スイスでは数年前、最低賃金制度の導入案が国民投票で否決されたが、左派勢力はいまだ諦めていない。月23フラン(約2600円)の最低賃金を主要3都市で導入するイニシアチブ(国民発議)が提起された。
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チューリヒで働く労働者のうち1万7千人は賃金がこの水準より低く、月収は額面で約4000フラン――労働組合や政党、慈善団体らによるイニシアチブ発起委員会が16日、こう説明した。6500フラン前後のスイスの平均賃金を大きく下回る。
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チューリヒ市や近郊のヴィンタートゥールやクローテンで最低賃金が導入されれば、複数の仕事を掛け持ちしてもぎりぎりの水準で生活しているワーキングプアが主な受益者となる、と発起委員会はみる。その3人に2人は女性だという。
賃金が最も低いのは販売・宅配サービスだ。ヴィンタートゥールやクローテンにあるチューリヒ空港一体では、清掃員など幅広い低賃金業界が存在する。
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高い生活費
スイスには全国的な最低賃金制度はないが、全26州のうちヌーシャテル、ジュラ州が住民投票で導入済み、ティチーノ州が近々導入予定で、ジュネーブ、バーゼル・シュタット準州は住民投票にかけることが決まっている。ヌーシャテルとジュラ州の最低賃金は時給20フラン。ジュネーブやバーゼル・シュタット準州では23フランとする案の是非を問う。
高額のようにも聞こえるが、スイスでは生活費も世界トップクラスだ。
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生活費
スイスの生活費は他国と比べてひときわ高い。食品やレストラン、ホテルの価格は近隣諸国を大きく上回る。
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20フランの最低賃金は他の国に比べると2倍近い額だ。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、32カ国の実質最低賃金をドル換算すると最も高いオーストラリアで13.90ドル(約1300円)だった(2018年)。ルクセンブルク(13.80ドル)、フランス(11.70ドル)、アイルランド(11.30ドル)、ニュージーランド(11.20ドル)が続く。日本は2017年時点で7.80ドルだ。
米国では連邦の最低賃金は7.25ドルだが、独自の最低賃金を設ける州も多く、たいていは連邦よりも高く設定されている。英国では年齢や職業訓練生かにもよるが、25歳の労働者なら最低賃金は8.72ポンド(約1200円)だ。
「世間並みの稼ぎを」
スイスでは州レベルの住民投票は成功しているが、連邦レベルではなかなか支持が広がらない。2014年の国民投票で、22フランの最低賃金を全国的に導入する案は76.3%と圧倒的多数が反対し、否決された。
当時のイニシアチブはスイス最大の労働組合ウニアが主導した。全国的な最低賃金の導入で全ての人に「世間並みの稼ぎ」を保証できる、と主張。より広範な仕組みの方が、貧困を減らしたり、外国から安い労働者を雇う賃金ダンピングをなくしたりするのに役立つ、と訴えた。
これに対し、連邦政府・議会は最低賃金を設ければ失業が増える、として反対の姿勢を示していた。「働くことは最善の貧困予防策だ」と当時の経済相は主張した。
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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