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公的健康保険に国民はノー

Keystone

スイスで28日に行われた国民投票で、公的健康保険の導入を求めるイニシアチブ(国民発議)は反対61.9%で否決された。また、レストラン経営者に不利な税率差別廃止を求めるイニシアチブも、反対71.5%で否決された。


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被保険者の負担で利益を上げる?

 国民投票前に多くの議論を呼んだのは、公的健康保険の導入を求めたイニシアチブだ。これは社会民主党と緑の党が中心となって立ち上げた。

 スイスでは基本健康保険への加入が義務付けられており、被保険者は民営健康保険会社61社から自由に選択できる。保険料は年齢、居住地、保険会社によってさまざまではあるが、所得とは関係なく設定されている。低所得者は国から補助が受けられるシステムだ。基本健康保険で利益を上げることは法律によって禁止されている。

 問題は、年々増え続ける医療支出だ。スイスの医療支出は2012年には680億フラン(7.7兆円)にまで増加した。そのうちの240億フランを基本健康保険が占めている。

 保険料は年々上がるばかりで、被保険者の負担で健康保険会社は利益を得ているのではないかとして、今回のイニシアチブが発議された。推進派は、若者や健康な人といった低リスク層を獲得するために費やされた宣伝費(年間総額で約1億フラン)や経費など、民間の保険会社で掛かっている余計なコストの多さを指摘。民営健康保険会社の公営化を提案した。

 このイニシアチブが可決されれば、3~3.5億フランの経費節減が望めると推進派は試算。また、公営化によって慢性患者の治療がスムーズになることも合わせると、最終的には5~10%の医療支出削減が出来ると主張した。

 具体的にはスイス傷害保険公社(Suva)をモデルとし、各州に配置された国営の健康保険会社がそれぞれの区域の保険料を設定し、微収するとしている。高所得者が保険料を多く払う料金制度の提案は、今回含まれていない。

 一方、イニシアチブに反対する政府は、現行制度の改革が必要であることを認めはするものの、公的健康保険の導入はその移行プロセスが難航し、かえって余計なコストが発生すると主張する。

 下院議員の一人は「自由競争があるからこそ、コストダウンや基本健康保険の質の向上が可能である」と主張した。また、イニシアチブ推進派は経費を問題にするが、基本健康保険の支出額全体のうち健康保険会社の経費はわずか5.6%に過ぎないという。

 また政府はすでに、低リスク層獲得に関する民営健康保険会社間の競争を抑えることを約束しており、また各々の健康保険会社の経営の透明化を更に強化する方向だ。

 投票結果は、賛成38.1%、反対61.9%で否決。フランス語圏のヴォー州、ジュネーブ州、ヌーシャテル州とジュラ州以外、賛成が過半数を上回る州はなかった。

値段が変わるソーセージ

 また、「同じソーセージを食べても、レストランではテイクアウト商品より税金が多くかかるのは差別だ」として、外食ホテル協会「ガストロスイス(GastroSuisse)」は「レストラン経営者に不利な税率差別廃止を求めるイニシアチブ」を立ち上げた。

 このイニシアチブでは、小売店、テイクアウト商品販売店、レストランという形態に関係なく、飲食物にかかる付加価値税率の統一が求められている。(ただし飲食店で販売される酒類とタバコは例外)。税率の具体的な数字は提案されていない。

 その背景にあるのは、レストラン業界の経営難だ。近年スイス経済は若干成長したものの、観光客の減少、長引くスイス・フラン高、飲食店での禁煙普及、人々の食習慣の変化などが原因で、2010年以降の飲食店の売上高は260億フランから231億フランに落ち込んだ。

 イニシアチブ推進派は今回、レストランの経営難に拍車を掛けているのは付加価値税だとし、その一律化を求める国民発議を提出した。レストランでの飲食における付加価値税が8%であるのに対し、現行のテイクアウト商品のそれは食料品と同じ2.5%と低い。

 スイスでは、付加価値税は国の税収入全体の3分の1以上を占めている。スイス政府は今回のイニシアチブが可決されれば税収入が7~7.5億フラン減少し、他の分野での予算が削減されるとし、イニシアチブに反対。また、食料品にかかる付加価値税を2.5%から3.8%に引き上げて一律にするという考え方にも、消費者に負担が掛かるという点から反対している。

 唯一、連邦議会で賛成の姿勢を示したのは右派の国民党と、中道右派の政治家数人だ。レストラン業界はホテルと合わせて労働力人口の5%に値し、非常に重要な分野だからこそ今回のイニシアチブを支持すべきであると主張。また、健康な食生活をおくるには、テイクアウト商品よりもレストランでの飲食を促す努力が必要だと強調した。

 国民投票の結果は、賛成28.5%、反対71.5%で否決。全ての州の過半数が反対し、否決となった。

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