スイスの11月29日の国民投票を前に実施された世論調査によると、多国籍企業に外国での人権・環境に法的責任を負わせる「責任ある企業イニシアチブ(国民発議)」は支持を失いつつある。
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「責任ある企業イニシアチブ」は多国籍企業に国外での企業活動で発生した人権侵害・環境汚染に法的責任を負わせる提案。賛成派は10月の前回調査から6ポイント減の57%となり、反対派との差は30ポイントから16ポイントに縮まった。29日の投票日までに賛否が逆転しうるとみられている。
「未定」との回答割合は11%と、前回の18%から減った。
調査を主導した政治学者のマルティナ・ムーソン氏は、「重要なポイントの一つは、賛成・反対どちらが草の根運動の動員に長けているか、ということだ」と話す。
今のところイニシアチブ賛成派が過半数を占めているが、投票では否決される可能性を示すいくつかの兆候がみられるという。
「これは世論調査の分析をしづらくしている」とムーソン氏は話す。数字が拮抗しているため結果予測は難しいと言える。
スイス経済への追い打ち?
支持政党別にみると、中道派の支持者と無党派層がイニシアチブの反対派に移っていることが分かる。
一方、女性やフランス語圏とイタリア語圏、左派政党の支持者の間では支持が根強い。
企業責任イニシアチブに反対する理由を尋ねると、イニシアチブはコロナ禍で既に苦しんでいる企業に追い打ちをかけ、スイス経済へのダメージが大きくなるとみる有権者が増えている。
gfs.bernによると、賛成理由としては「ビジネスにおける公正性を促進する必要がある」が最も多い。「人権と環境保護は、イニシアチブを勝利させる可能性がある」(ムーソン氏)
だが過去130年、左派勢力の提案を中心に憲法改正を求めるイニシアチブの大半は否決されている。企業責任イニシアチブが可決される可能性も低そうだ。
軍需産業への融資禁止イニシアチブ
中央銀行や年金基金、各種財団による軍需企業への投融資を禁じる「軍需産業への融資禁止イニシアチブ」も左派の提案だ。同様に支持を失っており、賛成・反対の差は前回の13ポイントから5ポイントと縮まった。投票日までに形勢逆転する可能性がより濃厚だ。
gfs.bernのルーカス・ゴルダー氏は、反対派がイニシアチブに潜む弱点を強調したことが背景にあるとみる。
「回答者は、イニシアチブが狙い通りの結果をもたらすか懐疑的で、可決された場合にスイス経済が負う代償が大きくなると懸念している」。ただ女性やフランス語圏では賛成が強いという。
「企業責任イニシアチブほど注目されていないことも、賛成が過半数を維持する可能性を低くしている」(ゴルダー氏)
在外スイス人
調査には在外スイス人も回答した。通常、在外スイス人は国内の有権者より左派寄りになる傾向がある。
企業責任イニシアチブについては、国内有権者より20ポイント近く多い76%が賛成と答えた。軍需産業への融資禁止イニシアチブも、8ポイント賛成が多い。
11月29日の国民投票に関する2回目の世論調査。全国・全言語圏と国外に住む有権者の計1万69人が回答した。
固定・携帯電話の電話調査とオンライン調査を併用し、11月2~11日に実施された。標準誤差は2.7%。
swissinfo.chの親会社であるスイス公共放送協会(SRG SSR)の委託を受け、世論調査機関gfs.bernが実施した。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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