シンクタンクのアヴニール・スイスは、スイスの農業政策には年200億フラン(約2兆3千億円)と莫大な予算が注ぎ込まれ、改革が必要と訴える。その訴えは農業団体に大きな反発を食らった。
このコンテンツが公開されたのは、
「この報告書は問題が多い。不条理な見解ととんでもない提案ばかりだ」。スイス農家組合がこう噛み付いたのは、アヴニール・スイスが7日発表した報告書「将来のための農業政策」だ。
アヴニール・スイスによると、スイスは最も農業部門にお金をかけている国の一つだ。農業・食品産業に流れる連邦補助金は年36億フランだが、ただの「氷山の一角」に過ぎない、と報告書は指摘する。農業分野に与えられた直接・間接の費用や特権を合算すると、年200億フランにも上るという。
≫スイスにはどんな農業保護策がある?
納税者と消費者が最も多い47%を負担している。食品価格は平均して欧州連合(EU)よりも78%割高だ。10項目の改革案アヴニール・スイスは、スイスの農業をより競争力のあるものにし、年1440億フランを節約するために2030年までに導入すべき10項目の改革策を提起した。農産物への輸入関税の引き下げや、補助金の廃止などを盛り込んだ。
これに対し農家組合は、アヴニール・スイスは「食べ物が天から舞い降りてくる」ものだと考えていると反論した。200億フランという額を「根拠もなく軽業的に計算しただけ」と断じ、「完全に非現実的な前提」にあふれていると批判した。
スイスはアルプス山脈のため地形的な制限が多く、小規模農家が典型的だ。農地面積は18ヘクタール、飼育する牛は20頭前後が平均。農家組合は、アヴニール・スイスの目指す大規模農業への集約では大きなコスト削減は実現できず、むしろ「輸入農産物が安すぎる」と指摘した。
スイスは今月23日、持続可能な食糧生産と地元の農産物を促す二つの国民発議(イニシアチブ)をめぐり投票する。先月発表された世論調査によると、今のところ両案とも幅広い支持を得ている。
おすすめの記事
おすすめの記事
地産・持続可能な地域農業の促進に国の援助を 「食料主権を求めるイニシアチブ」とは?
このコンテンツが公開されたのは、
持続可能な方法で生産された地産食材を地域住民に優先的に提供する-。スイスで農業政策の抜本的な改革を求めるイニシアチブ(国民発議)が来月、国民投票で是非を問われる。イニシアチブの発起人らは「農業は第一に、環境を考慮した持続可能な食料を地域の住民に供給するべきだ」と支持を訴えるが、反対派は国が過度に農業分野に介入することになり、農作物の価格が高騰すると懸念する。
もっと読む 地産・持続可能な地域農業の促進に国の援助を 「食料主権を求めるイニシアチブ」とは?
おすすめの記事
世界で最も急勾配のロープウェイがスイスで開業
このコンテンツが公開されたのは、
スイス中部ベルナーオーバーラント地方のシュテッヘルベルクとミューレンの間に、世界一急勾配のケーブルカーが開業した。
もっと読む 世界で最も急勾配のロープウェイがスイスで開業
おすすめの記事
2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦議会は11日、カリン・ケラー・ズッター副大統領兼財務相(急進民主党、60歳)を新大統領に選出した。新副大統領にはギー・パルムラン経済・教育・研究相(国民党、65歳)が選ばれた。
もっと読む 2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
おすすめの記事
医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
このコンテンツが公開されたのは、
大手金融機関UBSが12日発表した調査「心配事バロメーター」によると、依然として医療費と健康保険料の高騰が最大の懸念事項だったことが分かった。環境と年金も懸念事項にあがっている。
もっと読む 医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
おすすめの記事
スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)が、留学生の授業料をスイス人学生の3倍に引き上げ、2025年秋学期から1学期当たり2190フランにすることを決めた。
もっと読む スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
おすすめの記事
世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの電力会社アクスポは5日、世界で最も古いベツナウ原子力発電所の稼働を2033年に終了すると発表した。33年までの運転継続にかかる追加事業費は3億5000万フラン(約600億円)を予定している。
もっと読む 世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
おすすめの記事
スイスのドライバー、2割が飲酒運転
このコンテンツが公開されたのは、
欧州など39カ国のドライバーを対象にした調査で、スイスでは2割超が飲酒運転をしたことがあると回答した。
もっと読む スイスのドライバー、2割が飲酒運転
おすすめの記事
狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
このコンテンツが公開されたのは、
先月29日午後、スイス西部ヴォー州で64歳の男性が狩猟中に死亡した。イノシシを撃とうとした 猟友会のメンバーに射たれた。
もっと読む 狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
おすすめの記事
自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束
