現在、一日に何千人もの難民や移民が、庇護やより良い生活を求めてヨーロッパに押し寄せている。この前例のない事態に、EU加盟国は連携して共通の対応策を見つけようと必死だ。一体、どの国にどれほどの難民が殺到しているのだろうか?また、加盟国への難民の割り当てが実際に行われるとしたら、どのような影響が出るのだろうか?スイスインフォはインタラクティブなグラフを用いて、その答えを探った。
このコンテンツが公開されたのは、
これまで、これほど多くの人が命の危険を冒してまで海を越え欧州を目指すことはなかった。今年の初めから、南欧の海岸にたどり着いた難民や移民の数は約43万2千人で、すでに昨年14年の人数の倍以上となっている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、難民申請希望者の出身国で多いのは、シリアやアフガニスタンといった紛争国や、独裁政権のエリトリアだ。
ヨーロッパ全体の難民申請件数は昨年で66万件以上。これは、1990年代に旧ユーゴスラビアで紛争が行われていた当時とほぼ同じ水準だ。難民申請件数は国によって大きく開きがある。ドイツが今年末までに2014年の4倍となる80万件の申請を見込んでいる一方、スイスは2万9千件(14年は2万3770件)に留まっている。下のグラフが示すように、難民申請件数が4万件以上あった1991年と99年よりも大幅に低い数字だ。
PLACEHOLDER
命がけで地中海を渡る難民が近年増えているが、地中海がヨーロッパへのルートとなったのは偶然ではない。EUは過去数年間にわたり、国境警備を強化し、フェンスなどを設置してきたからだ。モロッコとスペインの飛び地セウタの国境(8キロメートル)、トルコとギリシャの国境(12.5キロメートル)、トルコとブルガリアの国境(30キロメートル)には、高いフェンスと有刺鉄線が設置されている。ジャーナリスト集団「The Migrants Files外部リンク」によると、こうした設備の建設費用は7700万ユーロ(約104億円)。しかし、難民申請希望者の波は止められていない。
押し寄せる難民の波に対しEUの国々は現在、それぞれ異なった対応を取っている。ドイツは一時的措置として国境を開放し、さらなる難民支援を呼びかけた。加えて、シリア難民を他のEU加盟国に送還しない方針を採ることで、「ダブリン協定」を疑問視した。この協定では難民が最初に入国したEU加盟国がその難民を受け入れ、登録しなければならないことになっている(ほとんどがイタリアやギリシャ)。14年に最も多くの難民を送還した国がドイツであり、それにスイスが続いたという点を考えれば、ドイツは重要な方針転換を遂げたといえる。
一方、東ヨーロッパの国々は難民の受け入れに抵抗を示している。ここ数週間で日々何千人という難民が流入したハンガリーは国境を封鎖し、その後、難民を駅構内に留める措置に出た。またスロバキアは既に、難民がキリスト教徒であれば受け入れると表明。ブルガリアは軍を投入して国境警備の強化を図った。
この数カ月で、国境警備をさらに強化すると宣言する国も出てきた。ハンガリーはセルビアとの国境沿いに175キロメートルの壁を建設する予定だ。また、ブルガリアはトルコとの国境沿いに設置したフェンスをさらに130キロメートル延長する方針だ。
フランスも国境警備を強めており、イタリアとの国境地点ヴェンティミリアで、難民申請を希望する数百人がフランスに入国できないよう措置を取った。スイスでは右派で第一党の国民党が、国境に軍を配備するよう要求。同様にスイス南部の地域政党がイタリアとの国境を閉鎖するよう求めた。
人権擁護団体はこうした各国の態度を厳しく非難している。そのような態度に出るのは難民申請希望者が殺到する国かと思われるが、下のグラフでは、必ずしもそうではないことが示されている。
難民への対応を各国間で調整しようと、EUはこれまで加盟国が負担可能な解決策を模索してきた。
地中海沿岸のイタリアやギリシャには毎日数百人の難民申請希望者が押し寄せるが、彼らの多くはドイツとスウェーデンを最終目的地としている。しかし、「難民申請希望者が最初に入国した国が、難民申請を審査しなければならない」というダブリン協定をEU加盟国やスイスが結んでいるため、難民申請希望者の多くはイタリアの当局に身元が把握されるのを避けている。イタリアとしても、同国を通過してほかの加盟国に移った難民申請希望者を、わざわざ呼び戻して審査をするという面倒を避けたいため、彼らの身元を厳格に把握しようとはしていない。
