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スイスのレストラン業界 繁盛するテイクアウト販売店に反発

レストランでお客は、食事だけでなくサービスやインフラそしてインテリアまで支払うことになる AURA



レストランがテイクアウトの勢いに押されている。スイスでは、テイクアウト商品の付加価値税は食料品と同じく2.5%。ところが同じソーセージを食べてもレストランで食べると8%の税率に上がる。こうしたテイクアウト商品への優遇を廃止し、一律の税率を求めるイニシアチブ(国民発議)をレストラン業界が提案した。これが9月28日の国民投票で問われる。

 スイスのレストラン業界が経営難に追い込まれている。2010年以降、スイス経済は若干成長したが、飲食店の売上高は260億フラン(約3兆円)から231億フランに落ちている。都市近郊でこの傾向が特に強く、閉店を強いられる飲食店が後を絶たない。

 都市部もこれといって景気が良いわけではない。確かに飲食店の数は増えているが、逆に競争が激化し経営が厳しくなったレストランも多い。

 業績低迷の原因には、まず観光客の減少が挙げられる。過去8年間に宿泊者数は7%減少し、長引くスイス・フラン高も特に欧州諸国からの旅行者を遠ざけている。

 また、国境近辺に住むスイス人は国境を越えて隣国のレストランへ行けばフラン高のおかげで安く食事ができる。さらに車の運転者に許される血中アルコール濃度が0.5プロミルに下がり飲酒運転の規制が厳しくなったり、飲食店での禁煙が徹底されたりしたこともレストラン業界に追い討ちをかけている。

 人々の食習慣の変化もレストラン経営者の頭痛の種だ。レストランや社員食堂でゆっくり昼食を取る人が過去20年来、減少傾向にある。代わりにサンドイッチなどを買って外やオフィスで手軽に食事を済ませるのが最近の傾向だ。テイクアウト商品の販売店はますます増えるが、その影で従来のレストラン業界が犠牲になっている。

平等な条件を

 この流れを受け、外食ホテル協会「ガストロスイス(GastroSuisse)」は数年前に反撃を開始。「レストラン経営者に不利な税率差別廃止を求めるイニシアチブ」を立ち上げ、レストランでの飲食とテイクアウト商品にかかる税率を統一することを要求した。現状ではレストランの場合、消費する飲食物に8%の付加価値税がかかるが、テイクアウト商品ではわずか2.5%だ。

 「この税率の違いは付加価値税が導入された1995年の決定による。テイクアウト商品の販売店がほとんど存在しなかった当時、食料品店が販売する商品とレストランが販売する商品は区別された。今では状況が一変し、この税率上のメリットを利用してスーパーまでがテイクアウトの暖かい食べものを販売するようになった」と2014年7月までガストロスイスの会長を努めていたクラウス・キュンツリさんは言う。

 こうして、同じコーヒーとパンでもレストランではテイクアウトより税金が多くかかるのは差別だとガストロスイスは主張し、イニシアチブで平等な付加価値税率を要求している。

政府は税収入の減少を危惧

 一方、スイス政府はガストロスイスの要求は行き過ぎだと見ている。もしイニシアチブが可決され、レストラン業の付加価値税率を下げることになれば、国の税収入が7〜7.5億フランも減少する。

 その結果、国家予算を切り詰める必要性が生じ、特に社会福祉分野の予算が削られる恐れがあると政府は見ている。食料品店で販売される一般の食料品の付加価値税率(テイクアウト商品も同じ税率)を引き上げることもできるが、これまで「食料品は日常生活の必需品」として税率を2.5%に抑えていたため、政府は引き上げに反対の立場を取っている。

 連邦議会では意見が分かれ、左派と中道右派の大部分はガストロスイスのイニシアチブに反対している。「レストラン業者がテイクアウト商品取扱業者と同じ税率を求め、不平等を廃止したい気持ちは分かる。しかし社会福祉的観点からすると、テイクアウトで販売される商品は基本的な要求をカバーする商品といえる。一方、レストランの食事には顧客が利用する店のインフラ、給仕、その他サービス料も含まれている」とプリスカ・ビラー・ハイモ下院議員(社会民主党)は説明する。

 「確かに現状は満足のいくものではないが、ガストロスイスの提案は逆にゆがんだ競合を生み出す危険性がある」とリューディ・ノーザー下院議員(急進民主党)は言う。「レストラン業者の経営が苦しくなったのは付加価値税のせいではない。人々の食習慣が変化し、昼休みに時間をかけずに手早く食事を済ませたい人が増えていることが大きい」。また、レストラン業の税率を下げれば、その他の業種も追随するに違いないとノーザー氏は続ける。

生き残りをかけた戦い

 連邦議会でガストロスイスの要求を支持しているのは右派の国民党だけだ。「レストラン業界は経済の中で非常に重要な分野だ。ホテル業界と合わせて21万人以上の雇用があり、これは労働力人口の5%に相当する。こうした産業はもう何年も生き残りをかけて戦っている。このイニシアチブは他に特権を求めているわけでもなく、単にテイクアウト商品取扱業者と同等の付加価値税率を求めているだけなのだから、支持するのは妥当だ」とシルビア・フリュッキガー・ベニ下院議員(国民党)は強調している。

 ベニ氏は他にもイニシアチブを支持する理由として「政府は過去数年にわたり、健康でバランスの取れた食事をするよう多額の費用をかけて国民に呼びかけてきた。レストランならこういった食事を取ることができる。また、昼休みに気持ちを切り替えリフレッシュする環境も与えてくれる。今日の付加価値税システムはファーストフード、そして短時間で食事を済ませる習慣を助長している」と主張している。

ガストロスイスのイニシアチブ

外食ホテル協会「ガストロスイス(GastroSuisse)」は「レストラン経営者に不利な税率差別の廃止運動」 に11万8千人以上もの署名を集め、2011年9月、連邦首相官房にイニシアチブを提出した。

このイニシアチブでは、小売店、テイクアウト商品販売店、レストランという業種の違いに関係なく飲食物に同一の付加価値税率を当てはめることを要求している。

ただし飲食店で販売される酒類とタバコは例外としている。

スイス政府と連邦議会の過半数はこのイニシアチブに反対している。連邦議会の討論の際、国民党と中道右派の政治家数人だけがイニシアチブ支持の意思を表明した。

スイスの付加価値税(VAT

スイスは欧州で付加価値税が最も低い国の一つ。

日本の消費税は一律だが、スイスの付加価値税(VAT)は、商品の種類によって異なる。

商品の大半に8%の付加価値税がかかるが、ここ数年、経営難にあえいでいたホテル業には特例の税率3.8%が適用された。

「生活必需品、社会的、文化的に重要な商品」とされる一連の商品(小売店で販売される食料品、医薬品、書籍、新聞など)の付加価値税は2.5%。

付加価値税を免除されているものは特定の社会的、文化的、スポーツや教育的なサービス、及び医療関連事業。

スイス政府の税収入の中で付加価値税は最大の比率を占め、2012年には224億フラン(約2兆6千億円)の付加価値税が国の税収入になった。これは税収入全体の3分の1以上に相当する。

(独語からの翻訳・シュミット一恵 編集・スイスインフォ)

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