ウクライナ「民主主義の発展なくして復興なし」 欧州評議会事務局長
欧州評議会のマリヤ・ペイチノヴィッチ・ブリッチ事務局長はスイス南部ルガーノで4~5日に開催されたウクライナ復興会議で、評議会が設けた民主主義の基準の監視・支援には改善の余地があるとし、加盟各国に基準順守を呼びかけた。
欧州評議会の本部はストラスブール。加盟国は46カ国。欧州の民主主義を推進し、人権と法の支配を守る目的で設立された。ロシアは1996年に加盟したが、ウクライナ侵攻を受けて今年3月16日に除名された。
swissinfo.ch:2月24日以降、欧州評議会の2つの加盟国(1つは既に除名)が戦争下にある。民主主義と人権にとって最も重要な国際組織で、1つの加盟国が別の加盟国を攻撃するという事態がなぜ起きたのか?
マリヤ・ペイチノヴィッチ・ブリッチ:欧州評議会は規約で、平和と団結のためのルールに従うことを全加盟国に義務付けている。これを守るために200件以上の法令を作った。ロシア連邦が他の加盟国であるウクライナにいわれのない侵略を開始したとき、直ちにロシア連邦を除名しなければならなかったのはこのためだ。残念ながら、欧州評議会の価値を守るための唯一の選択肢だった。設立以来、加盟国の除名処分は初めてのことだ。
swissinfo.ch:ロシアは25年以上、欧州評議会に加盟していた。戦争を回避できなかったことは、組織としての失敗だったのではないか。
ペイチノヴィッチ・ブリッチ:私はそれを欧州評議会の失敗とは位置付けない。失敗は、元加盟国が欧州評議会に加盟するときに誓った価値観や基準から逸脱したことだ。だが確かに、この禍々しい戦争は多くの疑問を投げかけている。どうすればこうした紛争を防げたのか?ここから何を学ぶべきなのか?私の考えでは、民主主義が後退している国に対してより早く・強く警鐘を鳴らすメカニズムが必要だ。将来的には、加盟国で欧州人権条約やその他の基準が無視されている事実が発覚したら、直ちに行動を起こす必要がある。
swissinfo.ch:それは具体的にはどうすれば可能なのか。
ペイチノヴィッチ・ブリッチ:欧州評議会には3つの役割がある。1つ目は、民主主義と全ての人の人権に関する基準の作成だ。2つ目に、これらの基準がどのように守られているかを監視する。3つ目は、加盟国が基準を守るのを支援することだ。ロシアによるウクライナの戦争で、監視と支援のあり方に改善の余地があることが分かった。例えばベラルーシやロシアのように、評議会非加盟の国の市民社会組織を支援することだ。
swissinfo.ch:ルガーノでは50を超える国・国際機関がウクライナの復興支援策を議論している。この会議の成功に必要なことは何か。
ペイチノヴィッチ・ブリッチ: 効果的な復興は、ウクライナで完全な民主主義が実現した場合にのみ実現する。それは欧州全体の民主主義と人権の回復と密接に結びついている。ウクライナと欧州の持続可能な平和は、民主主義が強化されなければ訪れない。そこで、法の支配と人権の保護、人々の民主的参加に関する基準を持つ欧州評議会が活躍することになる。
swissinfo.ch:今回の復興会議を主催したスイスは、欧州の民主主義をより強固なものにするために、どのような貢献ができるのか。
ペイチノヴィッチ・ブリッチ:スイスは、率先して欧州評議会をより強固しようと取り組む加盟国の1つだ。評議会の複数のプロジェクトでスイスの専門家や代表者が活躍している。だが今回のような、加盟国が他国を攻撃し、共通の基準から逸脱するような事態を今後どうやって防いでいくかは、スイス自身が考えなければならない。その答えにつながる重要なヒントは、自国で民主主義の基準を完全に守ることにある。
swissinfo.ch:スイスはどこまで課された宿題を済ませているのか。
ペイチノヴィッチ・ブリッチ:評議会のモニタリングによれば、スイスは評議会の基準を最も遵守している加盟国の1つ。一方で、汚職防止に関する基準、特に政党資金の透明化については問題がある。司法制度に関しても、裁判官の政党からの独立性を高めるなど、改善の余地がある。
swissinfo.ch:将来的に、ロシアが欧州の民主主義国家の仲間入りをする可能性はあるのか。
ペイチノヴィッチ・ブリッチ:欧州評議会の規約は明確だ。すべての欧州国家は評議会に加盟することができる。これにはロシアも含まれ、またいつでも復帰することができる。評議会は第二次世界大戦後、大陸に平和と安定をもたらすために設立された。だがロシアが復帰するには改革を行い、完全に民主化されなければならない。多くのロシア国民が、そうなることを望んでいると信じている。それこそが、評議会がロシアの市民団体との協力を強化し始めた理由だ。ベラルーシは死刑制度の撤廃と言う評議会の主要基準をクリアしていないがためにメンバーではないが、同国の市民団体とは、既に協力を進めている。
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