現在、ドイツを中心とするいくつかのEU加盟国から、ダブリン協定の見直しと、加盟国への難民の割り当てを求める声が相次いでいる。これはEUには加盟していないがダブリン協定は結んでいるスイスにも関係する。こうした要求の中には、国内総生産(GDP)、人口の規模、失業率などに応じて受け入れ人数を変える割り当て制度の導入や、受け入れに非協力的な国に対する制裁が含まれている。
下のグラフは、人口やGDPの規模に応じた各国の難民申請件数を表している。
PLACEHOLDER
難民の受け入れに関しては、各国が独自の基準を用いるため、どの国で難民申請をするかによって、難民として認定される可能性が異なってくる。14年は、申請件数のほぼ半数(47%)が認定された。前年比の12%増だった(注記1)。
スイスは難民認定件数および暫定在留許可の発行件数でトップの国に数えられる。EU統計局によれば(注記2)、スイスは難民申請件数の70.5%を認めたことになる。認定件数が最も多い国はブルガリアで、94.1%。一方、ハンガリーの認定件数は9.4%とヨーロッパでは最低だ。ハンガリーでは難民申請者の多くがコソボ出身だが、コソボは安全な国として判断されていることがその理由の一つとされる。
PLACEHOLDER
大量に押し寄せる難民への対応に追われているヨーロッパでは、一部の国民の間で難民の受け入れに対し不満が募っている。しかし、ヨーロッパのような先進国に暮らす難民は少数派だ。UNHCRによると、難民および難民申請希望者の86%が途上国で暮らしており(14年末で1240万人)、400万人のシリア人が隣国に避難している。難民や難民申請希望者が人口の4分の1を占めるレバノンは、人口100万人当たりの庇護申請者の数が世界一で、スウェーデンに比べ12倍も多い(注記3)。
下のグラフは、UNHCRの統計による人口100万人およびGDP1ドル当たりの難民・難民申請希望者の数を示している。
PLACEHOLDER
※ 難民問題は、刻々と変化しています。新しい記事「2015年 欧州に津波のように押し寄せた難民」と「国境を閉鎖する国 新たなルートを模索する難民」も併せてご覧ください。
- 難民認定件数の増加は、難民申請希望者の出身国や個人の状況と関わっているが、EU統計局で統計の取り方が変更されたことも影響を及ぼしている。14年以降、難民申請者の重複を避けるため、すでに他国で難民申請した人(ダブリン・ケース)は統計に含まれていない。
- スイスは公式には、「庇護が必要である」と判断された人の割合を14年で58.3%としている。難民申請希望者および暫定的に在留許可が認められた人もその中に含まれる。ユーロ統計局が出した70.5%とスイスの公式統計の数が大幅に違うのには理由がある。スイスはダブリン・ケースに該当する人および申請審査が中断された人も統計に入れるからだ。スイスは、難民申請者が正式に難民として認められた場合のみ、「申請が認定された」と判断する(15年は25.6%)。暫定的な在留認定は「申請が却下された」ケースとなる。
- このグラフで使用したUNHCRの統計は、他のグラフで用いたEU統計局の統計とは数字が異なる。ユーロ統計局は特定の期間に提出された難民申請のみを考慮しているが、UNHCRは審査待ちの難民申請すべてを統計に入れており、14年以前に提出された申請も含んでいる。
(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)
続きを読む
おすすめの記事
欧州の移民が集まる国、スイス
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは人口の外国人比率が特に高い国の一つに数えられる。スイスで暮らす外国人を出身国で見るとほとんどが欧州出身者だが、過去、その比率に変化はあったのか。スイスの166年にわたる移民の歴史を振り返る。
もっと読む 欧州の移民が集まる国、スイス
おすすめの記事
スイスで帰化する外国人が少ないのはなぜ?
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは総人口に占める外国人の割合が世界で最も高い国の一つだ。スイス生まれ、あるいは20年以上スイスで暮らしている外国人は全体の約4割に上る。なぜこれほどまでに外国人の割合が高いのだろうか?