このコンテンツが公開されたのは、
今年9月にスイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」について、連邦内閣は、当分の間、立法措置は必要ないとの見解を示した。サルコ運営団体は2日、身柄を拘束されていたフロリアン・ヴィレ代表が釈放されたと発表した。
もっと読む 自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束
おすすめの記事
スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。
もっと読む スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
おすすめの記事
スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査
このコンテンツが公開されたのは、
スイス・ポイ捨て防止コンピテンスセンター(IGSU)の年次アンケート調査によると、「スイスでは多くのゴミが適切に処理されていない」と考える人は16%にとどまった。
もっと読む スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査
続きを読む
おすすめの記事
安すぎる牛乳価格 瀕死のスイス酪農家
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの酪農家は他の欧州諸国と同様、安すぎる乳価によって収入が減り、生産を続けるかどうかの瀬戸際に来ている。
もっと読む 安すぎる牛乳価格 瀕死のスイス酪農家
おすすめの記事
農家の自殺者数、平均より4割多く 将来不安で
このコンテンツが公開されたのは、
スイス人農家の自殺者数はその他の男性平均に比べ4割近く高い。背景には将来や金銭不安がある。ドイツ語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングによると、1991~2014年の間に447人の農家が自殺したことが分かった。スイス連邦科学基金(SNSF)の助成を受けベルン大が農家9千人のデータをまとめた。
もっと読む 農家の自殺者数、平均より4割多く 将来不安で
おすすめの記事
スイスメディア、日欧EPA署名受けスイス農業に警鐘 対米陣営への期待も
このコンテンツが公開されたのは、
日本と欧州連合(EU)が17日に経済連携協定(EPA)に署名し、スイスメディアは「スイスの輸出産業が苦しい立場に押しやられる」と報じた。特にスイス農産品が日本市場で商機を逸すると警鐘を鳴らす一方、米国発の貿易戦争への対抗力になるとの期待もにじませた。
もっと読む スイスメディア、日欧EPA署名受けスイス農業に警鐘 対米陣営への期待も
おすすめの記事
スイス全域で農薬使用を禁ずるイニシアチブが国民投票へ 発起人に聞く
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国内全域で農薬の使用を禁止するよう求めるイニシアチブ(国民発議)を立ち上げた市民グループが今月、国民投票実施の条件を満たす署名14万筆を集め、連邦内閣事務局に提出した。今後数年以内に国民投票が行われる見通し。革新的な内容だが、発起人たちは過半数を取れると自信を込める。
もっと読む スイス全域で農薬使用を禁ずるイニシアチブが国民投票へ 発起人に聞く
おすすめの記事
スイスの農家を支える連帯の心
このコンテンツが公開されたのは、
スイス山村支援基金は第二次世界大戦まっただ中の1943年に創設された。創立75周年を迎えた今も健在だ。都市に住む沢山の人々が基金に惜しみない寄付をしている。スイス人が今日、山村の農夫に一層の連帯感を持つ背景を探った。 …
もっと読む スイスの農家を支える連帯の心
おすすめの記事
世界一高いステーキは信頼のスイス産
このコンテンツが公開されたのは、
なぜスイスの肉は世界一高いのか―畜産農家、消費者団体、食肉業界の専門家にそれぞれの意見を聞いた。
もっと読む 世界一高いステーキは信頼のスイス産
おすすめの記事
「有機農業で世界を養えるのか?」
このコンテンツが公開されたのは、
農業の生産条件に恵まれないスイスで、有機農業への取り組みが広がっている。背景には、化学肥料や農薬に依存する既存の農業が、生態系の破壊や残留農薬をもたらしているとの懸念がある。
スイス南西部ヴォー州のローザンヌ。
そこから数キロ離れた小さな町メックスにある約32ヘクタールの土地には、小麦やトウモロコシなどの農作物が植えられ、50頭の家畜も飼われている。全てクロード・ペグイロンさんが育てた有機農産物だ。
もっと読む 「有機農業で世界を養えるのか?」
おすすめの記事
「弁護士よりも農家の収入が低くていいのか?」
このコンテンツが公開されたのは、
世界的に人口は増え続けているが、今後、地球上の全ての人に供給できるほどの食糧を生産できるのだろうか?スイス人昆虫学・農学者のハンス・ルドルフ・ヘレン氏は、可能だと考える。だが、それには世界全体で農業制度を一変させ、小規模農家の評価を高めることが重要だと語る。
もっと読む 「弁護士よりも農家の収入が低くていいのか?」
おすすめの記事
女性農業者 法律と伝統のはざまで
このコンテンツが公開されたのは、
連邦経済省農業局(BLW/OFAG)は農業分野で働く女性の現状をアンケート形式で調査。それによると、農業分野で働く女性回答者の3分の2が自分の生活と仕事におおむね満足していると答えた。これは10年前に行われた同様の調査…
もっと読む 女性農業者 法律と伝統のはざまで
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。