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「アフガン情勢のカギを握るのはパキスタン」

大統領府の門前に立つタリバン戦闘員。アフガニスタンの首都カブールにて2021年8月16日撮影
大統領府の門前に立つタリバン戦闘員。アフガニスタンの首都カブールにて2021年8月16日撮影 Copyright 2021 The Associated Press. All Rights Reserved.

米国が発表した米軍のアフガニスタン撤退は、反政府勢力タリバンが首都カブールを掌握し、アシュラフ・ガニ大統領が国外に脱出するという無残な結果に終わった。アフガニスタンに詳しい民族学者のピエール・ソンリーヴル氏が情勢を分析した。

2001年9月11日の同時多発テロによる攻撃を受けた米国は、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者を匿うアフガニスタンと1996年以来同国の政権を握っていたイスラム主義勢力タリバンを標的にした大規模な軍事作戦を皮切りに「対テロ戦争」を始めた。北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けた北部同盟のアフガン人の攻撃によって、タリバンは政権の座を追われる。

米国の軍事作戦が公式には2003年に終了した一方で、米国と同盟諸国は民主的な国家の基礎を築くため、次にいわゆる「国家建設」作戦を開始した。タリバンのイスラム法が復活すれば、女性解放など同作戦によって得られたいくつかの前進が再び脅かされる恐れがある。

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▲パニックに陥った16日のカブール。フランス語圏のスイス公共放送(RTS)昼のニュース

ヌーシャテル大学民族学研究所の名誉教授、ピエール・ソンリーヴル外部リンク氏は研究の大部分をアフガニスタン研究に捧げてきた。リーブル氏は同じく民族学者の妻ミシュリーヌさんと共に、同国とそこに暮らす人々の原動力への理解を促す著書を数多く出版してきた。米国と同盟諸国にはこのような理解がほとんどなかった。

swissinfo.ch:米国とNATOによるアフガン介入の失敗は避けられなかったのでしょうか?

ピエール・ソンリーヴル:米国とNATOの目的は明確ではありませんでした。テロとの戦いだったのか、ビンラディン容疑者を捕らえることだったのか、あるいは憲法を制定して民主的な国家を建設することだったのか。アフガン介入はこれらの異なる性質のものをごちゃ混ぜにしました。9.11同時多発テロを受けて、米国はタリバン政府にビンラディン容疑者の引き渡しを要求しましたが、タリバン政府は拒否しました。このネガティブな対応が米国によるアフガン介入の発端になりました。

ピエール・ソンリーヴル氏と妻のミシュリーヌさん。共著「Revoir Kaboul(仮訳:カブール再訪)」の出版に際し2007年に撮影
ピエール・ソンリーヴル氏と妻のミシュリーヌさん。共著「Revoir Kaboul(仮訳:カブール再訪)」の出版に際し2007年に撮影 Editions ZOE

swissinfo.ch:軍事面でも民政面でも、20年にわたるアフガン介入は大失敗に終わったようです。その理由をどう考えますか?

ソンリーヴル:この失敗には複数の原因があると私は考えています。第一に、米国が掲げた目標が示すように、米国の軍事作戦は間違った前提と不十分な情勢分析に基づいていました。03年以来、根気強く復興してきたタリバンとの戦いにも失敗しました。ところが、州知事など地方政府の弱体さが非常に深刻だったためにこれらの失敗は助長されました。

前政権では、閣僚同士だけではなく、ガニ大統領と大統領選の対立候補だったアブドラ・アブドラ元行政長官も激しく反目し合っていました。蔓延する汚職を背景に不和が顕在化しました。大統領が任命する役人の中でも特に各州の知事や州警察のトップに任命された人々は、自分の地位を利用して利益を得ることを期待していました。

swissinfo.ch:タリバンが首都カブールを攻撃した際、アフガニスタン軍はほとんど抵抗しませんでした。このことをどう説明しますか?

ソンリーヴル:汚職はアフガニスタン軍も深くむしばんでいます。多くの兵士には給与が支払われていません。士官が兵士の給与を懐にすることがあるからです。戦闘部隊の兵力が水増しされたのも、実体のない部隊の装備に充てられる米国の資金を着服するためでした。さらに、多くの兵士が戦わなければならない相手に気兼ねしています。相手は信条やイスラム教徒としての信仰を共有する同胞であり、反政府勢力であることだけが欠点の人々です。ですから、アフガニスタン軍の兵士は「私と同じイスラム教徒の仲間となぜ戦わなければならないのか」と思うわけです。

swissinfo.ch:アフガン介入の失敗に関して非政府組織(NGO)にはどの程度の責任がありますか?