もっと読む スイスで帰化する外国人が少ないのはなぜ?
おすすめの記事
スイスの移民滞在期間 日本人は半数以上が2年以内に帰国
このコンテンツが公開されたのは、
スイスを入国から15年以内に離れる割合がとりわけ高い(8割以上)のは、日本、米国、中国からの移民で、これらのうち半数以上が2年以内に出国している。 一方、イタリア、フランス、ドイツ、オーストリア出身者の約6割は、スイ…
もっと読む スイスの移民滞在期間 日本人は半数以上が2年以内に帰国
おすすめの記事
欧州で最も多くの移民を引きつける国は?
このコンテンツが公開されたのは、
移民危機への対処に苦しむ欧州で、人の自由な移動を定めた合意が標的になっている。そのような中で、入ってくる移民より移民として出て行く国民の方が多い国はどこだろう?
もっと読む 欧州で最も多くの移民を引きつける国は?
おすすめの記事
世界の現状は本当に前代未聞の移民危機なのか?
このコンテンツが公開されたのは、
「2015年の世界の移民数は2億4400万人で、世界人口の3.3%を占める」。前回の記事でも触れたが、この国連発表の数字はよく引用される。しかし、このインパクトの大きな数字が示すのは「移民ストック」、すなわち、生まれた…
もっと読む 世界の現状は本当に前代未聞の移民危機なのか?
おすすめの記事
スイス人口の25%を占める外国人 その内訳は?
このコンテンツが公開されたのは、
スイスに住む外国人の数は200万人以上。しばしば政治議論の対象となるこれらの「非スイス人」は、昨年の時点でスイスの人口830万人の4分の1近くを占める。では、これらの「非スイス人」とは、具体的にどんな人々なのだろう?グラフで解説する。
もっと読む スイス人口の25%を占める外国人 その内訳は?
おすすめの記事
国境を閉鎖する国 新たなルートを模索する難民
このコンテンツが公開されたのは、
「シェンゲン協定と人の自由な移動を守る」。これが、難民危機に対しオランダで25、26両日開催中の欧州連合(EU)の内相理事会が出す最終目標だろう。こうした中、数カ国が難民の流入を防ぐためにすでに国境を閉鎖。一方、難民たちは新たな避難ルートを模索する。混乱は続いている。地図で詳しく見た。
もっと読む 国境を閉鎖する国 新たなルートを模索する難民
おすすめの記事
2015年 欧州に津波のように押し寄せた難民
このコンテンツが公開されたのは、
記録的な難民申請数、一度開かれた欧州の国境閉鎖、連帯を呼びかける声明、緊迫した国際関係。難民危機は今年、ただでさえ安定を失った欧州連合を大きく揺るがすとともに、中心的な政治問題として浮上した。スイスもまた同じ状況だ。波乱の1年をグラフで振り返る。
もっと読む 2015年 欧州に津波のように押し寄せた難民
おすすめの記事
難民でもなく、本国にも帰れない外国人
このコンテンツが公開されたのは、
イタリアやギリシャを目指して密航船で地中海を渡る難民申請希望者の数は、すでに6月初旬で10万人を突破した。これほどの人が殺到したのは過去最高だ。難民申請が多く北欧への通過点となるスイスにも影響が出ている。 連邦移民事…
もっと読む 難民でもなく、本国にも帰れない外国人
おすすめの記事
スイスで始まった、難民を自宅に受け入れる試み
このコンテンツが公開されたのは、
難民申請者をスイスの一般家庭に受け入れる。こんな発想のプロジェクトが、NGOの難民援助機関と州の連携で始まった。自宅提供を申し出た世帯数は約300。エリトリア人の難民を受け入れた家庭「第一号」となったヴォー州・モルジュ近郊の一家を訪ねた。
もっと読む スイスで始まった、難民を自宅に受け入れる試み
おすすめの記事
求められる難民支援 現地で援助か、スイスへ受け入れか?
このコンテンツが公開されたのは、
難民や国内避難民が世界的に増え続けている。長引くシリア内戦がその主な理由だ。周辺国のレバノンとヨルダンはシリア難民の受け入れが限界に近づいている中、スイスでは難民の受け入れ拡大について議論されている。本当に難民のためになる支援とは、難民の受け入れを増やすことか、それとも現地支援の強化だろうか?
