ミャンマーのデモ参加者、スイスの著名人が後ろ盾に
2月のクーデターで国軍が権力を握ったミャンマーで抗議デモを行う市民を守ろうとスイスの著名人が名前を提供している。また、スイスの首都ベルンでは、スイス企業と国軍系のコングロマリット(複合企業)との関係の有無を連邦議会議員が問いただしている。
swissinfo.chは、複数の人道支援団体で精力的に活動する元ジュネーブ州議員のエリザベット・ドクレー外部リンク氏を通じて、ミャンマーのジャングル奥地でアジェさん(仮名)に会い、話を聞くことができた。
「数週間前は、これほど激しい抗議活動ではなかった。治安部隊の容赦ない弾圧によって、すでに550人以上の死者が出ているからだ。今ではほとんどの市民がデモへの参加を恐れている。特にヤンゴンではそうだ。市民が集まるとすぐに警察に通報する密告者がコミュニティーにいるからだ。しかし、誰が密告者かを知るのは非常に困難だ」とアジェさんは語る。
ドクレー氏は、ミャンマーで平和的デモを行う市民と共にネット上で抗議活動を行うようスイスの著名人に働き掛けるという新たな挑戦に乗り出した。デモ参加者はスイスの支援者の名前が書かれたバッジを付ける。バッジには「軍・警察への通告:ジュネーブ(やその他の場所)のX氏は本日、私と共にデモに参加している。もし、私を逮捕したり、死傷させたりすれば、X氏を逮捕したり、死傷させたりすることにもなる」と明記されている。
デモ参加者に何かあれば、その事実が支援者に伝えられ、支援者はソーシャルネットワーク、メディア、友人を使って、周囲の人々にその事実を知らせる。
「人権侵害が武装闘争を引き起こす」
「抗議活動を行ったり、連絡を取り合ったりすることが、どんどん難しくなっている。メッセージアプリのワッツアップはほとんど機能せず、インターネットも遮断されている。しかし、私は何より、国際社会の無策に絶望するミャンマー人を勇気づけるために活動を続ける。これまでに約20人のスイスの著名人に参加してもらうことができた」とドクレー氏は話す。
その中には、連邦議会下院の外務委員会メンバーを務めるカルロ・ソマルーガ氏も含まれる。同氏は「この行動によってある種の保護を受けるデモ参加者に個人的な連帯を示すことが重要だ」と強調、「同時に、デモに参加する反対派の周りには世界の著名人や議員が結集しているのだという国軍へのメッセージでもある。このような行動はベラルーシですでに取られている。しかし、ミャンマーで起きていることはさらに暴力的だ」と述べる。
スイスでは、連邦内閣がミャンマーに対する開発援助を緊急支援を除いて停止した。また、国軍のメンバー11人に対し制裁を発動した。国軍のミンアウンフライン最高司令官、上級将校9人、選挙管理委員会委員長がスイスに持つ財産を凍結し、これら11人に対しスイスへの入国を禁止した。スイスは欧州連合(EU)と歩調を合わせ、制裁の対象を軍人に限っている。他方、米英はさらに踏み込んで、国軍系の企業も制裁している。
2月1日の軍事クーデター以来、スイスの連邦議会で4件の動議が提出された。スイス・ミャンマー協会の会長で、抗議デモ参加者の後ろ盾となる行動に参加するローランス・フェールマン氏は連邦内閣への質問外部リンク(未審議)の中で、ミャンマーで活動するスイス企業が、特に宝石分野で、国軍が支配する複合企業の製品を購入することがないよう必要なデリジェンス(注意)を払っていることを連邦内閣が確認するよう要求した。また、スイスが、国軍幹部の国際刑事裁判所への付託に取り組むよう求めた。
国民議会(下院)の質疑時間外部リンクには、ニコラス・ワルダー氏が、スイス企業の活動が国軍系複合企業のミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)やミャンマー・エコノミック・リミテッド・ホールディングス(MEHL)と関りがないことを確認するよう連邦内閣に要求した。連邦内閣はミャンマーで活動するスイス企業がデューデリジェンス義務を果たすことを期待していると述べた。
