世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルスのワクチン共同購入・分配の国際枠組み「コバックス(COVAX)」は、低・中所得国への新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン配布を今年第1四半期に開始する予定だと発表した。富裕国が二国間取引を結び、自らもワクチン確保に奔走する中、COVAXは本当に全ての国に「公正で公平な」配布を保証できるのだろうか?
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コバックスは3日、米ファイザー/独ビオンテックのワクチン備蓄の一部を今月末から配布できる見通しだと発表した。同ワクチンは既にWHOの緊急承認を取得済み。承認申請中の英アストラゼネカのワクチンも、より多くの量を確保し、第2四半期中に配布を始められる見込みだという。上半期における初の「中間配布予測外部リンク」の中で、個々の加盟国に対する配布状況の詳細を明らかにした。
「この情報は、各国の政府や公衆衛生の指導者がワクチン早期接種の段取りを決め、全国展開を成功させる上で重要な一歩となる」とする一方で、この「配布予定」には「拘束力がなく、変更される場合もある」と釘を刺した。
COVAXにおける予防接種の調達・配布を主導するGaviワクチンアライアンスは最近のプレスリリースで、COVID-19ワクチンの備蓄から「年末までに最低でも20億回分の配布を予定し、これには低所得国92カ国への少なくとも13億回分の配布も含まれる」と明らかにした。これで各国の人口2割、つまり医療従事者や高リスクグループをカバーする目標が達成できる。
COVAXは、ジュネーブ拠点のWHO、Gaviワクチンア ライアンス、及び感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が共同議長を務める。
ワクチン配布に向けた準備
Gaviのセス・バークリー最高経営責任者(CEO)は先月26日、ジュネーブ拠点の国連記者団に対し、COVAXはユニセフ(国際連合児童基金)を含むパートナーと協力し「史上最大で最速のワクチン配布」を実現させると語った。またWHOの予防接種部門を統括するケイト・オブライエン氏は、ワクチンの配布準備は順調に進んでおり、「既に疑似的手段を用いた訓練やシミュレーション演習を実施している」と述べた。各国が優先順位の高いグループへの接種を開始できるよう準備を整えるのが目的だ。
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一部の国にワクチンの選択肢はあるかとの質問に対し、それはワクチンの供給量と特定のワクチンを指定したかにもより、「希望に添えるよう努力はする」とバークリー氏は回答。そしてアストラゼネカのワクチンは輸送や保管が容易であるのに対し、ファイザーのワクチンは非常に低温での保管が必要なことを指摘した。また、研究開発の支援のおかげで、COVAXは今後、より多くのワクチンを提供できるとの自信を示した。
同氏はワクチンの調達と供給に必要な80億ドル(約8416億円)のうち、既に60億ドルを調達済みだとし、ドナー国(経済支援国)の努力を称賛した。また、COVAXに参加するというジョー・バイデン米新大統領の表明を歓迎した。
「道徳上の過ち」
この背景には、富裕国が(COVAXの参加国か否かに関係なく)自国民のワクチンを確保すべく既に企業と二国間取引の交渉を始めており、企業が生産上の問題に直面する今、ワクチン争奪戦に巻き込まれていることがある。そして大半の貧困国は置き去りの状態だ。
エチオピア出身のWHOのテドロス事務局長は「ワクチン・ナショナリズム」をたびたび批判してきたが、最近「世界は壊滅的な道徳上の過ちを犯す瀬戸際にある。世界で最も貧しい国々の命と生活がこの過ちの代償となるだろう」と警告を強めた。
この問題をめぐりバークリー氏は、現在「ワクチン接種が始まっているのは、ほぼ富裕国に限られる。富裕国によるワクチン買い占めが今後も続く場合、世界のその他の国々への投与量が確保できなくなる恐れがある」と回答。ウイルスの拡散が広範囲で続く場合、特に(より感染力の強い)変異株も考慮すると、世界中の人々をリスクにさらすことになると強調し、「全世界の安全が保証されるまで、我々に安全はない」と述べた。
(英語からの翻訳・シュミット一恵)
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