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お粗末なスイスの移民政策

スイスには移民統合に関する「国家的な定義」が必要 Keystone

移民統合という点では、スイスはヨーロッパの中の落ちこぼれだ。首位のスウェーデンからは大きく引き離されている。

ブリティッシュ・カウンシル (British Counsil)が31カ国を対象に行った移民政策の格付けが発表された。これを受け、スイスとスウェーデンは政策討論会を開き、数日間にわたり互いの移民政策について話し合う機会を設けた。

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 2010年の移民統合政策指標( Migration Integration Policy Index / Mipex )では、前回の2007年に引き続きスウェーデンが1位、スイスは順位を三つ下げ23位だった。近隣のフランス、イタリア、ドイツはそろってスイスよりも良い成績を残した。スイスの移民政策は欧州連合(EU)と欧州評議会の基準を十分に満たしていないと言える。

 2010年の指標が作成されるにあたり、2007年から2010年5月までのスイスの移民関連法の変遷がたどられた。外国人犯罪者の国外追放強化のイニシアチブ(2010年11月の国民投票で承認)もその一つに入る。この期間、スイスでは新法が施行されたものの、Mipexは「大きな変化はなかった」と評価。さらに、「やや好ましい」とされる政策は一つもなかった。実際、移民の長期居住、帰化、家族の呼び寄せには規制が多い。EU圏外出身者の場合は就労が困難、一般的な支援も限られる。

 さらに、31カ国の差別対策措置を見ると、スイスは下から2番目。スイスには差別にあった被害者に対する援護法も、そうした法の強化もないことがほかの国との違いだ。

 状況の改善にスイスの連邦制は不向きだ。州に強い権限がある「複雑で面倒な」政治体制は移民統合に「極めて好ましくない」と評価され、31カ国の中でスイスは唯一の0点だった。理由は移民政策に関する「国家的な定義」の欠如だ。 

連邦制は移民統合の足かせ

 Mipex にデータを提供したヌーシャテル大学スイス移民研究フォーラム(Swiss Forum for Migration Studies at Neuchâtel University)のドゥミーズ・エフィナイ・メデー氏は、今回の評価全般を妥当とし、Mipexは基準となる適切な指標だと言う。

「もちろん、問題点はある。連邦国家であり州間の格差が非常に大きいスイスでは、容易なことばかりではない。連邦制という点ではドイツ、オーストリア、アメリカも同様だと考える人がいるかもしれないが、スイスでは地域間の違いもあると思う。さらに国内に複数の言語地域があることは見過ごすことのできない点だ」

 「連邦レベルでは順調だ。移民研究フォーラムは移民政策に基準を導入しようと試みているが、州と連邦政府の方向性に対立があることも事実だ。州の中にはかなりうまくやっているところもある」

 先日、移民政策の国内統一を求める動議が全州議会(上院)で可決された。しかし、中には消極的な州や自治体もあり、地方政治家は連邦政府の舵取りに不満をもらしている。

見て見ぬふり

 スイスの課題はまさに差別だ。ごく最近までスイス人は雇用市場での差別の存在

を認めようとせず、それを話題にすることを恐れていたと、エフィナイ・メデー氏は話す。今日、差別は以前よりも認識されているが、さらに踏み込んでそれとどう闘うかという議論はまだ未熟だという。

 「実にこれはスイスの問題点だ」と言うのはNGOのヒューマンライツ・ドット・シーエイチ(humanrights.ch)のクリスティーナ・ハウスマン氏だ。

「スイスには人種差別や民族差別に対する特定の法律がない。職や居住に関する差別を個人が訴えられる有効な手段がない。ごく一般的な法律しかなく、実際には機能していない。被害者が差別を証明しなければならず、訴訟費用の全額負担というリスクもあるからだ」

  EUはすでに加盟国に対し、差別に関する法律の進展を強く要請したとハウスマン氏は指摘し、少なくともMipexは差別が問題だということを裏付けたと語る。

批判

 Mipexの批判者は、この指標は各国の法的取り組みを示しているだけで、移民政策の実施状況を正確に反映していないと反論する。

「良い評価を受けた国々には示唆的な移民統合法があり、そこには印象を良くしようとする意図がある」

 と、バーゼル市の移民統合専門家トーマス・ケスラー氏はチューリヒの日刊紙「ターゲスアンツァイガー(Tages Anzeiger)」 に語った。

 「移民統合で最も重要な要素」は経済活動だとケスラー氏は指摘する。スイスで移民統合が成功していることを示すのは、滞在許可「B」を所持する外国人がスイス国民より高い税金を払っているという事実だという。ケスラー氏によれば、多くの国々は移民統合に関する優れた憲法原則と法律を掲げながら、現実は違うという。例えば、イタリアでは反差別法は「誰も本気にしていない」という。

 さらに、Mipexでデンマークがスイスより上位にいることにケスラー氏は失笑する。デンマークには「家族の呼び寄せに関する非常に厳しい差別的な法律」があるからだ

リーダーに続け

 では、ほかの国にはなくて首位のモデル国、スウェーデンにあるものは何か。平等な権利のための非営利団体、マイグレーション・ポリシー・グループ(Migration Policy Group)のトーマス・ハドルストーン氏はMipexの著者の一人だ。ハドルストーン氏は討論会で第三者的立場からこう指摘する。

「スウェーデンには平等な権利や平等な機会に取り組もうとする政治的合意と政治的意志があると思う。それが法律に反映されている」

 ハドルストーン氏は「ほとんどのヨーロッパの国々では、合法的な移民労働者とその家族はすぐに職を得ることができ、潜在的経済力を十分に発揮することができる。5年後には長期居住が許される。援護法により移民は差別から守られつつある」と話す。「こうしたことをスイスは近隣の国々からもっと学べるだろう」

移民統合政策指標(Migration Integration Policy Index / Mipex)はブリティッシュ・カウンシル(British Council)とマイグレーション・ポリシー・グループ(Migration Policy Group)により作成され、欧州第三諸国出身者統合基金(European Fund for the Integration of Third-Country Nationals)が共同出資。調査対象国は欧州連合(EU)全加盟国とノルウェー、スイス、カナダ、アメリカ。

2010年の1位はスウェーデン。2位、ポルトガル。3位、カナダ。フィンランド、オランダ、ベルギー、ノルウェー、スペイン、アメリカ、イタリアと続く。

2010年のMipexによると、スイスは100点満点中43点で31カ国中23位。前回の2007年から大きな変化は見られない。

スイスには「やや好ましい」とされる政策が欠如。

長期居住権取得のための審査は2番目に厳しい。

帰化を困難にする複雑な政治条件は「極めて好ましくない」と評価され、スイスは唯一の0点。

家族の呼び寄せには「最も好ましくない」手続きが必要で、ここでも順位は下位。

教育に関しては他国と変わらない状況。言語学習や出身国の文化を学ぶ機会には恵まれている。

欧州連合(EU)圏外出身者の場合は就労が困難、一般的な支援も限られる。スイスは平均以下。

大きな州では外国人が自治体や州の選挙で投票でき、基本的な政治的自由を得られる。

差別対策ではスイスは最低。援護法がなく、そうした法律の強化もなく、助言団体があるのみ。

(英語からの翻訳・編集 中村友紀)

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