鉄道インフラの新しい財源に関する法案を問う
スイス政府と連邦議会は、スイスの鉄道のインフラ整備・普及に十分な財源を確保する目的の法案を立てた。これは、「公共交通機関を推進する」イニシアチブに対し政府と連邦議会が提出した対案だ。この対案の是非が2月9日、国民に問われる。反対派は、この対案では不十分だと批判する。
交通渋滞を緩和させ、電車内の座席数を増加。長距離電車を30分ごとに運行させ、すべての地域へ路線を拡張、貨物輸送も増強させる。政府と議会が提案する「鉄道のインフラ拡充と費用に関する法案(FABI/FAIF、以下FABI法案)」は、こうした計画に加えさらに多くのことを約束する。各州にも総額64億フラン(約7500億円)の財源の一部が付与される予定だ。
「交通政策というより、要求を一覧にしたようなものだ」と言うのは、運輸業を営む右派国民党のウルリッヒ・ギーゼンダンナー下院議員。「誰もが、自分が代表している地区に貢献したい。連邦議会でこの法案が承認されたのは、他の議院の要求を受け入れれば、自分の要求も受け入れられ、自分の出身地域が恩恵を受ける。だたそれだけだ」と、この法案を批判する。
これに対し、スイス交通クラブ(VCS)の会長を務める社会民主党のエヴィ・アレマン下院議員は、「スイスの鉄道網は、すべての地域への接続を考えて造られたものだ。この法案の切り札は、『バランスが良い』という言葉に尽きる。すべての地域と多数の国民が利益を得ることになるからだ」と、この法案を支持する。
歴史的な国民投票
結局、2月9日に行われる国民投票では、鉄道インフラ整備を包括的に含むこの法案に対し国民は判断を下すことになる。
そして、連邦政府はこの投票を「歴史的」と呼んでいる。なぜなら、FABI法案はスイス交通クラブやほかのエコロジー派の組織が立ち上げた「公共交通機関を推進するイニシアチブ」に対し、連邦政府と議会が打ち出した法案であり、イニシアチブ推進派はこの対案に賛同した結果、2013年夏に自らのイニシアチブを撤回したからだ。
FABI法案とは
FABI法案とは、一言で言うと、新しい基金の設立と戦略的な鉄道拡張プログラムからなる。
新しい基金の設立に関しては、連邦政府は「鉄道インフラ基金(BIF/FTP)」の創設を提案した。これで運営、維持、拡充に掛かる事業費をまかなえる上、この基金には期限がない。
これまでの大型プロジェクト「鉄道2000」や「アルプス縦断鉄道計画」などの財源となっていた「公共交通機関のインフラ整備とその費用に関する連邦決議基金」には期限があり、間もなく終了してしまう。
今回の鉄道インフラ基金の財源は連邦決議基金と同じく、連邦予算、大型車両通行税、ガソリン税(2030年まで施行)、付加価値税(消費税)から出る。約40億フランの見積もりだ。
それに加えて、約10億フランの新しい収入源が提案されている。連邦税において通勤費に対する課税控除の上限の引き下げで税収増加。2018年より2030年までの期間において付加価値税の0.1%の引き上げ。最後に鉄道利用者による、インフラ費用負担(運賃値上げ)などだ。
政府は鉄道インフラ政策が決定した後、同じく無期限の「国道と都市交通のための基金(NAF/FORTA)」を設立し、道路インフラ整備にも確固とした財源を確保することを計画している。
道路拡充プロジェクトの費用を出資する現在のインフラ基金を拡大させる必要がある。
この法案は2014年より連邦議会で討議されることになる。この基金が実現されるのは早くても2017年以降だ。
それに平行して、党派の枠を超える委員会(ギーゼンダンナー下院議員もその1人)により「乳牛イニシアチブ」と呼ばれる法案が打ち上げられた。これは、道路利用者が払う税金は、すべて道路インフラに投資されることを要求し、今日のように道路交通と関係のない目的に利用されているのは正しくないと主張する。
イニシアチブ推進派によると、2014年の初めに有効署名が連邦官房に提出される予定だ。
あまりに大きすぎる一歩?
FABI法案の第2の柱「戦略的な鉄道拡張プログラム」では、鉄道インフラ拡充を段階的に計画する。第1段階では、2025年までに64億フラン(約7500億円)をかけた鉄道拡張を行う。
「FABI法案は公共交通機関の費用をまかなう財源を今後も継続的に確保していく一方、たとえば車内やプラットホームで通勤者に十分な空間を作るなど具体的な拡充計画を立てている点ですぐれている」と、アレマン氏は言う。
しかしながら、このインフラ拡充計画は連邦議会ですでにFABI法案を成立させる際の論争の中心となっていた。政府が第1段階の拡充に対し35億フランを提案したのに対し、議会は64億フランに引き上げた。
「政治家の要求を満足させるために、消費者が犠牲になっている」と、ギーゼンダンナー氏は批判する。コントロールされたインフラ投資に基本的には反対ではないのだが、「スイスでは、どこから資金が流れてくるかあまりはっきりしない点が問題だ」
さらなる論争点
商品を年間1万3千台分の貨物車両を利用して輸送を行うギーゼンダンナー氏は、公共交通機関に反対してはいない。FABI法案は(こうした貨物輸送の利用者の)需要に応じていないのが気にかかると言う。「貨物は一部を鉄道で輸送するべきだと連邦憲法に書いてあるのに、FABI法案には貨物輸送について何も記述されていない」
一方、アレマン氏は貨物専用のインフラがスイスにはもともと存在しないと言う。「よって、貨物列車は旅客列車と同じレールを走る。ならば、旅客列車網が整備されれば、貨物輸送もその恩恵を被ることになるはずだ」
ギーゼンダンナー氏が批判する他の点は、道路交通がスイスで軽視されていることだ。「スイスの交通の15%は鉄道、85%は道路だ。それにもかかわらず、我々は鉄道にのみ投資する。道路に投資する資金が不足するだろう」
だが、アレマン氏は、このFABI法案は道路交通にとっても利点があると主張する。「利用者が道路から鉄道へ移っていくことで、道路の混雑が減少する。道路を使わざるをえない人にとって有利なことだ。また鉄道インフラ拡張が強制的に行われることは、スイスが気候・エネルギー政策をさらに進めていく上で意義のあることだ」
もう一つの激論の中心点は、連邦税の通勤費に対する課税控除の上限が3千フランに引き下げられることるだ。「(長距離の)自動車通勤者に課税控除がわすかしか認められないとなれば、それはある種隠された増税だ」とギーゼンダンナー氏は不満を述べる。
だがアレマン氏は収入の低い国民には連邦税が課されていないことを強調する。「収入が多く高額の連邦税を払う人と、非常に遠距離へ通勤する人のみに関係してくることだ」
ともあれ、鉄道インフラ基金に関するこのFABI法案は、連邦憲法の改正にあたるため、2月9日の国民投票で可決されるには国民の過半数と州の過半数の賛成票が必要になってくる。
(独語からの翻訳 マウラー奈生子)
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