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女性の政治参画はどこまで後押しすべきか 賛否両論

連邦内閣閣僚のシモネッタ・ソマルーガ氏(写真中央)の後任候補は、女性に限定されるべきか?子持ちの女性は閣僚になれるのか?社会民主党内でも議論が分かれている
連邦内閣閣僚のシモネッタ・ソマルーガ氏(中央)の後任候補は、女性に限定されるべきか?子持ちの女性は閣僚になれるのか?社会民主党内でも議論が分かれている Keystone / Peter Klaunzer

社会民主党は18日、年内で辞任するスイス連邦内閣の閣僚シモネッタ・ソマルーガ氏の後任として、女性に絞った候補者リストを提示すると発表した。この決定の前には男性有力議員が党の意向に反して立候補し、差別に関する議論を再熱させた。女性の政治参画を巡っては、いまだに議論が分かれている。

ソマルーガ氏が突然辞任を表明し、後任選びが争点になっている。同氏が所属する社会民主党にとっては、1年後の連邦議会総選挙も見据えた重要な問題だ。党の信条であるインクルージョン(社会的包摂)との整合性も強く意識する。同党は18日に候補者基準を定め、女性2人を擁立すると発表した。候補者名は26日に発表し、12月7日に閣僚選出選挙が行われる。

社会民主党はソマルーガ氏の辞任表明直後から、男性候補を退けて女性2人から成る公認候補者名簿を作成する意向を示していた。純粋に数学的理由からと考えることもできる。同党は現在、内閣で2議席を占めており、アラン・ベルセ氏は2012年から(当面の退任予定なし)、ソマルーガ氏は2010年からその閣僚ポストに就いている。男女同数の理論に沿えば、ソマルーガ氏のポストは女性に引き継がれると見られている。

だが、誰もがこれに賛成したわけではない。チューリヒの全州議会(上院)議員で、同党右派を代表するダニエル・ヨシッチ氏は、党の意向に反して後任者に名乗りを上げた。同氏はチューリヒ大学法学部教授で、男女のより平等な登用を支持するとしながらも、「男性が出馬できないというのは、平等からかけ離れている」と党の姿勢を批判した。

そう考えるのは同氏だけではなかった。ヨシッチ氏が所属する社会自由主義を志向する議員グループは、男性1人を含む3人の候補者選出を呼びかけていた。一部の政治家や論説委員は、最初から男性を退けることは優れた候補者の野心を奪う「誤り」であるばかりでなく、何よりも「非民主的」「差別的」「違憲的」な戦略だという。フランス語圏日刊紙ル・タンのコラムニストは、「女性への侮辱」であり「仮面をかぶった新手のパターナリズム(父権主義)」と批判した。

低い女性比率

後任候補であるバーゼルの上院議員エヴァ・ヘルツォーク氏は、大衆紙ブリック日曜版で、「閣僚ポストは魔法のように増えたりしない」と述べ、「女性の登用が増えれば必然的に男性の出番が減る。そのことを差別とは呼べない」と反論する。

サビーネ・クラドルファー氏
サビーネ・クラドルファー氏 DR

「女性枠」の議論は目新しくはない。だが「枠が無ければ何も変わらない」と言うのはサビーネ・クラドルファー氏だ。同氏は2021年に共著「Femmes et politique en Suisse(仮題:スイスの女性と政治)」を出版し、機会均等・多様性プロジェクトを手掛けている。社会民主党の決定は政府への公正な男女登用の確保に必要な「代償措置」であると考える。党の信条に合致するとともに、当選見込みのない候補者の無駄な努力を避ける合理的な判断だという。

同氏は、女性限定の候補者名簿に対する反論は劇的な社会変化の表れだと考える。「閣僚を目指して真面目に多大な努力を重ねてきた男性に、もう少し待てと言うのが残酷だということは理解できる」と認める。しかしその一方で、「それは、数年前まで女性たちが経験してきたことだ」と言う。

近代スイス史においてこれまでに110人が連邦内閣閣僚に就任した。女性が選挙・被選挙権を得た1971年以降に選出された閣僚は37人で、そのうち女性が9人だ。

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連邦議会の女性議員数は過去最多となっているものの、依然としてその比率は低い。

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全ての政治機関で女性比率の低さが見られる。地方レベルではその傾向がさらに顕著だ。

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母親であり閣僚?

社会民主党の党首には、かなり明確な理想の候補者像がある。ソマルーガ氏の後任は女性であるだけでなく、フィンランドやニュージーランドの首相のように学齢期の幼い子供の母親が理想だという。

現時点の候補者は、エヴァ・ヘルツォーク氏、ベルン州政府閣僚のエヴィ・アレマン氏、ジュラ州出身の上院議員エリザベット・ボーム・シュナイダー氏の女性3人。全員が州および連邦レベルで政治家として豊富な経験があるが、幼い子供を持つ母親はアレマン氏だけだ。

アレマン氏が選出されれば、スイスで初めての幼い子供を持った女性閣僚になる。男性閣僚では多くはないが前例があり、例えば3人の子供を持つアラン・ベルセ氏は、末子が2歳の時に閣僚入りした。

ここでもう1つの疑問が生まれる。家庭生活と閣僚の職務は本当に両立できないものなのか?それとも、女性だけがこのジレンマを課されているのではないか?ヘルツォーク氏は後者の意見だ。ブリック日曜版のインタビューの中で、子供がまだ幼かった当時は多くのジャーナリストから「家庭と両立できるのか?」と聞かれたと話している。アレマン氏も最近、同じような質問を受けた。

一方でクラドルファー氏は、閣僚の職務は非常に厳しいものだと強調しつつ、「仕事が夜や週末にまで及ぶことも多い。代わりが利く仕事ではない。世話が必要な家族がいる場合は大変なこともある。家庭の事情で立候補を断念した男性もいる」と含みを持たせる。

構造的な不平等

とはいえ、女性の政治参画を巡る課題は、スイス社会全体に残る不平等と切り離して考えることはできない。クラドルファー氏は、スイスでは男性が外で稼ぎ女性がサポートするという伝統的な家庭の役割分担がいまだに根強いと指摘する。「現状では、両親ともに責任ある高い地位で働けるような仕組みがない」

家庭外保育に関して、スイスは国際比較でかなり低い順位に留まっている。保育料は世界で最も高額で、保育施設も足りていない。父親の育児休業は2021年に延長されたが、1日から2週間になっただけだ。親のどちらかがキャリアを犠牲にせざるを得ない時や子供の誕生を機に労働時間を減らすのは、ほとんどの場合が、より収入の低い女性だ。スイスでは仕事を持つ女性の10人に6人がパートタイムで働くが、これは欧州でも記録的な比率だ。一方で男性のパートタイムは18%未満に留まっている。また、子供のいる家庭では、いまだに母親が家事の大半を担っている。

社会民主党は、母親閣僚が誕生すれば現状打開につながると期待している。クラドルファー氏も、家庭生活と両立できるような職務の見直しが促進されるだけではなく、こうした「これまで男性閣僚が取り上げてこなかった」問題に、目が向けられやすくなると考えている。だが、最初の女性政治家のように、希望の象徴となった1人の女性に男女平等問題の全責任を負わせてはならないと警鐘を鳴らした。

仏語からの翻訳:由比かおり

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