 

最大の誤差は第1党の国民党 

誤差は国民党(SVP)が28.6%から27.9%(0.7ポイント減)と最も大きかった。社会民主党(SP)は18.0%から18.3%と逆に得票率を伸ばした。 

今回のトラブルの原因は、アッペンツェル・インナーローデン準州、アッペンツェル・アウサーローデン準州、グラールス州のデータインポートプログラムに不具合があり、誤った数値が表示されたためだという。 

これら3州はそれぞれ下院に1議席を持ち、他の州とは異なるフォーマットで開票データを送信。この3州で争われた3党の票が3〜5倍多くカウントされたという。 

国民党、中央党、急進民主党の得票数が多く出たのはそのためだ。修正後は、これらの政党の得票率は減少し、他の政党の得票率が伸びた。 

開票結果の訂正前と訂正後:

グラフ
コラムは左から▼政党▼修正前の得票率▼修正後の得票率▼誤差 SRF-SWI

行政調査を指示 

連邦統計局の声明外部リンクによると、同局は選挙当日後、公表データと統計が正しいかどうかのチェックを行う。その中で24日午後、政党勢力の集計に誤りがあるのが見つかった。 

アッペンツェル両州、グラールス州の送信したデータに誤りはなかったが、処理中に誤った計算がなされたという。アラン・ベルセ内務相は統計局からの報告を受け、今回のプロセスの分析・改善に向けた行政調査を命じた。 

同局は、修正後の統計は、数回にわたり再計算とチェックを繰り返したとした。また、「事態を深刻に受け止め、誤りが生じたことを深く反省している」と謝罪した。 

また、「このデリケートな統計分野における」プロセスを修正すると声明で述べた。より包括的な自動計算によるチェックや、選挙当日の管理スタッフの増員、プロセスや管理方法の全面的な見直しを検討するという。 

統計局「新システムの適用は今回初めて」 

同局のジョルジュ・シモン・ウルリッヒ局長は記者会見で、集計システム上で人為的ミスが発生したことが原因とした。しかしこの新システムは今回選挙で初めて適用され、過去の選挙や投票で同様のミスはなかったと話す。  

ウルリッヒ氏は「ミスが起こる可能性があることは、この仕事の一部だと考える」と釈明。ただ現時点で、こうした問題に見解を述べるのは時期尚早だとした。  

ウルリッヒ氏は、スイスの選挙に対する国民の信頼が損なわれたかについては判断しかねると付け加えた。「統計局はデータを集め、公表し、伝える。この誤りが国民にどのように受け止められているかを評価するのは難しい」 

投票率は1990年代以降で最高を記録した。 

関係者の反応 

急進民主党副党首で全州議会(上院)議員のアンドレア・カローニ氏(アッペンツェル・アウサーローデン準州)は、今回のミスは遺憾で憂慮すべきだとしながらも、3位の座を守れたことには「満足している」とX(旧ツイッター)に投稿した。 

中央党のゲルハルト・プフィスター党首は得票率が下方修正されはしたものの、中央党がまだキリスト教民主党 (CVP/PDC) と人民民主党 (BDP/PBD)に分かれていた2019年時選挙時よりも得票率が高いと述べた。。  

選挙前の世論調査を実施した調査機関ソトモの政治学者、ミヒャエル・ヘルマン氏はXに「連邦統計局が公式に発表した最終結果よりも世論調査の方が正確だったのは世界初だろう」と投稿した。 

政治学者のショーン・ミュラー氏は「確かに人間にはミスはつきもの。だが、特に結果発表から3日近くも経って誤りが発覚するのは恥ずべきことだ」と述べた。 

開票日当日は、スイス議会が大きく右傾化した、と指摘する専門家もいた。しかし「中央党は急進民主党を追い越せず、国民党の得票率は下方修正され、第2党の社会民主党が得票率を伸ばした。つまり、議会の右傾化はそれほど顕著ではなかったということだ」 

ミュラー氏はまた「当局を信頼していない人たちにとっては格好の不安材料になる」とも話す。これを防ぐには、結果の公表を遅らせてでも審査プロセスを強化することだという。 

スイス政治年鑑のディレクター、マルク・ビュルマン氏はこれに同意しない。「間違いが起こるのは普通のこと。人が働くところではどこでも起こる」。50年前は最終結果が出るまで2、3日待つのが普通だったと振り返る。  

「問題は、今日、メディアや市民がすぐに結果を欲しがることだ。ベルン州は一番遅く投票結果を公表し、多くの批判を浴びた」 

「作業を急げば急ぐほど、エラーのリスクは高まる」と同氏は指摘する。このような事態を避けるため、当日は暫定結果の発表にとどめ、精査を全て終えた数日後に確定値を公表するのが望ましいと話す。 

ビュルマン氏は、今回のミスがすぐに発覚し、報道されたことを「スイスの民主主義への信頼が高まる」とむしろ前向きにとらえている。 

しかし、この出来事が政治利用されてはならないと話す。「政権に怒りをぶつけるのは政治屋の仕事。だが、主張しすぎると有権者の信頼を損ないかねないので注意すべきだ」 

独語からの翻訳・加筆:宇田薫 

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