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移民制限案の否決は保守政党に「平手打ち」

国民投票
スイスの有権者は、EUとの「人の移動の自由」協定の維持を支持した Keystone / Laurent Gillieron

27日の国民投票で、欧州連合(EU)との「人の移動の自由」を定めた協定破棄は反対多数で否決された。スイスメディアは、有権者が労働者の自由な移動を支持し、同案を提起した保守派・国民党の「大失敗」に終わったと評価。ただこれがEUとの二国間交渉の追い風にはならないとも述べた。

27日の国民投票で、移民制限イニシアチブ(国民発議)への反対票は61.7%に上った。国民党は20年前に合意したEUとの「人の移動の自由」協定を破棄し、国の移民政策の掌握を訴えていた。スイスはEUに加盟していない。

ドイツ語圏の日刊紙NZZは、2014年に一度は大量移民反対イニシアチブで国民の賛成を取り付けた国民党にとって、「痛ましい敗北だ」と報じた。同イニシアチブは国民投票で可決こそされたものの、議会がその実施について「限界まで効力を薄める作戦」を取った

ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは「国民党は、移動の自由を攻撃することでそのリーダーシップを発揮してきた」と分析。だがそれが否決に終わり「国民党はその考えを一時思いとどまるはずだ。党は、移民とEUとの二国間関係という2つのお気に入りのテーマを1つの国民発議に統合した。だがそれは議論の呼び水にすらならなかった」

ベルン州の日刊紙ブントは、「スイスに住み働くスペイン、東欧、その他EU出身者との間で、スイス人は国民党が主張するような軋轢をそれほど感じていない。人の移動の自由に明確な支持が集まったのは、職場での競争であれ、都市のスプロール現象であれ、社会福祉機関であれ、これらに対する不安は限定的であることを示している」と分析した。

大衆紙ブリックは、最大与党の国民党は「(元閣僚・党代表の)クリストフ・ブロッハー氏が2007年、連邦内閣から追放されて以来の大失敗」と報じた。ブロッハー氏は司法警察相だった2007年当時の閣僚選挙で落選している。

次なるステージは厄介に

一方で、ブリックはこの「否決」結果を、さらなる規制をめぐる二国間交渉の追い風になると解釈すべきではない、と指摘する。

EU非加盟のスイスは、EUと120件に上る個別の二国間協定を結んでいる。スイスとEUはこれまで6年をかけ、これらの個別協定を包括した「制度的枠組み合意」の交渉を続けてきた。だが現在は交渉が行き詰まっている。

フランス語圏の日刊紙ル・タンは28日の社説で、否決結果を「人の移動の自由のための国民投票」だと評価。EUとの「二国間のやり方が正しい戦略である」ことにお墨付きを与えた、と述べた。

しかし、この長期間にわたる交渉の次段階は、はるかに複雑なものになると指摘。EUは、スイス政府との枠組み協定の早期締結を望むが、スイス側は、賃金保護、国の支援、そしてEU移民がどの程度スイスの社会システムの恩恵を受けられるかという3点がまだ未解決だとしている。

同社の社説は「交渉は厳しいものになると予想される」とコメント。 「しかし、スイスの立場は(国民党の)のイニシアチブを明確に拒否したことで強化された。国民の幅広い支持を得た連邦内閣は、二つ返事で協定には署名しないという姿勢をEUに明示しなければならない」と述べた。

温度は「下がった」

フリブール州の日刊紙ラ・リベルテもまた、この先待ち受ける困難について触れた。「まるで天気のように、スイスの政治体温計は突然数度下がった。交渉のテーブルにある(制度的枠組み)のプロジェクトに、多くの人はもはや納得しない」

NZZは、27日の投票結果は「二国間の道を確保するものではない」と評価した。

同紙は社説で「欧州の政治情勢は逆説的だ」とし 「スイスは、人の自由な移動と二国間協定を数えきれないほど認めてきた。しかし将来の関係性について、スイス政府とEUの間で基本的なコンセンサスが欠けている」と述べた。

「EUにとって、27日の投票結果から学ぶべき教訓はおそらく1点だけだ。スイスでは、常に2回、もしくはそれ以上の試みが必要。冗長だが、長期的には信頼できるパートナーだ」

(英語からの翻訳・宇田薫)

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