中国の習近平国家主席が欧州を公式訪問し、自国の広域経済圏構想「一帯一路」を推し進めている。だがスイスには立ち寄らない。スイスと中国はすでに緊密な経済関係を結んでおり、その必要がないからだ。しかし、そんな友好関係が20年前に一度、破綻したことがあった。
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専門分野は連邦政策。以前はスイス通信やラジオ・フリブールに従事。
Olivier Pauchard, swissinfo.ch
中華人民共和国が成立した1949年以降で、スイスは西側諸国の中でいち早く同国を正式に承認した。
だが1999年3月25日、この特別な関係が明らかに悪い方へ向かった。スイスを公式訪問中の江沢民国家主席がベルンの連邦議事堂に到着したとき、そこで親チベット派の活動家たちが抗議デモをしていたからだ。これにひどく腹を立てた江主席は「スイスは友人を一人失った」と批判した。
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1999年、スイスを訪問した江沢民主席「怒りのスピーチ」
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その記憶に残る外交トラブルの後、2国間の関係は再び元に戻っている。今やスイスは中国が欧州に影響力を広げるための「足掛かり外部リンク」と呼ばれるほどだ。
2016年4月、ヨハン・シュナイダー・アマン連邦大統領は北京を公式訪問。それから 1年も経たないうちに、今度は習主席がスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に出席した。
現在、中国と一部の西側諸国、特に米国との間で貿易戦争が起きている。スイスはその例外だ。中国とスイスの経済関係は2014年7月1日発効の自由貿易協定(FTA)によって強化された。スイスは、中国がアジア太平洋地域外でFTAを締結した数少ない相手国の一つだ。
>>スイス・中国のFTAって?
すべての貿易障壁が撤廃される2023年までに、スイス企業は年間2億9千万フラン(約319億万円)の支出削減が可能とされる。昨年の調査では、両国の企業は2017年の1年間で1億フランの支出を削減した。
スイスはまた、中国との金融協力も強化。 2018年12月、大手銀行UBSは、中国本土で現地資本と展開する証券合弁事業への出資比率を過半(51%)に引き上げ、外資としては初めて中国本土の金融機関の経営権を取得した。
2016年には中国建設銀行(CCB)が中国の銀行で初めてスイスに支店を開設。1年後には中国工商銀行が続いた。これによってスイスは「人民元取引の拠点」という確固たる地位を獲得した。
中国は欧米諸国に巨額の投資を行っている。スイスも例外ではない。現在80社以上のスイス企業が中国企業の手に渡り、その価値は総額460億フランに上る。 2016年、中国化工集団(ケムチャイナ)が農薬大手シンジェンタを433億ドル(約4兆8千億円)で買収。中国企業による買収では過去最大だ。
ただ、スイス国内では中国の経済的影響力に対する懸念と批判の声が挙がる。一部の連邦議会議員は連邦政府に対し、中国企業の投資規制を検討するべきだと訴えた。
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(英語からの翻訳・宇田薫)
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