国際的な気候変動をまとめた「2019年気候変動パフォーマンス・インデックス」(CCPI)外部リンクによると、スイスは気候変動対策で世界をリードする国の一つだという。特に温室効果ガスの排出量とエネルギー消費の点で高評価を受けたが、スイス国内では何百人もの学生が「スイスの気候政策の失敗」に抗議している。
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CCPIはドイツの環境NGO、ジャーマン・ウオッチ(GermanWatch)外部リンクが国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で毎年発表している。昨年12月のCOP24で公表された最新の報告書には、世界の排出量の9割を占める合計56カ国の取り組みがまとめられている。分析にあたり、温室効果ガス削減、再生可能エネルギー、エネルギー消費と気候政策の四つの要素が考慮された。
国際比較で最も優秀な国はスウェーデンで、モロッコ、リトアニア、ラトビア、英国が続く。スイス外部リンクは9位と前年度(12位)に比べランクが上がっている。
だがスウェーデンも「第1位」ではなく「第4位」。上位3位が選ばれなかった理由は、気候変動に効果的に取り組み、産業革命前からの気温上昇幅を1.5度に制限する十分な成果を挙げている国がなかったためだ。
CCPIでは、スイスが上位にランクインした主な理由として、2030年までに国内外で排出量を半減させるという政府の目標や公共交通機関の拡充政策が挙げられている。
しかし、再生可能エネルギーの分野におけるスイスの成績はあまり芳しくない。スイスでは再生可能エネルギーを推進外部リンクするためのシステムが停滞しているとCCPIは指摘する。また、国際交渉においてスイスはより「先を見越した」役割を果たし、気候保護と適応策に伴う資金面で積極的に関与するよう強く求めている。
学生の不満が爆発
しかしCCPIが出したスイスの高評価に惑わされてはいけない。国際環境NGOのクライメート・アクション・トラッカー(CAT)が進める独自のモニタリングでは、スイスの努力は「不十分外部リンク」と手厳しい。世界中の政府がスイスのように行動した場合、気温は3度上昇する恐れがあるとCATは警告している。
そして政治家よりも一般市民の方がこの状況に危機感を募らせているようだ。昨年クリスマス前、スイスの数都市では何百人もの学生が結集し、「スイスの気候政策の失敗」に抗議するデモ行進を行った。
「スイスの若者の多くは、今日の国内外の気候政策に納得していない。もういい加減にしてくれと言いたい。気候の問題は、私たちの存在そのものを脅かす危機なのだ」とチューリヒで学生デモを主催した一人、マリー・クレール・グラーフさんは訴えた。
特に懸念されるのは、二酸化炭素(CO2)排出関連法外部リンクに関する議会での議論だ。これはスイスが温室効果ガス削減の目標を達成するための最も重要な政治的手段だが、前会期中に国民議会(下院)が同法案を却下した。法案は今春、全州議会(上院)で審議される予定。
(独語からの翻訳・シュミット一恵)
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11月30日までに審議される三つの計画案は、パリ協定の批准、二酸化炭素(CO2)排出関連法の改正、そしてスイス・欧州連合(EU)間のCO2排出量取引の合意に関するものだ。
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