国連のウクライナに関する独立調査委員会は16日、ロシアはウクライナで戦争犯罪を行い、人道に対する罪を犯した可能性もあるとする最終報告書を発表した。委員会が集めた情報は、今後国際裁判の証拠として使われる可能性がある。
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報告書は収集した証拠に基づき、ロシア軍が2022年2月以降ウクライナとロシアで「広範な」国際法違反を犯しており、その多くは戦争犯罪に相当すると結論付けた。具体的には民間人への攻撃や拷問行為、性的暴力、子供の国外追放などを挙げた。
委員長を務めるノルウェーのエリック・モーセ調査官はジュネーブでの記者会見で、「ウクライナでジェノサイド(大量虐殺)があったかどうかは分かっていない」と語った。一方、ロシアが2022年10月以来ウクライナの発電所を継続的に攻撃していることは、人道に対する犯罪に相当する可能性があるとみている。拘留場所などでの拷問の形式も人道に対する罪に当たる可能性があり、構成要件を満たすかどうかの追加調査を推奨した。
またウクライナ軍による「少数の」国際法違反も指摘した。「無差別の可能性がある」複数の攻撃や、戦争犯罪に該当する事件が2件あるとした。
同委員会は2022年3月、ジュネーブにある国連人権理事会が設置し、ウクライナにおける人権侵害や国際人道法違反の有無を調査している。モーセ氏の他にボスニア・ヘルツェゴビナのヤスミンカ・ドゥムフール氏と、コロンビアのパブロ・デ・グレイフ氏が調査官を務め、8 人の調査員がサポートする小所帯だ。
調査で8回ウクライナに渡り、56カ所を訪れた。595人(うち348人は女性)に対面・遠隔で面談した。破壊された場所や墓地、拘留場所を検査し、文書、衛星画像、ビデオも調べた。
追加調査
委員会は、「全ての違反と犯罪」を調査し、行為者の責任を問うよう提言した。また、調査した犯罪にかかわる具体的な個人や部隊、指揮系統を突き止めようとした。国連人権高等弁務官のために、機密の容疑者リストが作成された。
人権理事会は20日、報告書について討議する。委員会の任期を延長するかどうかを決めるほか、調査結果をフォローアップするために別の決議を提案する可能性もある。
米紙ニューヨークタイムズ外部リンクは13日、国際刑事裁判所(ICC)がウクライナの子供の拉致と民間インフラへの攻撃という2件の戦争犯罪について訴訟手続きを開始する意向だと報じた。数人の逮捕状を請求する方針という。
ICCは2022年2月に戦争犯罪や人道に対する罪、ジェノサイド条約違反で捜査を開始。カリム・カーン検察官は先週ジュネーブを訪問し、国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏と会談した。
ウクライナに関する調査委員会は、ICC検察事務所と連絡を取っていることを認めた。ただICCや他の検察当局から要請を受けたかどうかについては「調査はまだ進行中で、報告書も発表されたばかり。まだそのようなことはない」(デ・グレイフ氏)と述べるにとどめた。
編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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