スイス在住者のために銀行の秘密保持を憲法に明記しようという提案にひとまず決着がついた。国民発議(イニシアチブ)が不発に終わった理由は、政府が脱税者に対し刑法上の罰則を強化する計画を断念したためだ。
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「スイス国民の金銭上のプライバシーを守るという目的には到達した」。今回の「銀行秘密イニシアチブ」の筆頭発議者で国民議会(下院)のトマス・マッター議員は9日、記者会見で弁解し、連邦政府はスイス国民の確定申告書を信頼していると強調した。スイスでは確定申告は個人で行う。
連邦議会は昨年12月、スイスの脱税者に対する罰則の強化案を断念するよう政府に求める議案を可決。罰則強化への対抗手段として発議されていたイニシアチブも見送りとなった。
撤回でも効果
銀行秘密イニシアチブはスイス国民党(SVP)が先導し、右派3政党から成る代表団が2014年9月に必要な署名を連邦内閣事務局に提出し、投票への道を切り開いた。
発議者がイニシアチブを引き下げるのは珍しいことではない。連邦内閣事務局によると、憲法改正のイニシアチブが導入された1891年以来、400件超のイニチアチブが発議された。だがそれを上回る大量のイニシアチブが、投票にかけられることなく葬られたと政治学者のルーカス・ロイツィンガー氏は言う。必要な数の署名を集められなかったか、投票日を迎える前に自らイニシアチブを撤回したためだ。また、実際に投票にかけられたイニシアチブ209件のうち9割以上は否決されている。
だがロイツィンガー氏の言葉を借りれば、失敗に終わったイニシアチブも政治に少なからぬ影響をもたらしている。議会や政府に議論を呼び起こしたからだ。
約5年前に活動を始めた銀行秘密イニシアチブはその最も新しい一例だ。保守系右派のティチーノ連盟は、似たような目的で2010年に署名運動を起こしたが、必要な署名数を集められなかった。
スイス銀行の守秘義務をめぐっては、国際レベルでは全く異なる議論が進んでいる。スイスは09年、米国や経済協力開発機構(OECD)からの圧力の高まりもあり、海外顧客に対する守秘義務を放棄すると宣言。これに関する国際法は昨年1月1日に施行された。以降、国際的な税金の自動的情報交換制度にも参加している。
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1月1日から、銀行口座の自動的な情報交換を定める新たな国際法が発効した。これまで守秘義務のもとにあったスイス国内に口座を持つ非居住者の口座情報は、納税義務のある国の税務当局に提供されると同時に、海外に口座を持つスイス人の口座情報もスイスに提供されるようになった。この自動情報交換制度には、米国は参加表明していないものの、約100カ国が大筋で合意している。
そもそも、スイスの誇る銀行の守秘義務にひびが入ったのは、米国からの圧力を受けてのことだった。2009年以降、スイスの銀行は米国人顧客の脱税をほう助したとして巨額の罰金の支払いを命じられてきた。
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(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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