オリガルヒに愛されるスイス
ロシア政府と太いパイプを持ち、ウクライナ侵攻を資金面で支えるオリガルヒ(新興財閥)。スイスに本人や資産、愛人、留学先があるとの噂が絶えない。
複数のパスポートやビザ(査証)、住まいを持つオリガルヒの居場所を突き止めるのは至難の業だ。弁護士やファイナンシャルアドバイザーでさえ、ペーパーカンパニーや信託資金に覆い隠された数千億円の資産の行方を追うのに苦労している。
ファクトとフェイクを識別するのも容易ではない。だが制裁対象となったオリガルヒの一部がスイスに足跡を残しているのは紛れもない事実だ。しかもそれは銀行システムに限った話ではない。
5人の在住確認
ヴィクトル・ヴェクセルベルク氏は、スイスで最も注目されているロシアの富豪だ。2007年に持ち株会社レノヴァを介して次々と企業を買収し、以来スイスに居を構えている。
2014年のクリミア併合を受け、18年に制裁対象となった。同氏は買収した企業が貿易制限を受けないよう、スイス企業との個人的な利害関係は削減を余儀なくされた。今年3月、米国はヴェクセルベルク氏がウラジーミル・プーチン大統領と緊密な関係にあると非難し、ヨットやプライベートジェットを差し押さえた。
スイスのメディア最大手タメディアグループは、他に制裁対象のオリガルヒ4人がスイスに住んでいると報じた。アンドレイ・メルニチェンコ氏、ドミトリ・パンプヤンスキー氏とその妻子だ。一方、プーチン氏の愛人とされるアリーナ・カバエワ氏とその隠し子がスイスにいるかは定かでない。
スイスにはいないことが確実視されている1人は鉱山事業で財を成したアリシェル・ウスマノフ氏だ。ヴォー州に身を潜めているとの報道が後を絶たず、州当局は「スイスでの滞在許可を持っていない」と火消しを迫られた。
スイスに住み逃した男
タメディアによると、英プレミアリーグのチェルシーのオーナー、ロマン・アブラモビッチ氏もスイスと長い間ビジネス関係を築いてきた。だがスイス連邦警察は16年、ヴァレー(ヴァリス)州に定住しようとしていた同氏に「スイスのレピュテーションリスクと公共の安全を脅かす恐れがある」として居住ビザの取得を阻止した。
連邦移民局はタメディアの取材に、約85人のロシア人がスイスの「ゴールデンビザ」を所有していると明かした。当局が「公益に資する」と判断した富裕層を対象に迅速に発給される滞在許可証だ。
アブラモビッチ氏は、連邦警察の決定に対して異議を申し立てたが裁判所に却下され、ゴールデンビザを取得できなかった。
不動産
湖畔やアルプスの別荘ほど目立つものはない。スイス当局やメディアは、制裁対象のロシア人がスイスに持つ資産を突き止めるのに躍起になっている。
ロシア最大のプライベートバンク「アルファ」の主要株主、ピョートル・アーヴェン氏は、ベルナーオーバーラント地方にある豪邸の差し押さえを受けた。
商品事業を営むゲンナジー・ティムチェンコ氏もスイスに資産を築いたオリガルヒとしてメディアを騒がせている。制裁により、石油会社ガンバー(本社・ジュネーブ)の株式の売却を迫られた。
スイス当局は、不動産を含めた各種資産を凍結していると話す。だが機密保持原則を理由に、詳しい情報は明かさないことが多い。
飛び火
スイスのプライベートバンク、ジュリアス・ベア(本店・チューリヒ)でロシア・中東欧の責任者だったエブゲニ・スムシュコビッチ氏は、制裁を受けたオリガルヒと関係があると報じられ、辞任を余儀なくされた。
同行は辞任の理由を「銀行を守るため」とだけ説明し、詳細は明らかにしなかった。
ただ経済ゴシップサイト「インサイド・パラーデプラッツ」によると、スムシュコビッチ氏はベラルーシのアレクサンダー・ルカシェンコ大統領と近く制裁を受けたオリガルヒ、ミカライ・ヴァラベイ氏の娘と結婚している。
学校・病院
銀行やビジネス以外の目的でスイスを目指すロシア人富豪もいる。
スイスのボーディングスクール(寄宿学校)や病院には世界中の富豪が集まる。特にロシア人に人気が高いのはライシアム・アルピナム・ツォーツ外部リンク(グラウビュンデン州)やローゼンベルク外部リンク(ザンクト・ガレン州)だ。5つ星級の治療を受けるためスイス最大の私立病院ヒルスランデン外部リンクや、シュロス・ママーン・クリニック外部リンクを訪れるロシア人資産家も多い。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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