もっと読む 求められる難民支援 現地で援助か、スイスへ受け入れか?
おすすめの記事
相次ぐ難民船事故 地中海で難民を救うのはだれか
このコンテンツが公開されたのは、
多くの難民船が漂着するイタリアの海洋救出作戦「マーレ・ノストルム」。15万人以上の難民を保護してきた同作戦は今秋終了し、欧州連合(EU)による「トリトン」作戦が新たに始動。果たして国境警備に重点を置くこの作戦で難民の命が救えるのか。難民が数多く流れ着くシチリア島の港町ポッツァーロを取材した。
ポッツァーロの早朝。1隻の巡洋艦が港に到着する。10月初頭、海洋救出作戦「マーレ・ノストルム(Mare Nostrum、我らの海)」が終わりを迎えるまであと数日のことだった。船尾には435人の移民がすし詰め状態で乗っていた。中には女性8人と子ども1人の姿もあった。彼らの大半はサハラ南部のアフリカ諸国出身だ。彼らは1週間前、リビアの海岸でボートに乗り込んだ。公海を3日間漂い、その後、マーレ・ノストルム作戦でイタリア海軍が出した軍用ボート32隻に移送され、4日間をそこで過ごした。
「ゴムボートでやってきた彼らの旅は、リビア沿岸から70海里離れた公海で終わった。我々はまず彼らをなだめた。ささいなことが大きな混乱につながることもあるからだ。1隻のゴムボートには水が入り込んでいたが、我々は手遅れになる前に駆けつけた」と、船長のマリオ・ジャンカルロ・ラウリーアさんは振り返る。
新作戦の始動
こうした光景は、地中海でほぼ1年間繰り返されてきた。軍を派遣して難民救助に当たっていたイタリアだったが、支援を要請したEUからは思うような反応が得られなかった。マーレ・ノストルム作戦が今秋に終了することを受けて、EUが新しく打ち出したのは、国境警備の強化と密入国斡旋業者の取り締まりを最重要課題とするトリトン作戦(Toriton、海神)だった。
この作戦を指揮するのは、欧州対外国境管理協力機関(Frontex)。同機関にはスイスを含め欧州15カ国が参加している。毎月の予算は290万ユーロ(約4.2億円)で、イタリアのマーレ・ノストルム作戦より3分の1少ない。11月1日から始まったトリトン作戦だが、移民や難民の救助は最優先事項に定められていない。
「人道面や軍事面にまたがるマーレ・ノストルムとトリトンとを比べることはできない。Frontexには、許可のない人を欧州の領域に入れさせないという任務がある。もちろん、国際法で決められたように、船が難破した場合に難民を安全な場所へ移すことはあるだろう。だがそれはトリトンでとりわけ重要な課題ではない」と、Frontexのイザベラ・クーパー広報担当官は説明する。
まさにこうした理由から、トリトン作戦では活動範囲がイタリア沿岸から30海里に限定された(ちなみにマーレ・ノストルム作戦の範囲はイタリア沿岸からほぼリビア沿岸までの海域だった)。その範囲内で保護されたのが前述の435人の難民だ。彼らはその後、ポッツァーロへと移送された。
巡視船が港に着いて数時間後、ようやく若いアフリカ人たちが4、5人の小さなグループに分かれて陸に降りてきた。イタリア軍が新しい移民の写真を撮影した。撮影するのは顔と、四つの数字が書かれた腕輪だ。こうして一時的に身元が管理される。難民の一部は、ポッツァーロから約200キロ離れたメッシーナに直接移送されるが、他の人たちは同じ場所に留まる。彼らは衛生チェックのため、国境なき医師団のテントまで連れて行かれた。
「壁」で囲むEU
イタリアがマーレ・ノストルム作戦を開始したのは、2013年10月のこと。ランペドゥーサ島でボートに乗った難民368人が死亡したことを受けてのことだった。同作戦では約15万人の難民が救助され、密入国を斡旋していた500人が逮捕された。
当時のエンリコ・レッタ政権が果敢に行った政策は、国庫に影響を及ぼした。費用は1億1200万ユーロで、1カ月に950万ユーロかかった計算だ。さらに、難民が最初に入国した国がその難民の責任を負うとするダブリン協定に基づき、イタリアには難民を受け入れ、世話をしなければならない義務があった。
