スイス総選挙
10月21日に行われたスイスの総選挙は、同日21時現在の開票状況からの結果予想によると、国民議会において国民党 ( SVP/UDC ) が62議席となり前回より7議席伸ばし勝利した。
緑の党 ( Grüne/Les Verts ) が5議席増で19議席を獲得。社会民主党 ( SP/PS ) は 9議席減で43議席。急進民主党 ( FDP/PRD ) は4議席減で31議席、キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) は3議席増で31議席となった。
なお、緑の党は今回初めて全州議会にジュネーブから1人送り込むことに成功した。投票率は50%超える見通し。今回の総選挙では、激しい選挙戦が繰り広げられ、安定した政治が外国資本の誘致のキャッチフレーズにもなっているスイスでは異例だと、多くの外国のメディアにも大きく取り上げられた。
政治テーマより選挙戦略の勝利
国民党の書記長グレゴ・ロッツ氏は、途中経過の予想発表段階にある17時のドイツ語放送のラジオ番組で「このような勝利になり、驚いている。社会民主党が仕掛けた今回の挑戦に、社会民主党自らが負けた」と語った。
国民党の支持率は今回で頭打ちになったとする意見と、さらに今後も伸びるという意見がある。いずれにせよ、4年前の前回に引き続き国民党が勝利したことについて連邦統計局の政治専門のヴェルナー・ザイツ氏は「 ( 同党出身の ) クリストフ・ブロッハー司法相を今回の選挙のテーマとして担ぎ出したのが成功した」と分析する。
おすすめの記事
国民議会 ( Nationalrat/Conseil national )
異例に激しい選挙戦
今回の選挙戦はスイスでは珍しく激しいものとなった。国民党の挑発的な選挙運動のポスターが街頭に貼られると、他の政党も激しい調子のポスターでこれに対抗。総選挙1カ月半前には、ブロッハー司法相を大臣から引き下ろす秘密の「陰謀説」があると流布され、議会でもこの問題をめぐり激しい議論が繰り広げられた。10月7日、国民党が呼びかけたベルンでの集会が過激左派により妨害され、国民党は「犠牲者」として有権者の同情を買った。
選挙運動中、政策についての討議はほとんどなされず、選挙運動手段を論点とし各政党がますます対立するようになった。選挙2週間前のスイスドイツ語放送 ( SF1 ) の政治番組では、社会民主党 ( SP/PS ) のハンス・ユルク・フェール党首が「スイスは各政党のコンセンサスで政治を行ってきた。こうした原点に戻るべきだ」と有権者に冷静になるよう訴えたが、国民党のウーリ・マウアー党首に「むやみに対極化し続けたのは社会民主党の方だ」と反論された。一方、緑の党は環境保護を訴え、政治方針を訴え選挙を戦い、小政党ながら結果的に票を伸ばした。
おすすめの記事
全州議会(Ständerat/Conseil des Etats)
次は内閣選挙
12月には全州議会と国民議会の合同会議が開かれ、連邦内閣の構成メンバーが選出される。現職の承認といった性格の選挙で、欠員ポストについては辞任する大臣の出身政党の中から選出されるのがこれまでの常だったが、前回はキリスト教民主党の代わりに国民党が1議席増やし、議席の割り当てに変化があった。
緑の党のルート・ゲンナー党首は「内閣はそもそも合議制であり、構成するメンバーの出身政党の配分は政党の議員数に比例するのではなく、政治方針別で組み立てるべきだ」と言う。今回も組閣には激しい論議が繰り広げられる可能性は高い。
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )
4年ごとに行われる総選挙では、国民議会 ( 200議席 ) と全州議会 ( 46議席 ) の各議員が選出される。
選挙戦に使われた金額は記録を更新。国民党は公式に500万フラン ( 約5億円 )実質1500万フラン ( 約15億円 ) 、その他政権各3政党はそれぞれ300万フラン( 約3億円 ) を使ったといわれている。政治にはお金をかけないスイスでは異常な金額だ。
立候補者の人数も記録を更新。国民議会には3089人が立候補し、このうち3分の1が女性だった。全州議会には男性98人、女性32人が立候補した。また、在外スイス人も前回の3倍に相当する44人が立候補。在外スイス人の約11万人が投票した。
国民議会議員の選出は州ごとに行われる。定員数は州の人口に比例する。有権者は政党別に立候補者が載っている投票用紙の中から、支持する政党の用紙を1枚選び投票する。これで、政党に1票投票し、用紙に記載されている立候補者たちにもそれぞれ1票投票したことになる。しかし、ほかの政党員で支持する立候補者があれば、選んだ政党の用紙にある1人を消し、支持する他政党の立候補者の名前を記入することもできる。これを「異党派連記投票」といい、記入する立候補者の人数は何人でも可能だ。このようにして、各党が獲得した投票数に比率し投票数が多い順に議員が選出される。一方全州議会議員は、各州2名が ( 準州は1名 ) 投票者の過半数を得ることが条件。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。