国民投票 企業年金引き下げ案否決
3月7日の国民投票で、一番の焦点となった企業年金給付額の法定利回りの引き下げ案は、国民の72.2%の反対で否決された。
動物保護法違反において動物側に立つ弁護士の導入を訴えるイニシアチブも、国民の70.5%と全州の反対で否決された。一方、臨床試験の憲法改正案は、国民の77.2%と全州の賛成で承認された。
企業年金法定利回りの引き下げ
高齢化と金融危機により企業年金基金の資産運用が困難なことを理由に、政府は給付額の法定利回りを現在の7 % から2016年には6.4 %に引き下げる改正案を提示。これに反対する組合 ( UNIA )と左派政党がレファレンダムを起こし、国民の是非を問うた。
法改正に反対して起こすレファレンダムは随意のレファレンダムと呼ばれ、国民の署名を5万人分集めて国民に問う。その結果は国民の投票だけで決まるが、今回国民は72.2%の反対で否決した。
国民は左派政党が主張する
「企業年金基金はそれほど困難な状況にはない。また金融危機による資金の損失は一時的なもので、金融危機との関係で企業年金基金を考えるには最低10年間の期間が必要だ。そのため、法定利回りをこの時期に引き下げるのは時期尚早だ」
という意見に大多数が賛成した。
この否決によって、2015年までに法定利回りを暫定的に6.8 %にまで下げる2003年の法案は維持され、最低給付金を定める法律 ( BVG / LPP ) はすでに、2013年までに女性、2014年までに男性の給与額をこの6.8 %に下げることを決定している。その後は6.8 %のままで維持される。
動物の立場に立つ弁護士
一方、動物を虐待して刑事訴訟に発展した場合、動物保護法の違反者の立場に立つ弁護士はいても動物側に立つ弁護士がいないのでは、本当の意味で動物保護は達成されないというのが、今回イニシアチブを提案した「スイス動物保護協会 ( PSA ) 」の主張だった。
しかし、政府、議会、右派政党などはこのイニシアチブに反対し、2008年に施行された動物保護法で動物は十分に保護されており、動物の弁護士を各州に導入するのは、行き過ぎた考えだと主張していた。
今回国民はこの政府側の立場を支持し、70.5%の反対でこのイニシアチブを否決した。イニシアチブ否認には州の過半数以上の反対も必要だが、現在施行の動物保護法の下で動物の弁護士を導入しているチューリヒ州さえ66%で反対し、そのほかフリブール州の80.8%、ヴァレー/ヴァリス州の83%など、全州が高い反対率で否決を表明した。
臨床試験の是非
第3案件は、人を使った臨床試験の憲法改正案だった。臨床試験は倫理的で非常にデリケートな問題であるにもかかわらず、スイスでは法的整備が十分に行われておらず、全州共通の法律が存在しなかった。
そのため政府と連邦議会は、臨床試験が医薬治療の向上に必要不可欠である以上、憲法による明確な枠組みを作成する必要があるとの考えから、2009年9月に「人を使った臨床試験の憲法改正案」を提案した。今回国民に問われたのは、この改正案の是非だった。
倫理学者のなかには、子どもや精神障害者など自分で判断できない人を被験者にしてしまう危険性を懸念する声があった。しかし、今回の改正案に対し
「被験者を保護するのみならず、研究者をも規制するバランスの取れた法案。また何と言ってもスイス全体に一律の規制が必要になっている」
と主張する政府、連邦議会側の意見に賛成する声が多く、結局国民は賛成77.2%で改正案を支持した。
憲法改正案は自動的に国民投票に掛けられる強制レファレンダムで、州の過半数以上の賛成も必要だが、今回は全州が一致して支持を表明した。
なお、今回の投票率は、44.6%だった。
里信邦子 ( さとのぶ くにこ) 、swissinfo.ch
1980年代に企業年金の最低給付を定める法律 ( BVG / LPP ) が制定された際、給付額を算出する法定利回りは7.2 % に固定された。
2003年に連邦議会は2015年までに暫定的に、法定利回りを6.8 % に下げることを承認した。
2009年の法定利回りは、男性が7.05 %、女性が7 % だった。
国民投票で今回の改正案が否決されたため、2015年までに法定利回りは暫定的に6.8 % に下がるが、2016年以降も6.8 %で維持される。
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