しかし難民の流入はイタリアの限界を超え、状況は緊迫していった。難民の数は毎年膨れ上がり、13年には6万人、14年10月には16万5千人に増加した。そのため、イタリアはEUの難民データバンク「Eurodac」への難民登録を断念したが、特にスイスなど欧州各国からひんしゅくを買った。難民の指紋をデジタル登録しなければ、その人が欧州内で最初に入国した国がイタリアだと証明できず、各国が難民をイタリアに追い返すことができなくなるからだ。
マーレ・ノストルム作戦への支持も、時間とともにEU内で小さくなっていった。逆に、この作戦は地中海に移民を引き付け、密入国斡旋業者のビジネスを手助けすることになると考える政治家も多かった。
しかし、伊トリノで難民問題に関する研究団体を運営するフェルッチオ・パストーレさんは、この作戦が移民を引き付けたと学術的に証明することはできないとみる。「逆に反ばくできないのが、シリアやリビアの状況が昨年急激に悪化し、外国に逃れようとする人が増えた事実だ。さらに、ガダフィ政権後のリビアは崩壊状態となり、難民の流れを止めるダムの役割を果たす国がなくなった」
人権NGO「アムネスティー・インターナショナル」スイス支部の弁護士で、難民問題に詳しいデニーゼ・グラーフさんは、この状況にはEUにも責任があると指摘する。「欧州は壁に囲まれた城塞のように守りを固めている。ギリシャには国境沿いに壁がある。ブルガリアや、スペインのセウタとメリリャもそうだ。こうした境界線は、まるでもうだれも通過できないようなイスラエルとエジプトとの境界線のようだ。また、スイスも含めた欧州諸国は、移民の家族を呼び寄せる権利を著しく傷つけ、大使館で難民申請できないようにしている。欧州で難民申請したい人に残された唯一の方法は、地中海を通る違法の道しかないのだ」
消えない希望
難民船で命を落とした人の数は、マーレ・ノストルム作戦が行われていたにもかかわらず、ここ数カ月で増加している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、14年ではこれまで3300人が死亡、そのうち6月初旬以降に死亡した人の数だけでも2700人に上る。「実際の被害者の数はもっと多いだろう」と語るのは、イタリアの港町で活動する国境なき医師団チームのリーダー、キアラ・モンタルドさんだ。難民たちによれば、初めは5隻のボートで出港したが、無事に到着できたのは2隻だけだったという。「では他のボートはどこに行ったのだろうか」とモンタルドさんは問う。
マーレ・ノストルム作戦の終了後、難民救助に関する情報はリビアに届きにくくなり、特に今後数カ月で状況が悪化する恐れがある。また、難民が情報を把握できないのをいいことに、密輸入斡旋業者が彼らを悪用する可能性もある。
UNHCRや国際人権団体は、欧州各国には長期的な難民政策を打ち出して地中海における難民の死亡事故を回避する意志が見られないと、批判する。「EUはこの状況に目をつむり、地中海で今後ボートが沈むことはないとするが、そんな態度はあってはならない」(グラーフさん)
ここ数日間、ポッツァーロは元の静けさを取り戻している。以前はイタリア海軍のツイッターアカウントには連日、救出された難民の数が報告されていたが、最近は静かになった。シチリア島の向こう側では、今も数千人の人が欧州の地を踏もうとしている。マーレ・ノストルム作戦が終わっても、彼らの希望は消えない。
マーレ・ノストルム作戦
目標:地中海での難民救助
関係国:イタリア
予算:月に950万ユーロ(約14億円)、合計1億1400万ユーロ
出動した乗り物:軍艦32隻、潜水艦2隻、ヘリコプター2機、飛行機2機
出動人数:1日軍員900人(24時間体制)
活動範囲:イタリアから公海、リビア沿岸まで
トリトン作戦
目標:EU国境警備および人身売買撲滅
関係国:スイスを含めた15カ国
予算:月に290万ユーロ
出動した乗り物:船7隻、飛行機2機、ヘリコプター1機
出動人数:不明
活動範囲:イタリア沿岸から30海里まで
もっと読む 相次ぐ難民船事故 地中海で難民を救うのはだれか
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。