北大西洋条約機構(NATO)は今年、創設70周年を迎えた。スイスは中立国のため非加盟だが、20年以上、NATOと協力関係にある。
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NATOは一定の政治的側面を伴うものの、もともとは冷戦のさなかに生まれた軍事同盟だ。目的は、ワルシャワ条約加盟国の侵略から小国と西側の民主主義を守ることだった。
スイスもソビエトの侵攻を恐れたが、NATOの一員になることは望まなかった。軍事同盟への加盟は、同国の伝統でもある中立政策と相反するからだ。
軍事専門誌スイスミリタリーレビュー外部リンクの編集長でジュネーブ大学の研究者アレクサンドル・ヴァウトラヴァー外部リンク氏は、集団的自衛権を定めた北大西洋条約第5条が中立政策に抵触すると指摘する。
一方、加盟こそしなかったものの「協力」という道は残っていた。スイスは1996年、NATOの「平和のためのパートナーシップ外部リンク」に参加。どの分野でNATOと共同行動をとるか個別に取り決めることができるという「柔軟な協力手段」だ。
スイス連邦外務省は、平和のためのパートナーシップは「制度化された枠組みを提供し、戦略的環境にある国々と安全保障政策に関する対話を行う」ものとして、スイスにとって重要だと位置づける。また「NATO、EU(欧州連合)、国連の指揮下で行われる平和支援活動にスイス軍が参加する際において、この枠組みが寄与している」とする。
ただ、皆が同じ考え方を共有しているわけではない。左派・右派の一部は、平和のためのパートナーシップも中立政策に反し、NATOの間接的な加盟国のようなものだと批判する。こうした声を挙げるのは、市民グループ「軍隊なきスイスを目指す会外部リンク」(GSoA)と保守団体「独立した中立国スイスのための運動外部リンク」(ASIN)、そして右派国民党のメンバーらだ。
重要なパートナー
平和のためのパートナーシップに参加したからと言って、それが必ずNATO加盟につながるのだろうか。
「平和のためのパートナーシップの歴史には、いくつかの段階がある。もともとは中立国や元ワルシャワ協定加盟国に門戸を広げるため導入した措置だった。これらの国は結果的にNATOに加盟している。ハンガリーやブルガリアが良い例だ」とヴァウトラヴァー氏は指摘する。
現在でも、平和のためのパートナーシップは西欧の中立国(スイス、オーストリア、アイルランドなど)と東・中央アジア諸国(アルバニア、ロシア、ウクライナ、ウズベキスタンなど)との協力を図るシンプルなプラットフォームだ。ヴァウトラヴァー氏は、これは中立と矛盾しないとみる。
同氏は「平和のためのパートナーシップがNATO加盟につながる梯子だとしても、中立国は初めの一歩で立ち止まり、それ以上は上らないこともできる」と話す。
同氏によれば、NATOはスイスにとって無視できないといってもいいほど重要なパートナーだ。「NATOは全世界の軍事支出の70%以上を占める。例えば弾薬の口径や合同軍事司令部の基準を設定したいとする。そういう場合はNATOの基準に見合ったものにしなければならない。それが好ましいか否かは別として」
NATOは米ワシントンで1949年4月4日、欧州10カ国(英国、フランス、ポルトガル、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、アイスランド、ノルウェー、イタリア)が米国、カナダと同盟を締結し、創設した。目的はソビエト連邦と同盟国の「封じ込め」、再びドイツに自治を認めて西側ブロックに取り込むこと、さらに欧州における米国の存在感と同国の「核の傘」を維持することだった。
NATOは1950年代にギリシャ、トルコ、ドイツ、そして1980年代にスペインが加盟した。拡大のピークは1991年のソ連崩壊時で、ほとんどの東欧諸国がNATOに加盟した。現在の加盟国は29カ国。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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