ソンリーヴル:非常に多くの欧米諸国やアラブ諸国のNGOがアフガニスタンに介入しました。多くのNGOが、道路、病院、学校、職業訓練センターなどを建設し、良い仕事をしました。しかし、その多くはプログラムを上手く調整できませんでした。NGOも現地に多額の資金を持ち込み、関与する地元の人に多くの利益をもたらしました。意図的ではなくてもNGOもまた汚職の原因の1つになっていました。

そうは言っても、NGOの貢献がマイナスばかりだったわけではありません。今日のアフガニスタンは90年代のアフガニスタンとは違います。確かに一連の成果がありました。

スイス連邦外務省の対応外部リンクについてはこちらをご覧ください。

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swissinfo.ch:タリバンが復権の勝利宣言をする今、戦闘の終結を期待できるでしょうか?それとも、旧ソ連軍が撤退した後のように内戦に逆戻りしてしまうのでしょうか?

ソンリーヴル:タリバンは国際的な評価を得ようとしています。また、隣国の不興を買いたくはありません。しかし、アフガニスタンに突然、平和と調和が訪れることは期待できないと思います。アフガニスタン中央部、ハザラジャート、パンジシールなど、タリバンにすぐには従わない地域も出てくるでしょう。

それから、タリバンだけが政権を要求しているわけではないことを忘れてはなりません。イスラム過激派には、アフガニスタンで立場を表明した別のグループがいて、タリバン政権に対して行動を起こす可能性もあります。また、タリバンの中にも分裂があります。さらに、すぐには従わない反逆者や軍閥の指導者もおそらくいるでしょう。

swissinfo.ch:この20年間で発展してきた市民社会の主要人物がここ数カ月で既に暗殺されました。市民社会についても最悪の事態を懸念すべきでしょうか?

ソンリーヴル:タリバンが96年以降に取った措置は恐ろしいものでした。音楽や映像の禁止、インターネットの制限、女性に対する男性の付き添いなしでの外出禁止や外出時における全身を覆うブルカの着用の強制、女子校の閉鎖などです。このような措置が復活する恐れはあります。タリバンはさらに政令でヒンズー教徒に黄色い布の印を義務づけましたが、国際社会の非難に遭って、政令は撤回されました。

swissinfo.chアフガニスタン外部リンク70年代以降、近代的で持続的な国家を築けずにいます。これも、この国が40年以上にわたって、不安定、暴力、戦争を被っている原因の1つでしょうか?

ソンリーヴル:難しい質問です。アフガニスタンには近代的な国家の樹立を困難にする数多くの分裂要因があります。例えば、アフガニスタンの各地方はより大きな自治を望んでいるにもかかわらず最近の憲法は非常に中央集権的でした。また、タリバンに限らず、イスラム主義の生活様式を支持する人々と、国の強化やシャーリア(イスラム法)から独立した司法を支持する人々との間には相反する推進力があると考えています。ですから、地方や部族と国家の論理との間にはいくつかの断裂があります。

swissinfo.ch:アフガニスタンの近隣諸国は、和平の要素になりうるでしょうか?それとも反対に、同国で起きている対抗や対立を助長してしまうのでしょうか?

ソンリーヴル:パキスタンは水面下でタリバンを強力に支援し、タリバンの発展を後押ししてきました。インドがアフガニスタンにいくつかの領事館を開設し、一連のプログラムを立ち上げましたが、パキスタンは側面から攻撃されないよう、インドからアフガニスタンを遠ざけようとしています。

タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンなどの旧ソ連諸国は、イスラム主義グループの影響によって、アフガニスタンから自国に混乱が波及することを懸念しています。

イランは現地でタリバンを支援しましたが、それは米国を妨害するためです。基本的に、イランが敵対するスンニ派に属するタリバンを支持することはありません。イランは領土内にアフガニスタンからの移住者が増えすぎるのを防ごうとするかもしれません。

中国は銅をはじめとするアフガニスタンの鉱物資源に関心があります。ですから、倫理的な政策もイデオロギー政策も採らずにタリバンと良好な関係を築こうとするでしょう。

しかし、事態のカギを握るのはパキスタンです。カブールとカラチなどのパキスタンの港湾都市を結ぶ道路を支配しているのはパキスタンだからです。貿易の大部分はパキスタンとイランを経由しています。

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▲2001年11月のタリバン政権崩壊から間もない東部ジャララバードの様子(RTS)

(仏語からの翻訳・江藤真理)

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