ドクレー氏によると、抗議デモはまだ十分に平和的だが、若者の中には、軍事訓練を受けるために特定の民族の武装組織に加わる人が出てきているという。ミャンマーでは、人口の75%を占める多数派のビルマ族をはじめとして約130の民族が公認されている。「人権やマイノリティの権利の侵害が武装闘争を引き起こす」と同氏は指摘する。1998年に共同で設立した非政府組織(NGO)「ジュネーブ・コール外部リンク」の活動を通して、同氏はそのことを自身の目で確認してきた。「シリアの人々は、はじめは平和的に抗議していた。コロンビアでは、土地を奪われた農民からゲリラが生まれた。クルド人はクルド語を話すことさえできなかった。ミャンマーの事態は深刻で、いつ内戦に発展してもおかしくない」と語る。
「武力による新たな抵抗運動は避けられない」
アジェさんは、「今のところ、私たちは概ね平和的だ。しかし、軍事政権を倒すためには、武力による新たな抵抗運動を避けられないのは事実だ。ミャンマーは資源が非常に豊かな国だ。しかし、カネは2大複合企業を支配する国軍の懐にしか入らない。2大企業とは、採鉱、製造、通信の分野を中心に活動するミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)と、特に銀行、建設、採鉱、農業、たばこ、農産物加工の分野で活動するミャンマー・エコノミック・リミテッド・ホールディングス(MEHL)で、中国やロシアの支援を受けている。私たちは待っているわけにはいかない。民族グループの武装組織にミャンマーの人々と一緒にこの戦いの先頭に立ってもらいたい」と話す。
また、ミャンマーの民主化以降に生まれた民間メディアのほとんどが国軍によって禁止され、オンラインでしか活動できないという。国軍がジャーナリストを拉致しようとしているため、ジャーナリストの大半はおそらく逃げているのだろうとも話す。
昨年11月に選出され、クーデターに反対する国家議員らは、「連邦議会代表委員会(CRPH)」と呼ばれる文民による臨時政府を樹立した。「(CRPHは)世界中のミャンマー人が出資する私たちの正当な政府だ。外国政府もCRPHに出資し、CRPHをミャンマー唯一の正当な政府と認めると発表すべきだと思う」とアジェさんは強調する。
さらに、アジェさんによると、市民の不服従運動を立ち上げたのは、国軍に反対する国会議員や政府(や民間部門)の職員たちだ。不服従運動はミャンマー・カレン州を拠点とするカレン民族同盟―政府と停戦協定を結んでいたが、同協定の存在意義はもはや無いとして同協定を破棄した10の民族武装組織の1つ―に歓迎され、支持された。しかし、給与も資金援助も無いため、一部のメンバーが職場に戻らざるを得なくなり弱体化しつつある。
かつてないほど団結するビルマ族と少数民族
アジェさんが話すように、軍事クーデター以前の状況にただ戻ればよいという問題ではない。「2008年に(軍事政権下で)制定された憲法は、全く民主的ではないため、廃止しなければならない。CRPHは憲法の廃止をすでに宣言した。国連の安全保障理事会はロシアと中国の拒否権によって行き詰っているため、私たちはすべての少数民族を代表する連邦民主主義国家を作り、国際刑事裁判所や国際司法裁判所に国軍幹部を送致したい」
また、外国政府は自国企業やその下請け企業に対し、人権に関するデューデリジェンス義務をサプライチェーンに適用するよう規制すべきだ。そして、外国政府は国軍幹部の銀行口座を凍結し、武器の輸出を禁止すべきだと話す。
「この民衆運動で、私たちはかつてないほど団結している。ビルマ族と(少数派イスラム教徒の)ロヒンギャを含むすべての少数民族、すべての宗教が一体となっている。私たちの目標は国軍の打倒だ。民族武装組織と軍事訓練を受けている若者を再編成した連邦軍の創設を期待している。外国政府は連邦軍に出資すべきだ。この残忍で容赦のない軍事独裁政権に終止符を打つ唯一の方法が連邦軍だと私は確信している。最後には正義が勝利することを願っている!」とアジェさんは語る。
(仏語からの翻訳・江藤真理)
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