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書籍の定価販売制度はスイスの文化を守れるか?

消費者には高すぎ、出版社や書店には安すぎる。定価販売制度の導入をめぐり、議論は真っ二つに分かれている Keystone

出版社が独自に本の値段を決め、全国どの書店でも定価で販売することを義務づける定価販売制度。日本では再販売価格維持制度(再販制度)として認められているが、その導入をめぐり、スイスでは3月11日に国民投票が行われる。

定価販売制度は文化の多様性や質を高め、国内の書籍市場を守ると推進派は主張。一方反対派は、大手出版社と外国のオンライン企業に有利に働くだけだと、真っ向から対決している。

自由な価格の末

 定価販売制度法案をめぐっては、スイスの三つの言語圏で違いが見られる。賛成派が多いのはフランス語圏だ。それには、フランス語圏ではフランスの書店チェーンがスイスの市場に参入し、その結果、書籍の値下がりや経営が悪化したりつぶれたりする書店が相次いだ背景がある。

 ジュネーブ州出身でキリスト教民主党(CVP/PDC)の故ション・フィリップ・メートル国民議会(下院)議員は2006年、スイスで書籍価格を法律で定めるよう連邦議会に要望書を提出。それを受け連邦議会は2011年3月、定価販売制度を連邦レベルで導入する法案を可決した。

 しかし、保守政党の急進民主党(FDP/PLR)と国民党(SVP/UDC)などが中心となりレファレンダム(議会が決めた法律改正・導入に対し、反対署名を提出して国民投票でその可否を決める制度)が提出され、今回の国民投票となった。

 レファレンダム成立には5万人分の署名が必要だが、署名集めでも言語圏の差が顕著に表れた。人口差を考慮しても、最終的に集まった約6万人分のうち、フランス語圏からはわずか1200人分、イタリア語圏では400人分だった。

スイスの特殊な書籍市場

 スイスの書籍市場は、国語が一つしかない国に比べ特殊だ。スイスでは現在、書籍の値段は全国で自由化されているが、書籍の販売価格に関する法律はドイツ語圏、フランス語圏、イタリア語圏でそれぞれ違う。

 イタリア語圏ではこれまで本の価格は自由だった。フランス語圏も90年代から自由価格制度を取り入れている。一方、ドイツ語圏では過去に波乱があった。ドイツ語圏は1993年、相互契約制度(Sammelrevers)を導入。出版社が本の価格を独自に決められるようになったが、公正取引委員会(WEKO/COMCO)はこれを独占禁止法違反と判断。書籍価格は2007年から再び自由となった。

豊富な書籍を守る

 定価販売制度法案では、書籍は文化財と見なされ、文化の多様性や質を高めるものと認識される。法案の目的には「多くの読者が最適な状況下で購入できることを保障するもの」と記されている。この法案では、店頭販売価格は出版社または輸入業者が定め、書店はその定価通りに販売しなくてはならない。また、安売りは厳しい条件を満たさねば認められない。

 「本はほかの消費財とは違う。本は文化と消費財の二つの面を持ち合わせており、法律的に特別扱いされなければならない。これは世界文化遺産(UNESCO)でも謳(うた)われている」。そう話すのは、キリスト教民主党のドミニク・ドゥ・ビュマン国民議会議員だ。

 ドゥ・ビュマン氏は「定価販売制度法案は、本と書店の多様性を守り、本の価格を監視するという二つの目的がある」と強調する。

どうやって消費者を守るべきか

 定価販売制度反対委員会のメンバーで急進民主党のクリスチアン・ヴァッサーファレン国民議会議員は「確かに、本を文化財として擁護することはできるが、それは文化財保護法などのもとで行われるべきだ。定価販売制度では市場は大きくゆがむ。大手出版社や外国の大手書店がもうかるだけで、目的は到達できない」と批判。最終的に損をするのは消費者だと訴える。

 ヴァッサーファレン氏はまた、自由市場だからこそ、小規模な書店や出版社が隙間商品に特化することで成長できると強調する。「国際的なオンライン市場では、スイスの定価販売制度は絶対に通用しない。競争に負けないよう、国内市場を強化しなくてはならない」

 一方、推進派のドゥ・ビュマン氏は「スイスで売られる書籍が他国に比べ高いのは、自由市場の原理がうまく働いていない証拠だ」と反論。「定価販売制度があれば、外国の大手オンライン書店から国内の小規模書店を守れる。好きな本を自由に購入できるためにも、定価販売制度は必要だ」と主張する。

 国民は一体どういう結論を出すのか、3月11日の投票が注目される。

国民議会(下院)では賛成96対反対86、全州議会(上院)では賛成23対反対19で可決。

再販制度法案に支持を表明するのは、社会民主党(SP/PS)、緑の党(Grüne/Les Verts)、キリスト教民主党(CVP/PDC)の大多数、スイス福音党(EVP/PEV)、市民民主党(BDP/PBD)、国民党(SVP/UDC)の少数。

反対なのは、急進民主党(FDP/PLR)、自由緑の党(GLP/PVL)、国民党(SVP/UDC)の大多数、キリスト教民主党(CVP/PDC)の少数。

定価販売制度は、出版と販売が分離された18世紀のヨーロッパにさかのぼる。イギリスで1929年に初めて導入された。その後、法律や契約などさまざまな形で多くの国に導入された。

1960年代、大規模スーパーや大型専門店の登場で新しい販売網が確立され、市場競争に関する法律が強化されたため、定価販売制度を疑問視する声が強まった。1980年代には欧州公正取引委員会の影響が強くなり、定価販売制度はさらに危い立場に立たされた。

こうしたことから、多くの国では書籍を法律上特別扱いにし、販売価格を規定する法律を制定。小規模な出版社や個人経営の書店を守り、文化の多様性を保つことを目的にしている。

(独語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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