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パンデミックへの多国間対応、WHO国際保健規則は実施に限界

Keiji Fukuda
2009年のパンデミックの際、WHOのインフルエンザの主任を務めた福田敬二氏 Keystone / Anja Niedringhaus

24日からジュネーブで開催される世界保健機関(WHO)の年次総会では、旅行の規制やマスク着用の規定などWHOが与える助言の基盤となる「国際保健規則」について話し合われる。公衆衛生の専門家で元WHO事務局長補代理の福田敬二氏がswissinfo.chとのインタビューに応じ、同規則が有益に機能していない理由を説明した。 

WHOはパンデミック(世界的大流行)への対応が遅いことで批判されてきた。福田氏は、新型コロナウイルス感染症のような集団的脅威には協力的なアプローチが必要だと話す。しかし、国際保健規則(IHR)外部リンク実行の限界と、緊急事態において国々の国際協力に消極的な姿勢も指摘する。 

IHRは、公衆衛生上の緊急事態に対応し、世界的な対応を改善するための法的拘束力のある枠組み。公衆衛生のリスク事象を報告すること、監視と対応のための能力を維持することを各国に求めており、国境を越える際に必要な健康状態申告の書類、旅行や輸送に関する規定などを含む。  

福田敬二 

東京都出身。米バーモント州で医師となり、2017年から香港大学公衆衛生学院の院長を務める。世界保健機関(05年~16年)で事務局長代理、パンデミック・インフルエンザ担当事務局長特別顧問、抗菌薬耐性担当特別顧問、世界インフルエンザプログラムのディレクターを務めた。WHOでは、鳥インフルエンザなどの感染症の発生や09年のインフルエンザパンデミックの際にもIHRを担当した。  

swissinfo.ch:  IHRが各国政府に尊重されなかったのはなぜだと思いますか? 

福田敬二: 現在のパンデミックにおける各国の対応は、国家主義的なものが多く、調整が不十分です。IHRは、現在の地政学的環境のため、新型コロナウイルス感染流行時に比較的無視されていました。これは、国際協定や法律、条約は一定の効果を持つかもしれませんが、緊急時に政治的リーダーシップが支持や協力を得られなければ、その目的を十分に果たすことはできないことを示しています。  

swissinfo.ch: 今回のパンデミックで、IHRのどの部分がうまく機能しなかったと思いますか?そして、どの部分を修正する必要があるのでしょうか? 

福田: IHRが目的に合っているかどうか、全体的に見直す必要がありますし、合っていない場合は適宜修正する必要があります。しかし、より根本的な問題は、多国間の協力的なアプローチが望ましいと各国が考えているかどうか、また、今の時代にそれが実現可能かどうかということです。パンデミックのような集団的な脅威に対処するためには、最も合理的なアプローチであるため、私はそう願っています。しかし、世界の地政学が真に多国間の対応をサポートするかどうかは定かではありません。各国の自主性を高め、世界からの監視を弱めるために、より細分化されたアプローチを好む人もいるでしょう。     

swissinfo.ch: なぜそう思いますか?

福田: 今回のパンデミックでは、旅行や国境の制限など、基本的な決定事項の多くが、ほとんど調整されることなく、国ごとに行われました。IHRはこのような対策のために作られたものです。今後、将来的にパンデミックや緊急事態が発生した際に、各国はWHOや他の加盟国に議論や指導を要請するのでしょうか?私はそう願いますが、これは明確ではありません。今後は、各国がほとんど連携せずに独自の判断を下すことも十分に考えられます。    

swissinfo.ch: 少なくともグローバルヘルスのために「サーキットブレーカー(国家緊急事態に講じる措置)」を決定する一定の基準が必要だと思われますか? 

福田: このような問題に対するグローバルな基準は、各国がどのような選択肢を検討できるかという一般的なガイダンスを提供する以外には、あまり役に立たないでしょう。グローバルスタンダードを構築し、さらに重要なことですが、それを実施しようとすると、各国の具体的な国内事情や状況が複雑になります。緊急時には、グローバルスタンダードが自分たちにとって役に立たないと感じた場合、各国はそれに従うことよりも、自国の状況を心配する可能性のほうが高いでしょう。    

swissinfo.ch: 将来のパンデミックに備えるために、IHRをどのように改革すべきでしょうか?

福田: より深い問題は、IHRではなく、各国が多国間の対応を重視し、その実施に同意できるかどうかです。それが望ましいのであれば、IHRの改定は重要な意味を持つでしょう。また、新型インフルエンザ対策の枠組みなど、他の協定の改定や新たな協定の創設も有効であると考えられます。例えば、ワクチンの公平な分配を目指すコバックス(COVAX)メカニズムが導入されているにもかかわらず、ワクチンの流通は富裕国に大きく偏っています。富裕国は資金力があり、生産者へのアクセスが良いため、初期のワクチンの多くを独占していました。さらに、ワクチンの輸出を禁止している国もあります。私たちはもっと良い方法を取ることができるでしょうか?私はそう願いますが、それには各国が協力することの価値を再認識する必要があります。  

swissinfo.ch: パンデミックを食い止めるためには、渡航制限をより厳しくすることが必要だと思いますか?     

福田: 渡航制限は、パンデミックの初期段階では感染の拡大を遅らせるかもしれませんが、最終的にパンデミック全体的な感染拡大を阻止するために渡航制限を利用するのは最適ではありません。渡航制限は国が体制を整え、社会的距離を置く、マスクをする、検査をする、ワクチンを接種するなどの基本的な感染予防・対策を実施するための一時的かつ戦術的な措置であると見なした方がよいでしょう。 

swissinfo.ch: 旅行のための保健上の書類は、IHRの規定に含まれています。ワクチン接種の証明を渡航の前提条件とすべきでしょうか?    

福田: 新型コロナウイルス感染症の予防接種を受けることは強く推奨されていますし、重要なことです。しかし、渡航の際にワクチン接種を必須条件とすると、それが厳格な要件となって渡航が困難になります。さらに感染の拡大をゼロにすることはできません。より柔軟で現実的なアプローチとしては、例えば検疫要件を緩和するなど、旅行者にワクチン接種を受けるように促すことですが、それを旅行の絶対条件とすることではありません。  

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担当: 上原 亜紀子

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