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ロシア中銀資産 ウクライナ復興資金としてスイスは没収できるか?

破壊されたウクライナのドネツク
ウクライナ政府は復興費用が7500億ドルに上ると見積もっている。欧州諸国はロシアの凍結資産を没収してウクライナの復興資金に活用する案を検討中だ Copyright 2022 The Associated Press. All Rights Reserved.

ウクライナの復興資金に充てるため、凍結したロシア中央銀行の資産を没収する案を巡り、欧州で活発な協議が進んでいる。没収案には賛否両論あり、実現にはスイスを含む各国で多くの法的問題をクリアする必要がある。

ウクライナ侵攻が始まって以来、各国でロシア中央銀行の資産が凍結されている。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は欧州連合(EU)加盟国に対し、この凍結資産を収益性のある運用可能なファンドに移管し、収益金をウクライナの復興資金に充てるべきだと強く主張している。

フィナンシャル・タイムズ紙に対し、「これは正義と公正の問題」であり、「法的な原則に則って行うべきことは明らかだ」と語った。

加盟国の中には、外国資産を没収するための法的根拠を欠く点だけではなく、国際金融が不安定になるリスクを懸念する国もある。EU当局はこうした懸念に応えるべく、いかなる措置も同盟国と共同で行うと確約し協力を呼びかけた。

同盟国にはスイスも含まれている。スイスでは政府の作業部会が「法的に正当な出所の資金を没収するのは違法」とする結論を出したばかりだ。だが国際議論ではロシアの凍結資金や外国の国家資産を没収する選択肢が依然として争点になっており、スイス政府も注視していくと述べている。

なぜロシア中銀資産に関心が集まるのか?

ウクライナはロシアに制裁措置を取る国に対し、ロシアの凍結資産をキーウに移してウクライナの復興資金をまかなうべきだと訴えている。これまでに注目が集まっていたオリガルヒ(新興財閥)の資産については、スイスも約75億フラン(約1兆850億円)を凍結した。今焦点になっているのは別の資産、つまりロシアが海外口座に保有し、侵攻直後に各国で凍結された約3千億ドル(約40兆4600億円)の外貨準備だ。

ウクライナのデニス・シュミハリ首相は昨秋、復興費用が7500億ドルに上ると見積もった。ロシアの資産は復興資金源として大きく貢献できる。

だがEUはまだ、域内で凍結された資金額を正確に把握しきれていない。ある推計では330億ユーロ(約4兆7190億円)に上るとされる。

各国で凍結された資産は合法的に没収できるのか?

現在EUやスイスには、政府に凍結したロシア資産の没収を認める法律はない。

ベルン大学経済法研究所のペーター・V・クンツ所長は、スイスは没収を可能にする連邦法を制定できると話す。だが、どのような法案もまず国民投票による有権者の承認が必要になる可能性があることも指摘する。

EBS大学(ドイツ・ヴィースバーデン)のマティアス・ゴールドマン教授は、EUが法的基盤を構築するのは比較的容易なはずだという。EU加盟27カ国は、例えば制裁措置を実行する超国家的権限の一環として、あるいは国際協定に基づいて、没収した資産を管理する信託機関を設立できるという。おそらく後者の可能性の方が高い。

ゴールドマン氏によれば主な障壁となるのは、国際法上、資金の没収が合法であるかどうかだ。外国中央銀行の資産は国際法で強制執行から免除されており、資産の目的が公的なものである限り没収できない。

ゴールドマン氏は、「資産を没収すれば、ロシアの免責特権を侵すことになるのか?侵略戦争のような重大な違反を犯した国家の海外資産が、それでも特権を享受できるのかは明確ではない」と言う。

ロシアに免責特権があると判断された場合、資産没収にはロシアの同意が必要となる。だがロシア政府はすでに、いかなる資産没収の試みにも対抗する構えがあると表明している。

前例はあるか?

ゴールドマン氏によれば、外貨準備の没収は国債の強制執行絡みで行われたケースがほとんどだ。

米国裁判所は昨年、ニューヨークで凍結されていたアフガニスタンの外貨準備のうち半分(約35億ドル)をジュネーブの信託基金に移すことを許可した。2021年8月にタリバンが復権して以来、アフガニスタンの人権状況は悪化しており、基金の一部は国民の支援に使われる。

≫解説:アフガンの凍結資産がスイスで基金になったわけ

ゴールドマン氏は、ロシア資産を巡る議論が進んでいることに加え、こうした判決が下されたことは、重大な権利侵害があった場合には免責特権が喪失するという慣習法のルールが生まれつつある兆候ともみられる、という。

国際金融の安定性に与えるリスクは?

ロシアの資産を没収した場合、一部の中央銀行が外国に資産を預けるのは高リスクだと判断する可能性を指摘する国もある。ゴールドマン氏もその可能性を否定しない。

「結果的に、金を自国に戻そうとする中央銀行が出てくることもあり得る」とした上で、「それは自国のリスク特性と状況によるが、この『ホームショアリング』が国際商取引の障害になることはないと思う」と述べた。

ロシアは残された全外貨準備の保全を図るとみられる。

「ロシアは誰も把握していない隠し海外口座を持っている。そこに預けた資金を、自国に移そうとするのは必至だ。だがロシアのような国の銀行にとっては、国外にいくらかの外貨準備を持つことは常に重要だ。自国通貨に何が起こるか分からないのだから」(ゴールドマン氏)

スイスがロシアの凍結資産を没収する可能性は?

ベルン大学のクンツ氏は、中立国であるスイスがロシアの資産を没収するとは考えにくいという。

「没収すれば、(中立の立場という)現状が大きく変わる」とし、「米国やEUだけではなく、国連が相応の制裁を科す場合にのみ、資産の没収が許容されるだろう」と述べる。だが、国連安全保障理事会でロシアが拒否権を持つことから、後者の可能性は極めて低いだろうと付け加える。

さらに、スイス国民が没収を支持するかどうかも疑問視する。

今のところスイス政府は明言を避けている。連邦司法警察省のイングリッド・ライザー広報担当者はswissinfo.chの取材に対し、「スイスは法治国家の原則を尊重しながら、ウクライナの損害賠償と復興を可能にする解決策を見出すため、国際的な協調プロセスに協力する準備がある」と述べた。ロシアの凍結資産で信託基金を設立する場合にスイスがEUを支援するかという質問には、回答を避けた。

一方ゴールドマン氏は、将来的な和平交渉の切り札にするためにも、欧州諸国はロシアの資産を没収すべきだと考える。

「交渉の可能性があるとすれば、ウクライナは損害賠償を請求するだろう。その時にこそロシアの凍結資産が活かされる」

編集:Marc Leutenegger、英語からの翻訳:由比かおり

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